1章81話 楽へ楽へ

「あー……慣れないな」


 寝たとしてもあまり長くはない。

 そのせいで少しだけダルさが残っている。まぁ、寝ないよりはマシだし昨日に比べれば睡眠時間は長いからな。だが、寝る前にあれだけの疲れがあったんだ。それに比べれば圧倒的に短過ぎる。それでも眠気を感じないだけまだマシか。


 まずは……アレだな。

 四枚の紙とペンを購入する。この二つだけで一万円もする高価品だ。だが、それだけの価値が間違いなくある。やるのは初めてだが……使えるようになれば、この先で困ることを減らせるだろうな。この世界では情報は昔以上に必要になる。


 ボスッという鈍めの音。

 買う度に通販のように段ボール箱に入って落ちてくるのは心臓に悪いな。ただ落ちてくる場所は選んでくれているようでベットの上ではないことだけは感謝する。その配慮を違うところでもして欲しいけどな。どうせ……。


「まぁ、いるよな」


 布団を捲ってみる。

 予想通り潜り込んで寝ている唯がいた。起こさないようにしてくれたんだろう、俺を抱き締めたりとかはせずに猫のように中で丸くなっている。そのせいで余計に愛らしさを覚えてしまうけどな。こういう状況じゃなかったら襲っていた。……あの頃の俺とそういう関係になっても何もメリットはなかっただろうが。


「……悪いな」

「くぅん……」


 鳴き声は子犬そっくりか。

 いやいや、ツッコミを入れている場合ではないよな。やらなきゃいけないこが多くあるっていうのに。顎を撫でた手で髪を軽く梳く。眠りながら喜んでいる唯を後にして段ボール箱を片手に居間へ足を運んだ。


 深夜……さすがに誰も起きていないな。

 今なら菜沙や莉子を襲うのは簡単そうだ。信頼関係が揺らぎそうだから絶対にしないけど。……莉子に関しては襲っても喜びそうだからしたくない。って、そんなことを考えている場合ではないか。一度でも想像してしまうと本当に時間を無駄に使ってしまう。


 段ボールを無理やり開けて中を取り出す。

 紙は……本当に日本にあったのと大して代わりがないんだな。ペンも同じか。ただこれは……説明書通りだな。魔力さえ上手く扱えれば使える使えないの話は関係がないようだ。


「これで一万なら安いかな」


 三十秒もかからなかったか。

 魔力を流した紙とペンには一階層から五階層までの地図と出てくる魔物が書かれていた。さながら攻略本みたいな感じだな。しっかりと湧きポイントも書かれてあるから効率の良いレベル上げなんかも出来るはずだ。


 これは本当に説明通りの魔道具だ。

 紙は魔力を流すことで滲みなく、また大きさも変えられる物で最高だ。それにペンの方もインクに限りはあれど脳内で書きたいと思ったものを一瞬で転写させられる物と書かれていたからな。これで一万は……うん、考えれば考えるほど安過ぎる。本当に流通での価値基準がよく分からない。いや、安いに越したことはないか。


「これをもう一枚……と、六階層から十階層の地図を二枚だな。おし、出来た」


 本当に初心者に優しい魔道具だな。

 簡単に二人に渡すプレゼントが出来た。これで楽にとはいかないだろうが今よりもヒリヒリした戦いが出来るだろうな。さすがに十一階層より上はまだ足を踏ませるわけにはいかないけど。それは本気を出さずに十階層のボスを倒せる程度になってからで遅くはない。


「……帰ってきた時にこれを渡せば良し、と」


 これで先に終わらせて起きたいことは終えた。

 もうそろそろでアテナのポーションも渡されるだろうから今日は少し無理しても大丈夫そうだな。作って貰って売るのも悪くない。……まてよ、だったら元の材料である薬草を買って作らせるのも良い練度上げになるんじゃないのか。取りに行く時間を一気に制作に回せるわけだし。多少は損になっても金で時間は買えないしね。これはこれでアリだ。


 我ながら良い案を思いついてしまったな。

 アテナのポーションが出来次第、そこら辺も視野に入れて考えてみようか。時間停止機能が付いている異次元収納箱とかがあれば俺が付きっきりでいる必要も無いし。……教える名目で一緒にいるのも楽しそうだけど。いつもと違う環境なら動揺したりしそうだしな。まぁ、それはボチボチやるか。


 他にもやっておきたいことはあるが……それは後回しだ。先に昨日と同じくダンジョン攻略、もとい皆を守れるように強くならないと。ある程度、強くなれたのなら剣の熟練度も上げておきたい。グングニールがいつ使えなくなるか分からないからな。サブウェポンは必要だから取り敢えず在り来りだが剣を使えるようにしておこう。銃もありだが……莉子がいる時点でサブでも必要ないか。


 どちらにせよ、グングニールからだ。

 ステータスが武器に見合ったものじゃないし、ましてや槍でさえも十全に扱えてはいない。ステータスのゴリ押しであっても銀か鉄の槍でジェネラルを倒せるくらいには強くならないと。それが槍をマスターしたと言える最低条件だな。


 莉子の家の扉を開ける。

 どこに飛ぶかは自分で選べるからな。本当に拠点はチートスキルだ。これを持っているだけで拠点を置いた場所なら好きなように移動出来るわけだし。それに認めた仲間も使えるっていうのも大きい。まさに使い勝手のいいスキルだ。一家に一台レベルに必須だな。


「さぁて、と」


 まずは気配遮断を使っておく。

 マンティスを欺けるほどには使えるようになったからな。恐らくはオークジェネラルよりも強いだろうから使えて損はない。何よりこれをかけておいてグングニールをぶん回しておくだけで雑魚は簡単に狩れる。先に成すべきことはレベルを五十にあげることからだ。それさえしてしまえば見える世界は一気に変わる……はず。


 俺の固有ジョブが勇者だったしな。

 もしかしたら、あの時ほどの強化は付与師を付けただけでは無いかもしれない。でも、何も強化がされないってことは無いだろう。その時は他のジョブの獲得条件でもクリアしてより良いモノを選んで付け直すだけだ。


「まずは一体目」


 さすがにこれでレベルアップはしない。

 それでも五十までは時間の問題だな。武器のグレードのおかげで軽く振ってしまえば低レベルのオークジェネラルなら楽勝だし時間もかかりはしない。昨日、虱潰しに雑魚狩りをしておいて正解だったな。日を跨いだおかげでビックリするほどにポップしてくれたようで低レベルが多くいる。


 それらを三十分以内に狩り切る。

 まぁ、それは無理でも制限時間内には五十まで上げきれるだろうな。サードジョブさえあれば広大な十一階層も狭い狭いって言えるようになるんだろうか。いや、さすがに言えないか。おし、これで二体目っと。


「ポップして間がなさそうだな」


 オークジェネラルの位置が疎らじゃない。

 詳しく言うのなら見つけたポップ場所から数体の群れでいたというべきかな。凡そのポップ場所とはいっても離れていない場所に数体のオークジェネラルの群れが何個もあったら、その中心ら辺にあるのは分かるしね。まぁ、ポップを見ていないからどうしても予測になりがちだけど。


 予測が当たっているとして……。

 それなら気配遮断で雑魚狩りをするのに時間はかからなさそうだな。近場で二十体はいるわけだし。何よりマンティスが近くにいないのが滅茶苦茶にありがたいな。木々が大きくないのとかも関係していそうだ、知らんけど。


「速度強化は入れても良さそうだな」


 ピリピリ嫌な音はする。

 でも、それすらも気配遮断を極めれば誤魔化せるだろうからね。そういう意味も含めて色んなことを試していかないといけない。例えばだけどアレスみたいに新しい技を編み出すとか。いや、それも二人との模擬戦で結構、作り出したしなぁ。ただ通電からの何かは出来そうな気がする。


「雑魚には使う必要も無いけど」


 オークジェネラルの間に入り込む。

 そのままグングニールで周囲を切るだけで三体の首を跳ねられる。……これで一レベル上がるのか。何かレベルが上がる事に必要な経験値数が比例していないような気がするんだが……細かいことは別にいいか。ファンタジーの世界に化学や論理は必要なさそうだ。


 となると、残り十体くらいだな。

 丁度いい、七体のオークジェネラルのグループが近くにいる。それを倒した後に四体のグループを狩りに行けばピッタリだ。雷魔法での強化が出来るようになった今なら数分で終わるな。……足だけでもゴリゴリとHPが削られているわけだが。


 本当にポップ場所の近くにいてくれて助かる。

 凄い時間短縮になるわけだからな。着いたので真ん中に入って七体のうちの四体の首を跳ねておく。素材は高く売れるわけだし下手に傷付けるなんてヘマはしない。昨日みたいな後悔はしたくないからなぁ。これも菜沙に褒めてもら……もとい、唯達を守れるだけの力を手に入れるため!


「死んでくれ、俺のために」


 太めの雷の矢を作り出し放つ。

 しっかりと頭を狙ったんだから外すわけもない。キッチリと三体のオークジェネラルの頭に三発ずつ撃ち込んでおいた。そして、回収。これで……まだレベルは上がっていない。ここまでは計算通りだ。


 走り込んで四体の後方に回り込む。

 背後からなら無音で……は、雷魔法の特性上、出来やしないけど限りなくそれに近付けたはず。っていうか、後ろから雷の矢を放った後でも振り向いてこない辺り本気で気が付いていない。そのまま新しい矢を撃ち込んで頭だけを飛ばしておく。


 MPは……かなり減ったか。

 さすがにオークジェネラルを殺し切れるだけの極太の矢を一体に三本だ。加えて常時、雷の強化を足にかけているわけだから減っていておかしいことは無い。ポーションを取り出して飲み干しておく。


 こういう時にポーションは頼りになるよな。

 多少の無理がポーション数本で叶えられるし、俺やアテナが作ったものだから元手も安い。仮に買っていたとしてもオークジェネラルとかいう金の成る木のおかげで心配もないし。……って、ヌルッとやったけどこれでサードジョブも解放出来たな。簡単だったせいで何の感動もない。


「それじゃあ、まぁ、やってみますか」


 付与師をタップして三の横に置く。


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洋平の力が一段階、上がりましたね。ステータスに関しては次回に出す予定です。次のイベントから一気に話が進んでいくと思いますので楽しみにして貰えると嬉しいです。考えながら書くので予定が変わることはあると思いますが……。


次回は三月の終わりまでには出したいですね。もし良ければ登録や評価、感想などもよろしくお願いします。貰えると次の話を書こうというやる気に繋がるのでとても嬉しいです!

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