1章80話 成長の中で

 衝撃は強いが痛みは特に無いな。

 それでも重い一撃を受けているだけあって気を抜けばグングニールごと持っていかれそうだ。確実に武器の持ち替えをして良かったって思える。だが、ただ受けているだけというわけにもいかない。いくらかは軽減させてもらうぞ。


「雷壁!」


 背中を守るための壁を作る。

 土の壁とかじゃないから表面が滅茶苦茶にビリビリ言っている。俺は痛くも何ともないが……また服が破けてしまいそうだな。まぁ、それも必要経費だと思おう。この程度の損失なら今の俺には大したことがないだろうし。エゴだろうが何だろうが受け切ると決めた以上、それを反故になんて出来るわけがない。


「こんなもんじゃないだろ」

「当たり前だッ!」


 うおっ、本当に力が強くなったな。

 さっきまでは倒れる心配とかをしながらだったのかもしれない。いや、これでさえも抑えているのかもしれないが……もし超える力を出してくるのなら出してきた時に対処すればいい。凹み始めた背後の雷壁を二重、三重と増やしておく。これはさすがに足の踏ん張りだけでは無理だ。少なくとも雷波や雷壁で削れてはいるはず……その考えも甘いか。


 まだまだ終わらないつもりでいかないとな。

 これだけ受けに待ったんだ。ただデカい一撃を狙っていたと高を括るのは危険過ぎる。もしも俺の望み通りのことが起きているのであればアレスはこれで終わりなんてしない。なんだかんだいってチートの俺が簡単とはいえ、アレスにあったスキルや武器を弄っているわけだし。


 それだけ期待しているんだ。

 目の前のアレスは間違いなく強いからな。多少は背中を押さなければいけないだろうが、それを加味しても手元に残しておきたい逸材だ。まぁ、俺より弱いがチートを持つ唯達と肩を並べることくらいなら出来るとは思う。


「ただ殴るだけか」

「ああ、俺にはこれでいい」


 俺には、か。


「それだけでは」

「勝てないだろうな、一人なら」


 なるほどな。

 だが、それならその言葉は口にしない方が良かった。どうせ、ハデスが俺目掛けて……?


「吹き飛べ」

「がァァ! いってぇ!」

「は?」


 って、ヤバい!

 がっ! 痛った! マジか、腹にモロに入ったせいですげぇ痛え!


 そうかそうか、俺目掛けてでは無くアレスの補助として動いていたのか。全然、頭に無かった。背中を蹴って加速させるとか、仲間割れにしか普通は見えねぇよ。ってか、ハデスのこと滅茶苦茶に睨んでいるし。


「加減しろやァ!?」

「加減をすれば意味が無い」

「ハァ? こっちの体も労われよ! 痛いんだよ!」

「なるほど、労われと痛いをかけたか」

「かけてねぇが!?」


 ……お、おう……これはアレだな。

 喧嘩するほどに仲がいいってことか。まぁ、確かに今の一撃は加減を失敗すればよりアレスへダメージが入っていた可能性がある。風属性が付与されている短剣をあげたとはいえ、アレスへの強化は出来ないしな。これが手っ取り早いのは分かるが……すごく手荒いやり方だ。


 だが、それだけの価値がある方法でもあった。

 現にアレスの取っておきを俺に無理やりに食らわせることが出来たわけだし。自己治癒能力が高いとはいえ、未だに痛いし完治はしていない。この威力なら……あの時のオークジェネラル相手でも楽勝でボコせるんじゃないか?


「まぁ、そんなことは後回しだ。それでどうするつもりだ?」

「まだ言い足りないことはあるが……さあ、どうしようかね」


 二人の矛先が変わった。

 言わずもがな俺への攻撃をどうするかって話だろうな。ここ最近で一番に大きなダメージなんだが、まぁ、命に別状はないし意識を飛ばせることが出来たわけでもない。個人的には大ダメージを受けたんだが、二人からすれば大したことが無いように見えているだろう。もちろん、愚直に追撃をしてくるのならば撃ち落とすだけだが……。


「俺の本気を受けてあの程度だぜ」

「さすがに主に相応しき化け物具合。とはいえ、本当に打つ手がなさそうだ」


 徐々に傷が癒えているのは明白。

 だが、ただ攻めても反撃に遭ってしまうだけ。話し方からしてルインとかいう技は長時間の発動が出来ないか、回数に制限があるって感じか。かなりステータスが離れている相手にこれだけのダメージだしな。見合った制約があっても何ら不思議ではないか。


「背後は取れないぞ。過去に見破られている」

「お前が何度も半殺しにされた時だな」

「今では良い思い出だ。だが、忠誠を誓った日という言い方をしてもらいたいがな。それでは聞こえが悪過ぎる」


 でも、半殺しにしたのは事実だしな。

 アレスが軽口を叩きたくなるのは分かる。口ではハデスの方が優勢だろうし。だが、俺から反論させてもらえるとすれば仲間にならなかったハデスが悪いな。あそこまでする価値がある逸材だと思っていたからこそ、本気で従えさせるための最善策を選んだだけだ。


「次が最後の一撃だな」

「分かった、それに合わせよう」


 方向は決まったか。

 まぁ、俺が出来ることは二人の本気を受け止めるだけだしな。楽しみに、それでいて本気で二人を倒すつもりでいこう。俺の方針の悪いところも今回の模擬戦で幾つか知れたからな。本当に良い機会だったと思うよ。……だからと言って負けてやるつもりもないが。


 ハデス単体ならば俺には敵わない。

 それは最初でよく分かったはずだ。


 アレス単体でも俺には敵わない。

 それは今の一撃で分かったはずだ。


「ふん!」

「手加減は、要らねぇ!」


 銀の剣を取り出して向かってきた拳を止めた。

 が、手加減は要らない、ね。それなら何で俺の手に持つ剣は折れず、俺自体を飛ばすことが出来ないのか。それに……何も加減をして武器を入れ替えたわけじゃない。


「これが俺なりの戦い方だ」

「な、るほど、な!」


 グングニールは確かに強い。

 でも、武器としての特性を変えられるわけではないからな。広い場所とはいえ、何度も何度も振り直すわけにはいかない。小回りが利く方が素手を得物にする奴との相性はいいわけだ。それは短剣を持つハデスが相手でも変わりがない。


「雷……」

「さすがにバレるか」


 こんな状況でマップは開けない。

 それに注視していたわけでもない相方の位置を探ることは不可能に近いからな。手っ取り早く不意打ちを受けない方法を選んでみたが……まぁ、そこら辺の勘は冴えたままか。いや、この戦いのおかげで思い出し始めてきた可能性も……それこそ、どっちでもいいか。


「おい」

「あ?」

「楽しいか」


 勝手に自分の世界にトリップしていた。

 それでもアレスは楽しんでいただろうか。不意に怖くなって喉から漏れてしまった。俺は楽しいが果たしてアレスも同じだろうか……いや、この表情からして聞かなくてよかったな。


「愚問!」

「なら、いい!」


 銀の剣に雷の魔力を流す。

 最前線で戦うアレスならば分かるだろう。潰すのならアレスからだ。俺を倒せる可能性のある、それでいてハデスを自由にさせられるアレスは一番に脅威だしな。殺す一歩手前の取っておきをーー。


「痺れておけよ」

「やってみろや!」


 高密度の魔力を取り込ませたんだ。

 微かに掠るだけでオークジェネラルでさえも痺れさせられるはず。それにどうやって対抗するのか。って、聞くのもまた愚問だよな。俺を倒せる可能性があるのはアレスからしたら一つしかない。


「衝波滅殺」

「雷切」


 魔力で強化した銀の剣だ。

 アレスであっても易々と壊されはしない。と、思いはしたがそれは甘く見過ぎだな。最初の時のような隙は作らせてくれないだろう。


「ッ!」


 銀の剣じゃ持たないか。

 いや、いい! 刃先がないなら作ればいいだけのことよ! それが俺のイメージを具現化させてくれる魔法という奇跡だ! 折角なんだから武器のスペックに頼らない俺の本気を見せてやろう!


「通電」


 魔法でステータスを強化出来る。

 それは調べた時に色々と学ばさせてもらった。火なら物理面で、水なら治癒面で、風なら速度面で、土なら防御面で……みたいな感じだな。アレス自体も魔法を使えていないだけで才能はあるはずだ。ハデスも風魔法の才能があるわけだし。


 そして雷は何を強化してくれるか。

 上位魔法に分類されるらしい雷魔法での身体強化はかなりの効果がある。特に風の速度と火の物理面の強化をより大きくしてくれるからな。でも、そのデメリットもかなり大きいものになる。今だって体全体に雷を流してHPがゴリゴリ削られているわけだしね。だからさ。


「早めに終わらせよう」

「それを待っていた!」


 待っていた……?

 続きを聞く前に理解した。明らかに体全体を通っていた雷が弱くなっている。って! 油断してはいけない!


「最後の一撃だ! 衝波滅殺ルイン!」

「がっ……!」


 ヤバい! マジでヤバい!

 連撃こそないが食らった一撃が重過ぎる! アレスは倒れてくれたみたいだが! すぐに攻撃を切り替えられねぇ! 早く! 早く体制を立て直さないと!


「雷切!」

「効きません!」


 これは……霧か……?

 いや、そうだったな。アレスがルインとかいう技を覚えたんだ。互いが互いを意識していたんだから対処出来る技を覚えていてもおかしくはない。雰囲気的には強化を打ち消すとかか。今だって切ったのは本当に霧だけ、そこに直前まで見ていたハデスの姿はない。……が、それまでだな。


「通電」

「な……!」


 消せるのにも限界はあるだろ。

 多少は放出するよりもコストパフォーマンスは良いだろうが、MPに関しては俺とハデスでは馬鹿にならないほどの差がある。それを多少のコストパフォーマンスだけで賄えるか? いや、無理があるだろうな。


「ハデス、諦めろ。さすがに体が持たないだろ」

「それは……」

「このまま雷扇を使ってもいい。でも、そうした時にハデスが、アレスがどうなるかは分かるよな」


 負けるわけにはいかないから脅させてもらう。

 俺もこのまま魔法を撃ちたくはないからな。体全体を流れる雷ごと外に放出するから威力が馬鹿みたいに上がるだろうし。それをした場合に全てを出し切ったアレスがどうなるのかは明白。


「見込み違いだと言ったのは謝ろう。二人はそれだけ強くなっていた。だから、諦めて欲しい」

「……」


 すぐに首を縦に触れないのはアレスのせいか。

 一番に勝ちにこだわっているだろうしな。それに本気で俺を倒そうと覚悟を見せていた。ここで負けを認めたら、それらを無下にするようなものものだし。


「本気を出させた、それだと功績にならないか」

「いえ、そう考えると確かにすごいことですね。少しばかり意固地になっていました。申し訳ありませんが……降参です」


 隠れていたつもりだろうが……まぁ、あれだけの時間があれば場所は分かる。そこに向けて剣を構えるだけでハデスからしたら恐ろしいだろうな。俺ならば失禁していた可能性すらある。いや、さすがに言い過ぎたか。


「お疲れ様」

「……予想通りだが勝てなかったか」


 軽口を叩く割には良い笑顔だな。

 負けは負けでも気持ちがいい負けだったか。もしくは俺との戦いで何か得るものがあった可能性もある。わざわざ何を考えているとは聞かないけどな。さすがにそれは野暮だ。また模擬戦でもして、その時に知ればいい。


 アレスを担いで肩に腕をかけさせる。

 これが莉子ならば……と少しは思ってしまうな。莉子を認めてからは何とは言わないが大きいのも良いように感じられてきたし。今更だがさっき見た時も出会ったばかりの時より大きくなっていた気がするな。最終的にどこまでいくのか楽しみだ。


「悪いな、運んでもらって」

「それが仲間だからな、気にすんな」


 ポーションはやはり凄いな。

 アレスを普段から使っている部屋まで運んでいる最中に、それこそ一分間程度で傷の半分近くは癒えているし。これなら明日までには完治してそうだ。ハデスはハデスで違う部屋のベットで体を休めている事だし。


 今夜はやることが多いな。

 起きられるか心配だが……そこは俺の体が仮眠で済ませてくれることを願おう。起きれなかったら起きれなかった時だ。唯達に寝る前に一言だけ告げておいて一人、ベットの中に潜り込んだ。



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この作品を書くのは楽しいですね。もう少しだけ日常を書くので楽しんで貰えると嬉しいです。後、前回の79話を少しだけ書き直しました。時間があれば読み返してみてください。今回の話も多少ですが書き直しするかもしれません。その時には随時、後書きにて報告させていただきます。


個人的には三月中にもう一話くらい出せるようにしたいですね。良ければ登録や評価などもよろしくお願いします。作者が喜んで書く意欲に繋がるので投稿頻度が増えるかもしれません。


ではでは、また次回をお楽しみに!

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