1章79話 強さを求めるが故に

「ここら辺でいいか」


 俺達が飛んだのは言うまでもなく五階層だ。

 ダンジョン内ならば幾らでも壊していいし、何よりボス部屋ならばある程度の広さを確保出来る。こういう時に自由に使えるダンジョンがあって良かったって思えるな。願わくば俺自身が制御できるようにしたいが……まぁ、それもいつかは出来るようになるだろう。


「ちょっとだけ待っていてくれ」


 二人を置いて現れた魔物の顔を見る。

 変わらず雑魚の純オークが多数と単体のオークジェネラルだけだ。ボス部屋は固定シンボルなんだろうな。もう少しだけ調査は必要だが……事実なら自身の強化に使えそうだ。四人がやられかけたボス階層をクリアさせるのも自信に繋げるのに良いかもしれない。


「悪いな、お前らとは遊べないんだ」


 グングニールに雷を宿し横に広げ撃つ。

 少し多めのコストだとはいえ、範囲と威力に関して言えば今のところ勝るものはないな。何より時間効率が馬鹿みたいに良い。早く倒して仮眠を取りたいっていうのもあるからな。深夜のために無駄な戦闘で時間を使いたくない。どうせ倒すのなら今の俺が行ける最高階数でって思うのはおかしくないだろうし。


「……流石ですね」

「ああ、この程度なら楽勝だな」


 十一階層のオークジェネラルと比べたらな。

 あそこら辺まで行くと今の一撃だけでは確実に倒せはしない。それこそ分断させて一体一体、個々で潰していく方が一番に手早くて楽だろう。言うことを聞かないグングニールを従わせるのなら本来の力を使った方が良いからな。本当にじゃじゃ馬だよ、コイツは。


「褒め言葉は後でいい。本来の目的を先にしたいからな」

「それもそうですね」


 これくらい出来なければっていう思いもある。

 上に立つものとしての面子って言えばいいのか。まぁ、無いよりは有った方がっていうだけではあるんだけど。後は裏切る可能性がゼロとは言えないしなぁ。それは何も二人に限った話ではないけど。色々な可能性を考えれば力を見せつけておく必要性はある。人望と金だけで人を動かすなんてチートのない俺の基礎ステータスでは無理だ。


 とりあえず模擬戦をしないとな。

 さすがにグングニールはチートだから使わない方向で。そうなれば二人を相手取れる武器が必要になってくるな。ただの鉄の剣とかでは間違いなく壊されて終わりだ。なら……。


「うおっ」

「悪いな、武器を買ったんだ」


 某ショッピングサイトのように段ボール箱が重量のある音を立てて地面に落ちる。ガサガサと中を開けるとそこにあるのは確かに注文した大きめの片手剣だった。属性付与とかは無い剣……だが、素材が銀で魔力の通りが良く付与術との相性も良い俺にピッタリの物だ。もちろん、初めて使う獲物だし片手剣は世界が変わった後の中学校以来だから上手く使えるかは分からないけど。


「二人を相手にするならこれで十分だ」

「……否定は出来ませんね」

「いや、俺は否定するからな! 絶対にぶっ潰してみせる!」

「なら、来い!」


 二人のやる気を無理やり出させる。

 というか、これくらいは煽っておかないと面白みを感じない。やるのならば本気の二人と戦いたいっていうのは俺の性だろうな。成長を肌で感じるのならば俺らしい武器でっていうのもワガママだ。


 手をクイクイと前後に動かす。

 二人ならではの戦い方で来て欲しいからな。簡単な予想はつくが……果たしてその想定とどれだけの差があるのか。とても楽しみだ! カッコつけた言葉にするのなら俺の剣のサビにしてやろうとかか! いやいや……そうなるとただの厨二病だな。口にしなくて本当に良かったよ。


「行きます」

「付与・イカヅチ


 一瞬で腹に潜り込んできたのはハデスだ。

 これに関しては想定内、足の早い存在が敵を掻き乱すのは定石だからな。それでもただ早いだけなら俺には効かない。ハデスの短剣を銀の剣で弾いて浮き上がった腹を蹴り上げる。


「ガッ……!」

「愚直に攻めるのは無意味だ」


 そもそも雷が付与された銀の剣だからな。

 それに間接的にとはいえ触れてしまったハデスの右手も軽く痺れているんだろう。だが、痺れても短剣を離さないのはさすがか。蹴り上げも空中で体制を変えて蹴りを入れようとしてきて上手く活用しているしな。だけど……。


「それも愚直だ」

「はっ……!」


 速度に関して言えば今はどっこいどっこい。

 目で追えるし避けられる速度でもある。なら、避けてから足を掴んでしまえば後は俺の好きに自由自在だ。……まぁ、そんなことは許して貰えないのは知っているけど。


「ふっ!」

「雷壁」


 無理やり上半身を起こして短剣を向けてきた。

 でも、動けなければ攻撃出来る範囲はかなり制限されてしまうよな。何より……。


「アレスが来ているのも分かっている」

「何!?」

「グッ……」


 隙を突いたつもりなんだろう。

 でも、少しばかり遅いな。この様子だと自分より格上の敵を共闘で倒したことは無いんだろう。かなり動きに無駄がある。雷魔法を使ったところを隙だと思ったんだろう。確かに通常の魔法使い相手なら時間をかけて魔力を練るからな、考えは間違ってはいない。だが、相手はチートを持つ俺だ。


 ハデスを武器のように振ってアレスを飛ばす。

 一緒に緩んだ手からハデスも飛んでいったが……仕方ないか。これ以上、掴んだままだと本当にハデスは何も出来ないままで終わってしまうし。成長は間違いなくしているが……うん……。


「二人ともが二人の対処法を知っているだけのようだな。自分を倒せる存在が肩を並べているハデスか、アレスかしか無かっただけだろうが無意識に体を任せすぎだ」


 明らかにハデスは速さを過信している。

 それこそ、アレスに唯一勝っていたのが速さだから仕方はないんだが……それを許してはいけない。敵が俺だから命までは取られなかっただけで、オークジェネラルが相手ならば殺されていたぞ。


 アレスもそうだ。

 自慢の力に頼るのはいいが昔のような間合い管理が出来なくなっている。ハデスの一撃が狭い短剣での一撃だからだろうな。銀の剣と短剣では刃先が七十センチは違うわけだし、力でも俺には負けている現状での安易な詰めは甘過ぎる。


「買い被り過ぎたみたいだ」

「ッ!」


 例えチートだとしてもアレスのことだ。

 てっきり、もっと強くなっていると思っていたのだけれど。あの時に共闘して倒したアレスとは比べ物にならないほど判断が鈍い。唯達と同レベルで強くなれると思ったし強化も入れたのに……それ以上の結果は出してこないか。


「勝手な!」

「ああ、身勝手な言動だと思うよ。でもさ、今のアレスなら多分だが莉子であっても簡単に倒せるだろうな」


 野生の勘と言うべきかな。

 攻めの判断は悪くないがテンポが遅くなってしまうのは、どこか安心感があるからか。少なくともアレスが俺の元にいる理由の一つとしてアテナが関係しているだろうしな。あの子が平和に暮らせる、美味しいご飯を食べられるってなれば野生の勘が多少は鈍ってもおかしくはない。


 あの時の唯達とアレスの差が逆転している。

 生きるか死ぬかギリギリの生活の中で得ていたものが薄れていくのは良くない。口にする必要が無いと言われればそれまでだが……アレスを思うからこそ言わざるを得ないんだ。いつまでも俺の元にいられるって確証がないわけだし。いや、それを制限していたのは他でもない俺自身か。


 なら……。


「本気を出させてやるよ」

「チッ!」


 殺すつもりでアレスに向かう。

 怪我でハデスが動くのに時間がかかるからな。今は俺という存在をアレス一人で流す必要があるだろうし。思い出させてやろう、少し前の勘とステータスの高さの両方を兼ね備えた最高の存在を。


「雷扇」


 薄く伸ばした雷の一撃。

 それでも、あの時とは比べ物にならないほどの威力を持つ雷魔法だ。弾くのも精一杯、いや、下手をすれば今の差では大怪我で済まないかもしれない一撃。躱すにしても広範囲だから逃げ場は薄いだろう。それにただ逃げただけでは……。


「フンッ!」


 徐ろにダンジョンの床を殴っていた。

 硬く壊れにくいはずの地面がせり上がって大きな壁へと変わる。雷扇の攻撃を防ぐための壁だろう。確かに雷扇の一番の弱点は床を這う雷を出すだけであって、這っている場所から他方へと範囲が広がらないことだ。ダンジョンの壁ほどの硬さがあれば雷扇くらいは防げるしな。それに上に隙間がないから這ってアレスの元まで被害が行かない。


 この行動は間違いなく正解だと思う。

 なぜなら後ろには飛ばされて動けないハデスがいるはずだからね。もしかしたら気配を遮断してどっかに隠れている可能性はあるし見えているハデスも本物じゃないかもしれない。ただ、どちらにせよ自分と仲間を守る何かが必ずいる。魔法を使えないアレスからすれば無理やりに作り出すしかない。


「本当に……敵に回すと嫌な技だな」

「これぐらいしか取り柄がないからな」


 だが、そこで安全な場所を作られても困る。

 咄嗟に反応して対処したのは偉いが、それでも最低限の動きを見せたに過ぎない。見たいものはもっと先の、一緒に戦った時の本気で格上を倒しに行く姿と覚悟だ。大きな差が開いた今だからこそ、アレスの良さを再び思い起こさせたい。


「来いよ!」

「うる、せぇっ!」


 壁を思い切りぶん殴る。

 この程度の硬さなら俺でも壊せるな。もう一発、次はアレス自体をぶん殴ってやるよ。どこか最初に殴りあった時の高揚感を感じられる。本当に強い奴と戦うのは楽しい。単純にステータスが高い奴と戦うのも楽しいが芯が強い奴と戦うのも本当に心が踊ってしまう。戦闘狂なのは否定するが戦いを楽しくないとは決して言えないな。


「バレているぞ」

「……そうですか!」


 横から現れたハデス。

 ここまでは読めていた……だが、甘かった。元より俺への攻撃を目的としていなかったみたいだ。手を絡め取られ四肢の動きを制限されてしまう。数秒あれば楽に抜け出せるだろうが……さすがにそうさせてくれるわけもないか。


「雷壁!」

「死ぬなよ! 衝波滅殺ルインッ!」


 無理やりに雷の壁を作った。

 一枚では決してダメだ。作るのであれば何重も必要になってくるだろう。逃げるのは……ハデスを無視すれば出来る。でも、それは俺の本意では決してないな。ここまで狙っていたのか……面白い!


「雷波ァァァァッ!」

「がァァァァ!」


 自由に出来るのは口のみ。

 ならそれを活用するまでだ。大声に魔力を流して一つの魔法にする。少なくとも雷扇よりは重たい一撃のはずだ。それに……真っ向から向かってくる。アレスらしいと言えばアレスらしい。さすがは戦の神を司る名前を授けた存在だ。ハデスを殺させるわけにはいかないが……望み通り攻撃は受けてやる。


「転移! 来い! グングニール!」

「吹き飛べ!」


 刃に拳がぶつかる。

 そのままならば確実にグングニールが飛ばされてしまうからな。確実にグングニールの反対側に左肘を当てて衝撃を受け止めてやる。全てを受け止めた上でアレスから勝利を得てやろう。


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 続きが書けましたので投稿しました!

 やっぱり片方を書こうと思ってしまうと、もう片方が手につかなくなってしまいますね。今以上に小説を書かなかった時代から始めた作品ですのでプロットなんかも曖昧ですが、書いていて、考えていて楽しくて辞められなくなってしまいます。ですが、次回が同じような頻度で投稿出来る自信がありませんのでご注意を!


 もし面白かったり興味を持っていただければ評価や登録等お願いします! 書こうという意欲に繋がりますし、もしかすれば投稿頻度が早くなるかもしれません!


 ではでは、次回をお楽しみに!

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