1章74話 憂い

少しだけ眠い、洞窟の中だからかダンジョン内は夜風のような涼しさを感じられる。目を擦る、眠気はあっても倒れそうになるほどでは無い。これが買ったばかりのスキルのレベル一での効果だろう。


レベルを上げようか、そう考えたこともあったがやめた。悪いが自分のワガママのために不必要なスキルレベル上げに回したくない。お金やポイントに関しては持っていて損はないからな。それに一人で戦いに行くのを繰り返していれば勝手にレベルも上がっていくだろう。今、必要なものでは無い。


十一階層目、そこは景色が違う。

最初に自分一人で来て正解だったかもしれないと自画自賛しておこう。ここは……一言にまとめるのなら地獄だな。一つの区切りがついたからかもしれないが入ってすぐに見えた空間は……森の中と言えばいいか、木が立ち並ぶ異様な場所だった。


そして最初に見付けた魔物も……。


「オークジェネラルが四体……」


十階層のボス。

それが我が物顔で歩いているのだ。その光景からして目の前の四体だけとは思えない。きっと外の世界と変わらない、オークジェネラルが平均の群れがここにいるのだろう。洞窟の中ならば正解の道だけを進めば正解だったが森となると、そんな道はどこにも無い。


「ブ……ブォォォ!」

「気付かれた!」


見ていた時間が長過ぎた。

それならばやることは決まっている。どうせ、ここに来た目的もそれだからな。強い敵だろうが何だろうが、せいぜい、俺の糧となってくれ。グングニールを構えて目の前の豚と対峙する。


四体、それでも速度は遅い。

オークの良さはタフさと攻撃力の高さだ、代わりに速度が極めて遅いことと魔法に弱いこと。まぁ、ジェネラルともなれば魔法一つで圧勝なんてことは出来ないけどな。それでも、この武器があれば話は別だ。刺して魔力さえ流せば敵は死ぬ。


「雷扇!」


まずは足を奪う、仲間が居ない今ならば後衛を気にせずに全方位に魔法を流せるからな。動けなくなれば後は簡単な仕事が残る。


「飛べ」


数秒の痺れだろう。

その時間があれば十分だ、俺は距離を詰めて二体の首を飛ばした。近くにいたとはいえ、さすがに槍が届かない。だが、四体という数の脅威を少しでも減らせただけ良いだろう。


残り二体を睨み付ける。

知性が無いくせにブルっと体を震わせていた。言ってはなんだが気持ちが悪いな。手に魔力を込めていく。二度目は通用しない、もしそうなったらそうなった時だ。地面に手を付けて再度、雷扇で雷を地面に這わせた。


結果は……言うまでもなく成功だ。

距離を詰めて首を飛ばす。使った魔力も大したことがないから雑魚狩りよりも効率がいいな。一体で半月は暮らせる素材と大量の経験値、ポイントが懐に入ってくるんだ。今は経験値共有を切ってあるからっていうのもありそうだが、本当に凄い経験値が入ってきている。レベルは……それでも上がったのは一か。ここまで来るとレベルも上がりづらいのは当然だよな。だが、レベルが一しか上がらなくてもステータスはジョブ補正か高いから構わない。それに四体で一なら完璧に楽だろうしな。


「とはいえ……さすがのチート性能だ」


恐らくだけどグングニールが無ければもっと苦戦していたと思う。というのもレベルが上がる前は強化込みでステータスが千八百程度、MPが桁違いに高いくらいで他は大したことが無かったからな。そのステータスとさして変わらないのが目の前の遺体四つだ。速度のアドバンテージがあったとしても数の暴力で負けていた可能性はあった。


それを一分とかからずに倒しきったんだ。

長引けば長引くほどに新しい敵が現れるだろうし短時間で倒せて損がないダンジョンの中で、ここまで効率的にレベルが上げられるのも愛槍まなぶきだからこそだろう。感謝するしかないな、これのおかげで無茶が出来る。……後は好きじゃないが勇者というジョブにも感謝はしておくか。今だけはファーストジョブに入れておこう。


「次はどこへ行くか」


マップ自体は使えるから悩んでしまう。

広過ぎるが故に終わりが見えないのは面倒だが、敵の場所を知れるだけ良いだろう。情報のアドバンテージがあって損することは無いからな。だが、分かるからこそ次はどうするかと悩むキッカケになってしまう。安直に近い場所が好ましいか、仮にそれで考えると……知らない名前の魔物が四体とオークジェネラルが六体の場所、後は高レベルのオークジェネラルが二体の場所があるな。


知らない魔物はまず選択肢から排除だ。

出来れば強くなってから戦うのに越したことはないからな。マンティスと付いているから十中八九で蟷螂だろうし警戒した方がいい。捕まえようとして指を切った経験があるからアイツらがどれほど強いかはよく知っているし。


次に高レベルも排除だな。

出来れば強い敵の中での雑魚を狩りたい。万が一の転移があっても用心はしておくべきだし。ってか、仮に大怪我を負ったら皆に夜中の単独行動がバレてしまうからな。そういう意味でも無しだ。


となれば、消去法で六体か。

苦戦はしないだろうが……いや、まずは戦ってからにしよう。戦う前に悩んでも意味が無い。危なければヒットアンドアウェイ、とは違うが転移で逃げればいいだけの事。転移は……オッケ、近距離だけど使えたから問題は無いな。


スキルレベル一だからあまり長居は出来ないだろうから目標だけは作っておこう。えっと……ステータスを出して……っと。




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カナクラヨウヘイ

種族レベル 43

ジョブ 1.勇者 2.召喚士

HP 10250

MP 18350

攻撃 1625

知力 1730

防御 1625

精神 1625

俊敏 1625

魅力 500

幸運 500

スキル 身体強化10、経験値増加10、ポイント増加10、異次元流通5、異次元倉庫10、槍術10、マップ10、拠点10、付与10、鑑定10、召喚10、調教6、追跡4、気配遮断5、不眠1

固有スキル 神殿

魔法 刻印10、拘束10、空間10、火6、水6、雷10、生活

ポイント 102893

ログ 表示する

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なるほど、これなら……。

そうだな、今日中の目標は……レベル五十を超えてサードジョブを付けることだ。セカンドジョブの召喚士を付与師に変えられればステータスも爆上がりするだろうし。よっぽどのことがない限りは死にかけることも無くなるだろう。


付与師に就けたら……上がるのは物理攻撃方面だろうな。それならグングニールとも相性がより良くなるだろうし、グングニールに付与するっていう荒業も楽に出来るかもしれない。他のジョブでこれといって就きたいものもないし……付与師でいいかな。こう考えると神殿を買って本当に良かったと思えるよ。


一応、気配遮断を使っておいて真っ直ぐにオークジェネラルの元へ向かう。途中でバレて援軍を呼ばれるのは馬鹿らしいし。使うか使わないかでリスクが高くなったり低くなるのならば、無駄になったとしても絶対に低くなる選択を取った方がいいに決まっているからな。


数十秒間、走ってオークジェネラルの背後を取る。

とは言っても、少しだけ距離を置いて俺の位置はバレないようにした。距離を詰める手段はあるわけだし、一回で六体もの数を倒しきれるとは思っていない。準備をいくらしたとしても命には変えられないからな。


「まずは一体」


気配遮断を使ったままで転移をして遅れていた一体の背後を取る。そのまま口元を手で押さえ付け首元を掻っ切って回収だけしておく。……成功だ、声も出せないままに一体を排除出来た。四体は二体ずつで隣合って歩いているし、もう一体は前を歩いているから倒すのは困難だと思う。ならばーー。


「バインド」


少し扱い慣れていなかった分だけ展開に時間がかかったが何とか五体を押さえ付けることに成功した。さすがはスキルレベル十だ。あのオークジェネラルでさえも地面に突っ伏したままで動けなくなっている。声を上げようにも敵の姿が見えていないし困惑したような顔だな。後は……。


「口を閉ざさせる。雷扇」


五体の体を痺れさせ口を回らなくさせた。

これで大声をあげられる心配もなくなったし首を飛ばすだけ。最初に一体を倒せて良かったよ。前に一体、後ろに一体で三百六十度、警戒していたわけだからな。最後尾さえ倒してしまえば真後ろはガラ空きになるということだ。そうなれば俺の思い通りにやれば負けることは無い。


「念には念を、と」


距離を詰めて首を跳ねて即座に回収しておく。

この間も魔力を使う羽目にはなるが気配遮断は発動させておいた。ようやく見えた敵の正体に怯えた顔をしているが……まぁ、恨むのならダンジョンで生まれてしまったことを恨んでくれ。これでレベルがまた一上がってくれた。少し距離を置いてマップを開く。


レベルの上がり方からして四十二から四十三でオークジェネラルが四体、その次が六体だ。仮に二体ずつ増えることででレベルが一上がるとするのならば後は……七十八体か。多過ぎるってわけでもないが面倒ではあるな。それならマンティスとかいうのを倒しに行ってもいいが、それはそれで心配だ。ならば。


「高レベルのオークジェネラルを狩るか」


待っていても意味が無いし、目標がある以上は出来る限りのことをする。それならばそのまま進んでマンティスと付く魔物と戦うよりは、姿形や特徴すら分かっているオークジェネラルを倒した方が確実に手っ取り早い。……まぁ、高レベルのオークジェネラルを倒した後にでも異次元流通の素材欄からでもマンティスとかいうのを調べておこうか。オークジェネラルだけなら今日中は難しそうだしな。倒すことも一応は視野に入れておいた方が吉だ。


「まぁ、それも先に倒してからだ」


何をするにも倒せなければ動けないしな。

グングニールと魔法で倒せはするだろうが油断が一番に恐ろしいことだとは知っている。何を隠し持っているかすらも俺が知っているってわけではない。馬鹿みたいに「わあぁ」と突っ込むわけではないが油断するっていうのはそれと変わりがない。


気配遮断をかけ直して目的地まで歩く。

焦る気持ちはあっても走っては決していけない。人自体の気配は消せても足音までは消し切れないことを使っている時に理解した。さっき走っている時に木を踏んで盛大にパキッと音を鳴らしてしまったからな。同じ轍は踏みたくない。


転移を使えば楽だろう。

でも、その分の魔力を捻出するのが面倒臭い。見える範囲ならば大して消費しないが見えない距離ともなると展開に時間がかかるし、魔力の燃費がめちゃくちゃ悪いしで……もしも長期戦でガス欠を起こしたり転移で逃げられなければ意味が無いしな。これに関しては我慢するしかない。


来た道を戻って目的の場所へと足を進めた。



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少しだけ短かったですが今回はここでおしまいです。久しぶりに洋平のステータスを書いてみたのですが書いていない期間が長かったせいか、少しだけあやふやな部分があるかと思います。アレが足りないやコレが必要なんじゃないですか、ジョブがおかしいですよなどの違和感がある方は感想で教えて貰えると助かります。


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