1章65話 夜戦(意味深)

「菜沙、あまり前に出過ぎないで!」

「すいません! 早く動けることに浮かれてしまいました!」


九階層で魔物のレベルも高くなったのに菜沙の一撃で簡単に落ちていく。セカンドジョブが聖騎士だから速度への変化は無いと思ったけど大違いだ。いや、詳しく言うのならばMPが上昇したために風魔法での簡単な強化を持続させられるって言うのが菜沙をより強くさせているって感じだな。


後ろから迫るオークナイトとの間に入って振り下ろされた斧を弾く。例えオークナイトでレベルが三十後半であってもグングニールを使えば片手で十分なんだよなぁ。鍔迫り合いになっている間に片手に雷魔法を貯めればいいだけだから当然、苦戦するわけがない。


「雷手!」


デカくて気持ちが悪いオークナイトの顔に手を当てて無理やり電流を流し込んでいく。今回のことで決めたことがある。絶対に後でグローブ系の補助装備を買っておこう。グローブなら洗うだけだろうし何なら高い装備なら勝手にクリーンとかの清潔さを残す物も多いからな。


ガクガクと膝を震わせて地面にへたり込む姿はどこからどう見ても吐き気しか催させてはくれない。早く煙になったことくらいが幸いってところかな。すぐに手に向けてクリーンをかけておいたけど。どちらにせよ、あまりいい気はしないけどね。


「雷撃」


菜沙の背を向けた場所には運良くというか、先走って背後から近付いてきたオークナイトに一撃を貰いかけたからというか、他の仲間達はいない。すぐにそれをに気がつけたのは俺が戦いに慣れてきたからなのか、はたまた元々の才能なのか。


飛ばした雷の数々が走り出している魔物達に降り掛かって光へと変わっていく。それでも楽に倒せているわけじゃなくて割と最初よりも多くのMPを使用して魔法を行使しているから、ちょっとだけ疲労感が大きいんだよな。


「潰れ、え……」


軽く飛んだつもりだろうけどリサが大きく前へ飛んで魔物達に突っ込んでしまう。さすがにリサだから対処してレプリカを大きく横に振っていた。そしてまたリサが驚いた顔をする。そりゃそうだ、風圧と雷のコンボで打撃を受けていない魔物であっても倒れてしまうのだから。武器だけが良くてもこんなことは出来ないだろうな。


さすがに動きが変わりすぎて頭が上手く回っていないようだ。危なすぎるのでリサの近くまで行き武器を構えた瞬間に目の前に薄らと先が見える水の壁が現れる。これを出来るのは一人しかいないのでリサの首根っこを掴んで後ろへと下がった。


「リサ、さっきまでの自分だと思うな。強くなったとしても死ぬのは一瞬だからな」

「ご、ごめん……なさい」


軽く叱責しておいてリサを立たせてから頭を軽く撫でる。もちろん、撫でる時に使う手はオークナイトの顔を掴んだ手とは反対側の方だ。その頃には水の壁は散ってダンジョンの床を濡らしている。狙ってか狙わずか、どちらにせよ活用させてもらう。


「雷撃!」


小さな雷の束を撃ち込んでから火の壁を展開、こちらへ逃げんでくることを防いで下がった。それを貫通するべく、いくつかの銃弾が撃ち放たれた。撃ったのは最後尾で構えていた莉子だ。


「ここかな……」


莉子が呟いている言葉から何となくで撃ったんだろうけど綺麗に敵を撃ち抜いている。それも魔物の高さに合わせて一撃で落とせるように偏差して撃っているから何と言えばいいか……。


「え? お兄さん! 当たっている?」

「……全弾当たっているよ」

「うそー……」


本当に適当に撃ったみたいだなぁ。

いや、何となくだけど場所は分かっているって感じなのか。俺の場合はマップ有りきの場所判断だから莉子の何となくとは全然違う。今まで出来なかっことを加味すると明らかに固有ジョブの道化師からくるサブ能力みたいなものだと思う。


サブだって言うのは明らかに固有ジョブにしては相手の場所が分かるだけの探知系なら弱すぎるって判断からそうなった。俺の勇者とかなら他よりもステータス上昇が高いのと貰える経験値も少しだけ多くなるって後々だけど分かった。まぁ、他のスキルとかから考えると微々たるものだけど。


道化師の効力的に投げ物系統で強くなるのは確かだから……あるとすれば投げ物の具現化とかか。もしくは投げたり撃つ系統にかなりの補正をかけることとか。想像すればするだけ謎すぎるな。


「何となくで他に出来そうなこととかあるか?」


それならさっきの場所判断とかのように何となくで出来そうなことが能力としてありそうだ。悪いけど神殿でも詳しい能力は分からなかったし。と言うよりもこのサブ能力みたいなことは書かれていなかったから全てのジョブの情報が分かる訳では無いんだろうな。純粋に異世界でも道化師のジョブを持つ人がいなかったとか。逆に勇者や聖騎士は詳しく書かれていたから。


「えっと……名前からしてって言うのとかはあるんだけど……」

「戦闘中の今は出来ないってことか」


俺の言葉に首肯してくる。

多分だけど道化師から考えられるのは変装とかだけど……この雰囲気からしてやりながら探そうって感じか。それなら時間のある時にやらせた方が戦いの幅も増える。


「あっ! でも、これなら」


そう言って手元に何かを作り出して投げる。

透明な何かだけど……俺の想像した投げ物類の具現化だな。何となくで俺も分かった俺も……って、そうじゃないな……。


俺はすぐに考えを改めた。

投げた物は明らかにナイフに見えたけど地面に刺さった瞬間に大爆発を起こしたからだ。これは投げ物全般の能力を持たせられるってことか。それなら投げ物はナイフと言うよりもクナイに近いのかもな。


その爆発に巻き込まれて体を粉微塵にされた魔物達に哀れみの気持ちはないけど。それでも相手が人だったとすればかなりの高威力だろうし戦力としても十分過ぎる。だってさ、俺達が戦っているのは学校に現れたオークナイトよりも数段上。後一階層でも上がればオークジェネラルと同格になりそうなくらいに強いしなぁ。


そこからは俺も連携を気にしなければ首が飛ぶのは遅くないと思う。俺も強くなったし勇者があるとは言え最強と呼べるような強さを誇ってはいない。今のレベルならば安定して遊ぶくらいは出来るけど。戦闘で遊ぶって表現は悪過ぎたか。ただ少しでも隙があると死ぬみたいなのが無いってのは確かだ。


「……終わりか」


これでほぼ全滅だ。全滅じゃないけどそれは別にいいだろう。大したことでは無いし倒しきれていない魔物の全てが恐怖からか、隠れてしまっている状態だしな。これはダンジョンの意思とかを無視して本能的に逃げているとしか思えない。


下の階層では無かった行動だ。

進化したりレベルが上がったからこそ、ある程度の知能は得たのかもしれないな。絶対に勝てないと踏んだ相手からは逃げる。それが主の意思だとしても無視するってとこか。別にこっちからすればどうでもいいけど。レベルもある程度、上げさせてもらったし逃げている魔物を倒すだけの必要性が薄すぎる。


「莉子は今夜、俺の部屋に来てくれ」


武器をしまいながら何も考えずに言ってしまい言い切ってから後悔した。自分で気がついていたけどすぐに反射的に他の面々から声が上がり始めた。


「それって逢引? 襲ってくれるの?」

「はぁ……アホか。逢引なら誰にも内緒でやるだろうし何よりも襲おうと思うほど性的に飢えていない。興味が無いと言えば嘘になるけど今は必要が無いな」


したいという気持ちは本当にあるけど、それ以上に今はやらなきゃいけないことが多すぎる。クランが安定するまでは他のクランメンバーとの恋愛は考えていないし妹とだって付き合うことすら……いや、今の俺ならば血が繋がっていることで起きるリスクも無くせるから別にいいんだけど。それに完全な避妊とかだって……言うと本気で襲いにかかってきそうだから止めておこう。


「……やっぱり変わりましたね」

「……ん?」

「昔の洋平先輩なら莉子とエッチなことをすることすら拒否していましたよ。少なくとも今はすること自体は否定しませんでしたよね」


それは……何度も口で伝えたと思うんだが。


「口でならなんとでも言えます。ですが、今は無意識で否定する言葉は使いませんでしたよね。つまりは本気で環境が整っていないからしないと言っているって分かるんですよ」

「あ! そっか! ということはいつかはエッチなことをしてくれるってことだね!」


菜沙が少し赤くなりながら「そうですね」と返している。絶対にそういうことを想像したな。誰と誰がそういうことをしたことを想像したのかは分からないけど。


「……やはり胸が大きい方が好みなのでしょうか……」

「いや、両方とも好きだから安心して」

「……そうですか……って!」


菜沙が誰にも伝わらないように呟いたであろう一言に返しておく。最初は嬉しそうにしていたけど返事をしたのが俺だと分かって顔を真っ赤にして唯の後ろに隠れてしまった。本当に乙女だな。こんな子を泣かせた奴がいるとかぶん殴らないと気が済まない。


「まぁ、その前にリーネさんに報告だな。リサと一緒に病院に行くつもりだから三人には先に帰っていてもらうつもりだけど。夜に関しては俺と莉子の二人だけだ」

「やったー!」

「……行く!」


喜んでいる二名と悲しんでいる一名、そしてどっちつかずな表情をしている一名と割とカオスだな。喜んでいる二名は一緒に行動出来る時間がある二人だけど。


「唯、夜ご飯楽しみにしているよ。一種のお祝いみたいなものだから作るものを帰るまでに考えておいて欲しいんだ。菜沙もそれの手助けをして欲しい」

「でも……」

「二人のご飯……楽しみなんだけどな」


そこまで言ってようやく煩い妹は黙って渋々だけど了承してくれた。菜沙は元から何も言わなかったから別に良いんだろう。まぁ、二人にもそのうち二人っきりでいる時間は作るつもりだけど。


莉子に関してはジョブの話を、リサに関してはリーネさんとの話なのにわざわざ外部の人が行く必要性もないからな。後は背中とかに触る時に煩く騒ぎそうだし。そういう目で見ていないっての。さすがにキテンの嫁で、リサの母と不貞行為をする気なんてサラサラ起きない。やられて嫌なことはしないって主義だしな。一度やられる体験はしたし。


「莉子は出来そうなことを動いたりして考えておいてくれ」

「オッケーだよ! 夜戦のためにね!」

「そうだな、健全的な夜戦のためにな」


表情的に下ネタ系だろうけど知ーらね。

そのまま四人を連れて拠点から家へと戻る。まだやることも多いなと思いながら三人と離れてからキテンに話だけしておいた。これからリーネさんの病院に行くと言ったら何故か喜んでいたんだけど……まぁ、俺が行くってことはリーネさんが少しの間だけど元気になるからだろうな。


もうそろそろでリーネさんも完治させられる。そしてリサに武器を作って貰える。皆と一緒に前に進んでいける。そう楽観的に考えていた。だけどリサと手を繋ぎながら病院の前まで行ってから俺は後悔した。


「リーネを出せ!」


怒号に近い声が聞こえてきたのだから。



____________________

莉子の強さが現れ始めた回でした。もちろんですが詳しいことなどはこれから書いていきます。そして怒号の正体と理由などは次回に書いていくので……割と終わりが見えてきました。


次回は二週間以内に投稿します。年末に暇などがあれば少しだけ投稿頻度が多くなるかもしれませんが……どちらかと言うとテンプレの方を書く気がします。もちろん、こっちも多く書きたいですが……。

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