1章61話 新たな混沌
「すごい多くいるな……」
「やっぱり気配で分かるか」
コロニーの一歩手前、ライトノベルの小説なら主人公が最初らへんに潰して俺TUEEEEを始めるキッカケになるような大きさだ。最初の俺でもギリギリ潰せるかどうか……。それだけの難関を今回は倒す予定だ。
とはいえ、最初の頃の難関と言うだけであってリサやアレスなら問題無いだろうし、アテナならば後衛で狩りきれなかった雑魚を倒すだけでいい。俺を除く個々が一人で戦うのなら負け筋はあれど、四人もいればカバーとかも出来るからな。
「行っていいの……?」
「いいよ、好きにやりな。ただしわざと隙を作るような戦い方はしないで。それ以外なら好きなやり方で倒していいから」
それこそ一欠片も残らないほどの一撃を撃ち込んでもいい。リサならレプリカ込みでそれだけの威力を出せるはずだ。俺が望んでいるのは薬草のみ。コボルトに興味はない。必要だとするのならコボルトの上位種の素材だけだ。
俺の発言にリサは頷く。
「雷撃!」
横薙ぎに放たれた雷撃と共にアレスが飛び出す。本当は俺も飛び出したいところだったけどアテナがいる手前、飛び出すことは出来なかった。まぁ、俺がいなくてもアテナなら倒せるだろうけど心中ではどう思われているか分からない。……嫌われたくはないしなぁ。男の性というか、可愛いくて優しい良い子に嫌われるのはちょっとなぁ……。
ましてや料理も上手い。裁縫とかも学んでいるらしいし成長も早いらしい。大抵の事はいいですよって許してくれるし。クラスなら彼女にしたい人で溢れるだろう。俺の場合は彼女にしたいかどうかは置いておいて、一度でも仲間と認めてくれたのなら裏切られるまでは本気で守ってやるつもりだ。それが上に立つものの意地だし覚悟でもある。
「アレス! 一体だけ特異種がいる!」
「特異種……分かった!」
何か一瞬だけ視界がぼやけた気がした。
いや、モヤか……マップでも点滅する何かがいたからそいつで間違いはない。ただ特異種というにはまだ早かったかもしれないな。準備のために例え誇張表現でも必要だと思ったが……。
「ちっ! 危ねぇな!」
マップがあるからと鑑定の高レベルは不必要だと考えていたけど、この感じなら確実に必要だな。後で上手くやっておこう。何ならポイントもかなり増えている。ここでの鑑定の高レベルはスキルの鑑定の上位スキルだ。魔眼に近いかな。
今の鑑定であってもモヤにしか見えないのだからキツい。逆に……仲間にしたいと思うけどな。一体は従魔がいても悪くは無い。この速度からしてコボルト系統だ。俺達にない速度を誇る魔物は悪いが無理をしてでも手に入れる。
「下がる! アテナも来い!」
「行きます!」
俺の表情から察したらしいアレスが叫んだ。
上位種なんて興味がなくなった。本気で従えてやろう。そしてゆくゆくはアレス達のように人へと進化させて……夢が続くねぇ!
まずは姿だ。モヤが見えても動いているから一定に留まって見えない。だから速度を殺させてもらう。足を奪うことから始めないといけないな。そして……。
「お前は俺だけを見ればいい!」
雷で結界を作った。耐久力は結界ほど高くはないが近付けば体制がないものは軽く痺れるし、相手が魔物である以上、そこへは近付かないだろう。それなら俺を狙うはずだ。
「雷城!」
「ガウッ!」
明らかに声が聞こえた。
俺が新しい魔法を構成して表に出てすぐだ。能力自体は足場を雷が走り鳥籠のごとく周囲に雷で結界が出来ただけ。本気で従魔にしたいからな。ウルフかコボルトのどちらかだろうけど攻撃の高さからしてコボルト……余計に欲しくなるな!
「悪いな! 俺には効かないんだ!」
足場の雷がまとわりつく場所、そこに敵はいる。いや、未来の仲間か。殺すことを目的とはしない。本気で仲間にする。足を殺したのなら少しずつ追い詰めるだけだ。無用な攻撃は不必要!
まとわりつく雷が消えた。つまり飛んだってことだ。周囲に木は無いし結界のせいで高さも取れない。相手の能力的に透過するような能力なのだろう。そしてその効力もマップを欺くほど……カッコよすぎじゃね?
俺は魔槍とかそういう系統のものは大好物だ。厨二病だからね。逆にこの年でそういうことが嫌いな男子は少ないと思う。何なら俺も従魔にした後にスキルを手に入れるために頑張るつもりだし。ポイントも案外と溜まってくれるからね。
グングニールの横薙ぎ、見えない何かを弾き返す。
「ギャウ!」
俺からの攻撃で痛めつけるつもりは無い。
コボルトを弾いて地面に足を付けた時に衝撃も雷も抑えられなかったのだろう。大きな悲鳴をあげて徐々にモヤが晴れていく。まだ半分近くだけど割と見やすくなった。体力のゲージも見えていることだから足元の雷で削れてもらおう。
体力ゲージは今の衝撃で半分。あまり傷付けるのは後々、尾を引きそうだけど仲間にするためには認めてもらうことが重要だしな。だから俺の手だと殺してしまいそうで遠回しにジワジワ削っている。
一応、今も従魔にするために調教の従魔化を無詠唱で送ってみたんだけど弾かれている。まだ足りないんだろうね。ゲームによくある肉とかを与えて好感度を、みたいなこともないからなぁ。こればっかりはゆっくりやるしかない。……そう、相手の心を折るまで。
「安心してくれよ。時間はまだまだあるんだぜ?」
笑いかけながら回復をかけて少しずつ戦う気力を削いであげる。これに関しては俺がやられて一番に屈辱的なことにした。要は相手を仲間にすればいいだけだし無容易に傷つけたくないだけ。……自分の意地と誇り、そして命ならどれを取るかなってやり方なんだけど楽しくないな……。
回復一度目、再度、従魔化を当てに行ったけど弾かれる。未だに雷のせいで外の景色が見えづらいだろうから援軍を待っているのかもしれない。回復をかけてすぐに飛びかかってくるがグングニールで弾く。殴るとか蹴るとかをしてもいいけど倒れてしまう可能性も高いしね。
もう少しだけ遊んであげよう。
意地では何も救えないことを教えてあげないといけないね。いや、やらなくて済むのならやりたくないのだけれど……普通に偵察隊として欲しいし……。良心を殺さなければいけない。
回復二度目、ここで少しだけ外の結界が歪んでくる。まぁ、常時展開だし時間経過で効力が弱まるのも仕方がないんだよね。だからと言って強めるのも心苦しいからやらないけどな。
三度目、明らかに減りが遅くなった。
四度目、ついに結界が維持出来なくなり壊れていく。あ、付け加えるのなら俺の魔力が少なくてとかでは無い。純粋に維持費のようなものを使っていないだけ……それでもコボルトからすれば最後の希望だったみたいだ。
壊れた瞬間に最後の力を振り絞ったのか姿を眩ませて外へ出た。時間の慣れもあってどこへ逃げたのか、どうやって隠れようとしているのかも分かったしね。鑑定の慣れもあってモヤもよく見えるようになった。
とはいえ、逃げれるかどうか。
「おー、倒し切っているな」
「あまり強くなかったからな」
誇らしげに胸を張るアレス。
消えてすぐに見えた山はコボルトで出来たものであって、その頂点にはコボルトナイトがほぼ無傷のままで倒れていた。息もない。小さくポトと音がした。
逃げも隠れもせずに、それこそ姿を現したままで項垂れている。俺の方を見て諦めたような目をしていた。即座に従魔化をかけてみるとすんなりと通ってしまう。悲しげな表情ではない。死ぬ手前の目ではなくどこか清々しそうにも見える。
「私の完敗だった……」
確かにそう、目の前のコボルトは口にした。
「その割には嬉しそうだが?」
俺の言葉に他の皆が首を曲げていたことから言葉が通じているのは俺だけなのかもしれない。まぁ、そこら辺は後々なんとか出来るだろう。
「……最初は痛めつけてくる酷いやつだと思ったが……まぁ、どちらにせよ、勝っても地獄、負けても地獄だったのだ。より強い方に私は従うまで。それが負け犬なりの身の振り方だ」
「……深くは聞かないよ」
「……何と……人は屑ばかりと聞いたが思いやりは残っていたのか」
「酷い言い草だな」
コボルトは「すまないな」と犬の口角を上げて小さく笑う。……性別はオスか。いや、別に性別が気に食わないとかじゃなくてオスの割にはどこか女々しく感じてしまう。あっ、俺も人のことを言えないか。自虐的と言うかなんというか。
「ほれ」
「……これは?」
「ポーションだ。お前のスキルを使うにしても魔力が無ければ無理だろ。体力は回復させてやったしな」
「……不思議な奴だな」
ポーションの開け方すらよく分かっていないようで牙で瓶を割って飲み込んでいた。ペっとガラスの破片を吐いて表情を和らげる。
「……あ、名前を考えないとな」
「名前を頂けるのですか……今まではネクラと呼ばれていたので……それで構わないが」
いやいや、さすがに部下になるのに根暗なんて呼べないよな。……少なくともカッコいい名前にしたいんだけど……アレス、アテナときて神様の名前を使わないのはちょっと。ネクラ……つまりは暗い……暗いといえば?
「ハデス」
「……はです……?」
「あだ名とかは考えるかもしれないけどハデスっていう冥府の神様から取った。戦ってみて強さも理解したしな。神様の中でも上位の強さだぞ」
確か……親に準ずるか、続くくらいの強さを誇っていたはず……。少し名前で重みや怖さを感じるかもしれないけどカッコ良さを重視してみたが……。
「カッコいい……そうだな! 私は今日からハデスだ!」
「……気に入ってくれて嬉しいよ」
どうやらハデスも普通に厨二病みたいだ。
やはり全人類の男子は厨二病という道を一回は通るらしい。固有スキルの透過もどのような力があるのか、後で確認してみよう。後は同じパーティになるだろう、アレスとアテナとのコミュニケーションの測り方とかも考えないとな。……ああ! 良い拾い物をした!
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以下、作者より
かなり遅れて申し訳ありません。私生活の方が忙しくなり重視して書いているテンプレの方を書くので手一杯になっていました。カクヨムの方では不定期の投稿になりますが出来る限り投稿するように頑張りますので応援のほど宜しくお願いします。
以上、作者からでした。
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