1章60話 価値を見出す
「うーん、質が微妙だな」
「それを遠目で見て分かるのが異常」
着いた薬草採取の場所での薬草は少し質が悪かった。簡単に言えば若すぎるか、年老いたみたいな感じだ。もちろん、作れなくはないけど効力が低くなるし苦味とかも強くなってしまう。
ポーションとかを飲んだ時に苦味を覚えるのは作り手の見る目が低いと言っていい。普通は鑑定なんて出来ないし同じ棚に同じ価値のようにポーションを置かれれば、美味しくない又は効力が低いなんて見抜けないだろう。
「遠目って言うけど鑑定出来るしな」
「視野が広いのが普通ではないということですよ」
「そう!」
「そ、そうか……ありがとう」
ここまで食い気味に言ってくれたんだ。普通に嬉しい。まさか否定しようなんて思えないよな。それにしても俺の視野が広いのか。今まではそんなことを考えたこともなかったしな。
「とりあえず取れるものは取ろうか。アテナやリサならよく見れば良いものを取れるだろうし」
「……出来なければすいません」
「頑張る」
「そこまで気負わなくていいよ。取って駄目なら他のことに使えばいいし。それに使えないってことではないからな」
何が二人の不安になるのか。一言一言に対して二人が失敗を怖がる発言を減らさないといけないな。俺自体は失敗を怖がったりしたくはない。それでやればよかったって後で思うことが、前の生活の中でそう思えていることがいくつもあるしね。
過去を恨む、それはもう嫌だ。
先のフォローのかいあってか、二人は自分の良いと思えるものを取ってきてくれた。良いものと悪いものの割合はリサが九対一、アテナが八対一だ。果たしてこれは悪いのか。
「よくやったじゃんか。これはいい結果だよ」
悪いものが入っていたことに落ち込んでいた二人に返した。リサは昔から取っていたからこその審美眼だろうし、アテナは元からの才能だろう。だから凄い。
「アレスはどう思う? 初撃が八割、九割で相手の急所に一撃を入れられるってことと同じだよ?」
「どちらにせよ、すごい。俺でも攻撃の全部が全部、急所に当てられるわけじゃないからな」
論点が違う、そんなことを言うかもしれないが難易度は大差ない。写真で魚の良さを測れるレベルの審美眼が必要だからね。文化部のレベルを運動部が測れないように、運動部が理解出来るような言い方で言うと先の言葉と相違ない。
普通に使える薬草と価値の低い薬草を見比べる。違いは……色合いが本当に少しだけ淡かったりシワがあったりする程度。色の違いなんて人によって見え方が違う。下手をすればほとんどの人が違いなんてないって言えそうなくらいに分かりづらい。
「二人が完璧を求めているのかもしれないけど俺は求めていないよ。ましてや俺も完璧じゃないしね。完璧を求めるのなら価値を求めて欲しい。失敗よりも成功する道順を作り出して欲しいかな」
「成功する道順ですか……?」
「そうそう」
成功する道順ってかなり大切だ。
そうだな、俺は不登校を経験して思ったことがある。例えば成功するための道順を教育する場として学校があるが、俺は行く価値ってないと思っている。この考えは人によって捉え方や賛否が分かれると思うけど。いや、言葉足らずだったかな。詳しく言うのなら行く自体には意味がある。だからって学校自体に価値はないと思うと言った方が正しそうだ。
例えば家でも勉学は出来るはずだ。家の近くの公園で運動すればいいはずだ。なぜ人という価値を測るだけの、それも依怙贔屓を簡単にする教師の元で学校に行かなければいけないのだろうか。求めているのならば別だが必要な社会で無ければ必要性は薄いと思っている。だから、そこに価値はないと思う。少なくとも教育に一番に重要な平等は学校という物質にはないと俺は感じた。
俺は堕落だけを味わった。
もちろん、それは駄目だ。代わりに必要なのは学校に行かないだけの価値を生活の中で見出すこと。学校に行くことには価値はあると思っている。人との触れ合い、同年代との接し方や先輩後輩との会話。その全てがネットでは感じられない。
ただし人の価値を人が測ること。勉学だけが全ての世界はおかしい。努力するということも一つの才能だ。勉強するという努力の才能があるかどうか。それを測るのは至って間違っている。勉学の才能が無くても芸術に対して才能があることもあるしな。それなら望むことを勉強出来る方が効率がいいし夢を見出しやすいだろう。右往左往する時間を求めるよりも子供の才能や個性が伸びやすい場所を作る。そのために学校という物質に価値なんてない。
勘違いされたくないのは才能を伸ばせる力が学校自体にあるのなら俺はあってもいいと思う。俺が学校に行くのをやめたのは教師と対人、そして親からの圧迫や虐め、そこら辺があったからだ。虐めのない、閉鎖していない空間を学校が担えるのならば俺は行くべきだと本気で思う。
まぁ、そんなことは置いておいて、要は学校は大多数の人が通るレール、道順っていう教科書のようなものがあると思っている。それでも才能が人それぞれのように全員に道順が合うわけではない。ただ勉学だけが世界で戦えるものだと教える学校よりも、自分で学べる、学びたいと思える環境が必要だと思う。
だから俺が道順を二人に求めているのは、二人が本気で考えて作り出した自分だけの道を教えて欲しいからだ。俺は教育をする場がない世界だからこそ、リーダーとして伝えたいことは伝えておきたい。もしクランの人達の心情に沿わなければ無理に合わせろとか、覚えておけとは言わないし。考えることってそれだけ重要だと思うだけだ。それを伝えると意味が無いから教えないけどね。考えればいいって頭のどこかにあれば成長も衰えてしまうから。
「俺のクランはそのうち仲間も作るつもりだ。その時に二人の性質に合った人が道に迷わないように教えられるしね。それに……二人のことをそれだけ才能があるって思っているから。アレスが圧倒的な武芸の才能があるようにね」
少し熱くなってしまったと思う。
ただ伝えて損はない。後悔もない。学校に行かくていいって言うのも俺が学校に価値を見い出せなかったから故の結論だしね。俺の考えに異を唱えても全然いい。ただし否定だけはされたくないかな。人なんて多少の環境の違いで性格も考えも変わるんだから。
それに二人に伝えたことも本心だ。迷った分だけ最適解を求めやすい場所を俺は作りたいだけだ。その中には人が一番に求める幸福の追求だって出来る場所が欲しい。本当に深い意味は無いな。自分で考えて言っていても辟易としてくる。どこか自分で考えて至った結論でも自己満足が否定出来ないし。
そんな本心を隠して二人の頭を撫でて価値の高い薬草と低い薬草で分けた。普段よりも少ないから、もう少しだけ他の場所を回ろうと思うが。まだ日も高いしね。それに……三人の見ていない一面も見つけたい。俺が自分を事を見ていなかったように沢山のことを見られるようになりたい。アテナに諭されて、甘やかされてそう思えた。
「三人に聞きたいけど戦いたい? 戦いたくない? 薬草をもう少し取りたいから回ろうと思うんだけど」
「俺は戦いたい」
アレスは当然、即答で答えた。
「私は……任せます。戦うことへの恐怖を減らすために必要ですから」
アテナはどっちでもいい。
「一緒にいる時間が伸びるから戦いたい」
リサは意味が分からない。いや、戦う分だけ寄り道するって考えか。まぁ、考えを言っていないから俺との考えに違いがあってもおかしくはない。
「あー、詳しく言うと薬草の場所の近くでコボルトが群れを作っているんだ。ゆっくり取るとしても邪魔だからね。だから戦おうかなって思っているって感じだ」
俺の発言に全員が首を縦に振った。
つまり戦うってことでいいのか。コボルトの群れ自体はあまり強くないけど……速度が早いからコボルトナイトは苦戦しそうだな。まぁ、俺もいるし大丈夫か。少なくともオークよりは強いのは確実だ。
「油断はしないように。油断をすればすぐに死ぬぞ」
それだけは言っておいた。
全員にコボルトが相手という前提を教えておけば戦い方は決まってくるだろう。それに不安もなさそうだしな。レベル上げも兼ねて全員の強さも見ておこう。
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以下、作者より
遅くなりました。もう少しだけ三人との話を書いた後で一章の最後に向かっていこうと思います。二章からは闇の部分よりも異世界に関係した話にする予定なので、よりファンタジーらしさを味わえるかな、と考えています。
以上、作者からでした。
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