1章59話 戦闘
「時間を奪って悪かった」
「頭を下げる必要はない。少しは気分が安定したか?」
「ああ……何とかな。三人とも、ありがとうな」
三人から色んな返事が帰ってくる。アテナは「少し恥ずかしかったです」と頬を染めて少し怒った感じだ。リサは「元気になってよかった」って喜んでいる。アレスは色んなことを考えている顔だが返事は「おう」の一つだけだ。
まだ考えが纏まった、嫌な気持ちがなくなったわけではないが我慢出来る程には楽になった。アロマに近いのかもしれない。普通に落ち着く匂いがアテナからした。アロマ系統を使ったことがないけどな。
俺自体は親に好意なんて持っていない。というか、いなくなれ、死ねばいいっていう俗に言う親不孝な考えしかしていないな。その分だけ親からの愛も優しさももらっていないわけだが……いや、金だけは貰っているか。感謝するならそれくらいだ。
この落ち着いた気持ちは初めてだ。唯のおかげで感じていた心の余裕はどちらかというと好きだという気持ちからで、アテナから感じたものは優しく包み込む愛情に近いな。漫画でよく見るだけで体験したことがなかったけど、もし親から愛情を貰っていたならこんな感じだったはずだ。
大きく背伸びをして肩をバキバキと鳴らす。同時に肩に乗っていた重いものが軽くなった気がした。グングニールを構えてマップを再確認する。倒す相手は未定だからね。
「ここら辺にいるのはオークやゴブリンだな」
「それならオークでいいんじゃねぇか? 経験値の実りもいいし肉も美味い」
「……少し疑問だがアレスやアテナは同種だった存在を殺したり食すことに抵抗はないのか?」
よくよく考えてみれば二人共、嫌な顔をせずにオークを食している。殺すことはまだ理解出来ても俺が人間を食おうと思わないように、実は忌避感があったとしてもおかしくはない。
アレスとアテナは目を合わせて不思議そうな顔をしながら口を開いた。
「ないな」
「ないです」
「そうか」
「そもそも生きる上で同種であっても喰らわなければいけない時もある。ましてやオークは美味い。いや、主達の調理法が上手い可能性もあるが嫌な気はしないな。それに」
少しだけアレスの顔が歪む。
「アテナを苦しめたのはオーク達だ。そんなヤツらを殺そうと喰らおうと興味はないな。ただ俺達の糧にするだけだ」
「なるほどな、気が悪くなることを聞いてすまなかった」
「気にしなくていい。主が気にすることじゃないし俺達の願いは達成したしな。今では主達のおかげで幸せだ」
「そうですね。ヨーヘイ様の幸せが私達の幸せですから」
「それなら……オークナイトがいる群れを攻撃するか。その近くに薬草もある」
三人から肯定の返事来たのでその場所に向かう。一応、森にいるだけはあってレベルはかなり高めだ。オークナイトで32と学校の存在と大差ない。……下手をすればオークジェネラルに進化するってところだな。
だけど、まぁ、俺には普通の敵って感じだしな。サポートさえすればアレスとリサで十分に立ち向かえる。アテナを守るのは俺がやればいいだろう。アレスが俺の代わりでもいいしな。
とりあえず軽い談笑をしながらオークナイトの元へと向かった。普通に岩の上にそいつは座っていたけど。図々しくも他のオークに警備をさせて自分はダラけた顔でほくそ笑んでいる。武器も少しだけ新しめの鋼の剣だ。俺からしたら売れるのでありがたい。
「アレスとリサでオークナイトを倒せ。他は俺に任せろ」
「……格上と戦えってことだな」
「そうだ、リサはレプリカの雷禁止な。それがあれば大抵は倒せてしまう」
「むぅ……仕方がない……」
「危なければ助けるし報酬も考えているんだけどな……」
「やろう」
「ナデナデ!?」
「そうとは限らないけど」
今のリサの大声のせいで敵にバレてしまったようだ。仕方なくアレスとリサの背中を軽く叩いて「行ってこい」と言ってやった。俺もグングニールを出して構える。俺への制限は……魔法禁止でいいか。
二人が飛び出したところで俺も大声を上げた。下卑た目をするオークナイトや手下達の目にはリサとアテナしか映っていない。それではダメだ。少しだけ寂しいじゃないか。
「こっちだよ! 雑魚共!」
軽い威圧を放って敵の集中を自分に集めた。これで手下達は俺の元に来るはずだ。
「アテナ、守るから安心してくれ」
「守られるだけじゃ……ないです!」
二十数体のオークが俺に飛びかかってきたがレヴァティーンの一振で地に伏せる。ただし全部とはいかなかったみたいだ。俺も少しだけ深呼吸した。
瞬間、オークの鈍い声が聞こえる。
チラリと見ると五体のうちの一体のオークをナイフで殺したみたいだ。首をかき切ってアテナはどこか空白の多い目をして手をだらんと垂らしている。戦うための覚悟を表しているのだろう。
残り七体が俺の前にいるが、やはりオークでは戦闘にもならない。ただ首を切って終わってしまった。チラリとアテナを見るが既に三体は沈めていて残り二体だ。俺が入る必要もない。そしてオークナイトの方は……。
「吹き飛べ!」
「ブルォ!」
リサがレプリカでオークナイトを吹き飛ばしていた。剣で受けたみたいだけど力を流しきれてはいない。若干、口から血を流して後ろに飛んでダメージを減らしていた。
「よく来たな!」
そこを後ろに回り込んでいたアレスが正拳突きで背中を打ち込む。骨が折れているようで先まで曲がっていてふてぶてしそうだったオークナイトの背筋は伸びている。よく分からないがオークナイトに勝ち目はないよな?
苦し紛れとばかりに回転斬りをしてダメージを与えようとしていたが、逆にリサのレプリカとぶつかり合って両者とも弾かれていた。普通なら両者が弾かれれば先に体勢を立て直した方の勝ちだ。
「じゃあな」
だけど構えていたアレスがオークナイトとリサの間に入って腹を打ち抜いていた。そのまま大空へと飛ばされて三メートルほど飛ばされた後に地面に激突していた。
俺は少しだけ驚いていた。オークナイトのレベルは高く相打ちにもっていたリサも、暗殺するかのように急所を的確に突くアレスも動きが良すぎる。もっと苦戦すると個人的には思っていたからな。
「そちらも終わったようですね」
「……そうだな、アテナもお疲れ様」
「……くすぐったいですがありがとうございます」
軽く髪を撫でてアテナを労う。
アテナの倒したオークから先に回収して魔物達を回収し終える。リサも撫でて欲しそうだったので遠慮なく撫でておいた。
「よく倒せたね」
「慢心していたからな。リサ様が隙を作ってくれたからな。普通に警戒させることが出来た」
「リサでいい。それにアレスの速度は異常。リサなら遅れて追撃は無理だったの」
「案外、上手く噛み合ったってことか。強かったか?」
「まあまあだな。慢心さえなければ初撃で片手が傷つくこともなかっただろう」
となれば、最初にダメージを与えたリサのお手柄か。とは言えオークナイトの骨を打ち抜くアレスも十分にやべえけど。どこぞの格闘ゲームの暗殺拳みたいだ。見せていないから独学で学んでいるなんてな。
「仲間にして正解だったよ」
「仲間にさせてくれたから強くなったかもしれないけどな」
くっくっくとアレスは笑う。
特にその場に留まる必要もないので薬草地点へと向かった。途中でゴブリンやスパイダー系の魔物が現れてもアレスが対処するし楽でいい。このままアレスに雑事を任せて俺は接客でもしようか。
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以下、作者から
遅くなって申し訳ありません。忙しかった点とスランプ気味だったために書くことが出来ませんでした。投稿を辞める気はありませんが少しの間だけ不定期投稿にします。
気分転換にポイント制は、を書く予定なので興味があれば読んで貰えると嬉しいです。
以上、作者からでした。
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