1章55話 少しだけ見えた先
少し走り出すとオークジェネラルは先程の件から誰よりも俺を危険視している。そのために周囲の注意は薄くなっているが……他の皆に任せることは出来ない。だって、チラッと見たら精一杯戦っているしね。
それに少し注意を強くしたからって俺には勝てない。あの時の俺とは格が違うんだ。別に油断も何もしていない。
「来いよ」
「ブアァァァ!」
手をクイクイと遊ばせてみたら案の定、オークジェネラルが怒りながら突撃をかましてきた。しっかりと槍には注意を払っているから当てることは出来ないが……舐めているとしか思えない。
「雷牙!」
初めて作ったが結構、上手くいくもんだ。
俺の中ではフェンリルとか狼をものすごくカッコイイと思っている厨二心が未だにあるんだが、それを頭に浮かべた上で作り上げた魔法だ。
大きな顎から大きな牙が生えオークジェネラルは止まることなく雷で作った狼の口の中へと突撃していく。そのまま閉じ切ってから分散せずに雷が内側で放電を始める。普通の個体ならここで耐えられなくなって死んでしまうはずだが……。
「ブギャァァァ!」
「耐えたからって調子に乗るなよ」
両手にある剣で回転斬りを行い掻き消されてしまった。俺的にはかなり良い魔法だと思ったのだが足りない部分が多いみたいだ。まぁ、オリジナル魔法なんてこんなものだ。失敗しないことの方が面白くない。
この魔法は少しずつ改良していけばいいさ。
俺は後ろにポンと飛んでから両手を上げて体の凝りをほぐす。軽くバキバキとなっているから疲れがあるんだろうな。痛みはないから後で肩でも揉んでもらうか。
「ブルゥゥゥ!」
「まあまあ、キレるな。俺も自分の体が大事なんでな。お前を倒す算段ももとより整っているんだよ」
挑発のつもりもなかったがオークジェネラルからすればおちょくっているように感じたのだろう。大声で威圧をしてきた。でも、本能が駄目と囁いているのか……いや、ある程度魔法のおかげで突撃が効かないと感じているのかもしれない。まぁ、どちらでもよかったけどな。
「雷刃」
これもネタ程度で考えた魔法だが雷を集束して片手剣を作ってみた。グングニールが警戒されている以上、こっちでの攻撃はあまり期待出来ないからな。死に物狂いでもグングニールでの攻撃はガードしてくるはずだ。
それも先程とは違って折ろうとする気すらもないだろうしな。早めに戦いを終わらせるつもりだ。展開は早いから少し粗が目立つ雷の剣でも……これならどうだ?
手に持つ雷剣の刃だけを俺の左手の周囲に漂わせる。数としては二十本弱、足りなければもっと作ってもいいけど。まぁ、要らんだろう。
「撃ち抜け、破雷」
技の名前は適当だ。俺のセンスに便っているから好みも分かれるだろう。知ったこっちゃねぇけどな。俺の勝手だ。……面と向かって言われたら傷付きはするけど。
左手で雷の剣を投げ付けて同時に二十本弱の刃をオークジェネラルに飛ばす。壊そうとしても無駄だ。何かにぶち当たれば爆発を起こし近くの雷の刃も誘爆する。避けようにも地面にぶつかって爆発した雷をノーダメージで耐えることは出来ない。それに、な?
「俺の魔法が俺に効くわけがないんだよな」
そんな単調な逃げで隙がないわけがない。
躱そうとすればどこに飛ぶかなんて目に見えて分かる。ってか、ぶつかる場所から飛ぶ場所を限定させているんだ。そこに飛びかかればいい。
それにオークジェネラルの剣なら雷で壊れはしないが、受け止めた瞬間に他のオークから奪った剣は真っ二つだ。いや、詳しく言えばガラスが地面に当たって砕けたようにバラバラになっている。
「じゃあな」
「ブ、ギャア……」
最後はオークジェネラルが最も恐れていたグングニールを差し込んで内部爆発で倒し切った。別にダンジョンなら倒した後に素材がドロップするから心配も薄い。落としたのは肉と皮と剣だったから回収もした。……予想だけど剣がドロップ率が一番低そうだよね。
この肉は夜にでも食べることにするか。
……キテンの酒のツマミだけで終えないように気をつけないと。今回の立役者である四人に食べてもらいたいからな。俺がオークジェネラルと遊んでいる間に戦闘も終えていたみたいだし。
「あーあ、遅かったぁ……」
「悪いな、俺も遊びすぎたみたいだ」
早速、飛びかかってきた唯を受け止めて頭を撫でてあげた。いつもなら怒るけど全員が本気でやらないと倒せない相手達だ。頑張ったならいくらでも報酬を与える。……ってか、俺の報酬でもある。この撫で撫での権利は。
「さすがですね。オークジェネラル相手で遊ぶなんて言えるのが」
「……ごめんなさい。悪かったと思っているから怒らないで」
「洋平先輩? 私は何も怒っていませんよ?」
ヤバっ……口が滑ったじゃ済まないな。
そう言えば菜沙にこういう冗談はきかないんだった。それにオークジェネラルだって分かっていたんだな。……なんで?
「後でお話を出来ればそれでいいですよ」
「……怖くないお話なら」
「それでいいです」
この上ない笑顔で菜沙が俺を見てきたから怒るってだけじゃなさそうだね。人前で甘えられないから二人でみたいな感じか。食後でも部屋に誘ってみるか。……字面がヤバい気がするけどエッチ系な意味ではない。断じてない!
ちょっと想像はしたけど……。
「ご飯! オークジェネラルのご飯!」
「俺が作ってやるから夕食を楽しみにしていてくれ」
「お兄さんのご飯! あーん付きで!」
「おけおけ」
莉子は普通に飯だった。
まぁ……おなペコキャラだし。俺はそうだと思っているし。そういう莉子が好きだし。ご飯で釣れて楽だし。……あっ、口が滑った。声には出していないから安心だけど。
「むー!」
「お兄ちゃん、普通に声に出ているよ?」
「あっ、マジか……」
唯に声に出ていたと言われてしまえば俺も返す言葉がない。……機嫌をとるために莉子の頭を撫でたら怒った表情も消えたからこれでいいか。……チョロいヤツめ。
……今回は声に出ていない。良かった。
「リサは何かして欲しいことがあるか?」
「……一緒にポーションを作りたいの」
「それならまた素材集めに行くか。今度はアテナとアレスも連れていこう」
あまり二人と一緒に行動、いや、仲間にしてから二人と深い関係を築こうとしていなかったからちょうどいい。それにリサも嬉しそうに首を縦に振っているし。
「アテナは良い人。分からないことがあっても分かりやすく教えてくれるの!」
「アレスも良い奴だぞ。そのうち分かる」
「……少し怖そうなの」
それは仕方ない。だって、戦闘狂だし。強いヤツ大好きだし。キテンと戦いたがっているし。案外、いい勝負したみたいで固い握手をしていたし。その分、幼い子への対応がよくわかっていない節があるんだよな。
「そのうち分かるさ」
「仲良くなるの」
「急がずに、な」
後は帰ってからでもいい。五階に拠点を作ったのだから簡単に行き来が出来るしな。それにここでレベル上げも頭に入れれば攻略も難しくはないはずだ。ただし、これ以上は今日は進まない。
手を叩いて四人の注意を引く。
「今日は帰ろう。ドワーフの精鋭達が帰ってこなかった場所だ。焦らずに進むことを一番にする」
『うん!』
「分かったの!」
四人から返事が来た。
俺はただ言えなかった。素材を回収をしていた時に拾った紙束のことを。そして俺達が考えていた以上にここのダンジョンは甘くないということが。
四人の後ろを注意深く付いて行った。
俺は紙束をマップに投影させて小さくため息をつく。もしかしたらこの紙束を見たせいでドワーフ達は先を焦ったのかもしれない。ダンジョンの最下層は二十階。……普通に考えて俺達じゃクリアなんて不可能だ。
悪いとは思ったが紙束の話をする気はない。きっと皆は焦ってしまう。強くないことを責めてしまう。そんなことをさせる気もない。少しだけ見えた先が俺を焦らせようとしても考えを曲げない。リーネさんのためにも、リサのためにも。
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以下、作者より
書く時間が取れたのでなんとか書ききれました。土曜日か日曜日の投稿は出来るか分かりませんが先週の分も含めて投稿しておきます。……若干、眠いので作者よりの文章がおかしいのは見て見ぬふりをしてください。
以上、作者からでした。
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