1章54話 日常の中
「ようやく来れたなぁ」
「……いや、お兄ちゃんが遊んでいたせいだからね……!」
「確かに!」
唯の最もなツッコミに俺は首を縦に振った。
わざとではない。というか、昨日は俺もダンジョンに行こうって思っていたんだ。だけど日曜日の朝のような気分で、ついつい億劫になってしまったんだよな。
あまりいいことではないかもしれないけどリーネさんも苦しんでいないし。まぁ、完治ではないから早めに治そうとはするけど。ただ急いでもいいことはないしな。
「それよりも!」
いきなり大声をあげた莉子のせいで背筋がピンと伸びた。そうだ、今考えるべきはそこじゃない。この目の前にある空間に対しての話し合いを……。
「なんでリサはお兄さんに引っ付いているんですか! そこは私の場所ですよ!」
軽くずっこけてしまった。
いや、そこじゃないだろ……。ついには莉子もこの空間に慣れ切っておかしな状態になってきているみたいだ……。昔のような莉子はもういないのかもしれない。……いや、元からだったかもしれないね。
「ヨーヘイ兄に許可は取ったよ?」
「あー、渡したな」
「ズルいですよ!」
「別に莉子の権利じゃないだろ。莉子がしたいなら普通に来ればいいしな」
「なら! 行きまーー」
「いや、そこじゃないですよね!?」
飛びつこうとした莉子の首根っこを掴んでビョーンと服が伸びる。ぐえーと声をあげて莉子は尻もちをついてから喉を撫でていた。軽く涙目にもなっている。……菜沙、恐ろしい子!
「本当に緊張感が無さすぎですよ。昨日の分だけ進むって言って二階層分進んで……目の前には階層ボスがいるんですよ?」
プンスカと両手をグーにして腰に当てながら話してくる。少しだけ頬が赤いから若干、上目遣いになっている分だけ菜沙の顔の綺麗さが目立ってしまう。
「……怒っている姿、可愛いな」
「なっ……だ、騙されません!」
「あいあい」
菜沙をリサの反対の場所に寄せて頭を撫でておく。頬に手を当てて「可愛い……」と呟く菜沙を可愛くないと言える人はいないと思うんだが。……いたらぶち飛ばす。
と、また話が飛んでしまった。
確かに今は五階層ボスの前の休憩室のような場所にいる。目の前の質素だが固くて壊せなさそうな扉を開ければ中ボスがいるんだ。緊張感は大切かもしれない。ここで拠点も作っておかないといけないからなぁ。
「まぁ、先に倒してからでいいか」
「拠点のことだね!」
「そうそう」
とりあえずグングニールを構えて扉に手をかけた。ぱっぱと終わらせよう。多分だがここの階層のボスくらいなら楽に倒せる。進む時にも殲滅してから来たしポーションで回復済みだ。レベルも魔力も不安が何一つない。
「行くぞ。緊張感を持てよ」
「言われなくても!」
「喉がぁ……」
「消し飛ばします」
「砕くの!」
そのまま扉の奥へと入った。
広い空間だ。何も無くて誰もいない。ここから魔物が作られていくんだ。そして先に進むためにはここを何度かクリアしなければならない。まぁ、悪いが俺達の経験値になってもらうだけのことだ。
黒い霧が重なり始め現れたのはオークの群れだった。中心にはオークジェネラルがいるのでコイツが一番に強い魔物だろうな。実際は俺とアレスが共闘して倒したオークジェネラルよりもステータスが低いんだけど。
「先手必勝!」
「合わせます! 氷柱!」
「雷舞!」
「鳥獣戯画、反射!」
莉子の銃撃から火ぶたが切って落とされた。
続けて小さな氷の矢のようなものが菜沙の手によって生成されて雑魚兵を屠っていく。その弱った雑魚をリサの雷舞が……って、雷舞を使えているのっておかしくないか? 俺のオリジナルのはずだけど……まぁ、いっか。それがトドメをさしている。
そのまま最初にいたオークの群れだけを唯が鳥獣戯画で作り出していた。オークナイトやオークジェネラルは作らないみたいだ。MPを多く必要とするからだろうな。俺もそれでいいと思う。
「行くぞ!」
「最奥の強そうな種は洋平先輩に! 唯は私と一緒に、莉子はリサと一緒に周囲の殲滅をお願いします!」
「ラジャー!」
「オゥライ!」
「えっと、はいなの!」
俺が奥に向かうとそんな声が聞こえてきた。
菜沙の指示は適切だな。多分、俺と一緒に戦いたいんだろうとは分かっているけど効率を考えたみたいだ。ものすごく良い案だな。近距離と遠距離で二つのパーティに分けている所もグッドだ。
俺もそんな四人に負けないように戦わないといけなさそうだ。
「ブォ」
「邪魔だ」
オークナイトの首を飛ばす。
最初からキングの首は取れないだろうが狙うことは出来る。というか、俺の方が圧倒的に格上だ。今のところは、って付けないといけなさそうだけど。
どちらにせよ、コイツらの命は尽きる。その懸念も無意味に近いな。俺がコイツらを倒すだけなのだから。
「雷撃」
いくつもの雷を飛ばしてオークナイトを潰していく。俺に恐怖してくれている個体もいるが好都合だ。俺からすればジェネラルへの道を開けてくれているに過ぎない。
ジャンプして上から振り下ろすようにオークジェネラルへと斬りかかった。少し前ならばこの程度でも苦戦していた。いや、全員でかからなければ勝てなかったはずだ。俺も成長した、そういうことでいいんだろうな。
「邪魔だと言っているだろ!」
「ブギャ……」
「チッ!」
さすがに知能が低いとは言ってもこれだけの数がいれば楽にとはいかない。ダンジョン内なので素材回収は考えなくてもいい。それだけが少ない利点だったな。
「破裂しろ!」
増えて横並びになっていたオークナイトとオークをグングニールで傷つける。それだけでいい。ただそれだけで魔槍という、一本数億の値が張るほどのグングニールの能力が発揮されるんだ。
たった一本の横一文字の傷がついただけで目の前で構えていたオーク達は全滅した。まだ数は多い。だけど爆発効果が使えるのなら殲滅ほど楽なことは無い。ただ傷をつけるだけでいいんだ。気持ちも楽だな。
早く倒し切って四人の助けをしないといけない。オークナイトとはいえ、あの組み合わせでのツーマンセルは初めてのはずだ。何よりも俺が安心出来ない。
「悪いが首を貰うぞ!」
「ブルゥゥゥ!」
さすがに話は出来ないみたいだ。まぁ、これは今作られた存在という認識で間違いはないんだろう。どうでもいいが一つの疑問点が解消されたな。この黒い霧がリスポーンと関わっているのだろう。
振り上げたグングニールをオークジェネラルは躱した。わざわざ受けなかったのは多少なりとも雑魚兵が内部破裂を起こしているのを目にしたからだろうな。野生の勘か。面倒くさい。
そのまま後ろに飛んで前に詰めてくるところを見れば、知能が無いのは目に見えているけどな。やっぱり馬鹿だ。
「喰らえよ!」
「ブギャ!」
「汚ぇ声だな!」
さすがに武器から相手を破裂させることは出来なかったみたいだ。グングニールの効果は相手の地肌を傷つけないといけないみたいな感じか。となれば、ドラゴン相手の時とかに硬い鱗があるとどうなるんだろうな。
まぁ、今は関係がないか。
オークジェネラルを破裂させるためにグングニールを伸ばした。だが、オークジェネラルは俺の突きを体を翻して躱した後で、目の前にあるグングニールの柄の部分めがけて装備している剣で叩きつけた。
でも、悲しいかな。
「価値が違いすぎるんだよ!」
「ブギャ!」
その驚く気持ちも分かる。柄の部分は木材にしか見えない。剣は最低でも鉄以上の素材で作られた武器のはずだ。それなのにグングニールは折れずに剣を真っ二つに折ってしまったのだから。でも、オークジェネラルの心までは折れなかったみたいだ。即座に後ろに飛んで剣を投げ捨てていた。
そして死んだオークナイトの装備していた剣を二つ取って構え直す。それなりにオークジェネラルも本能で戦わなければいけないと気がついているんだろうな。少なくともジェネラルだからこその才能も持ち合わせている。戦闘でオークジェネラルも学んでいるんだろう。
だから何だ、という程度のことだけど。
再度、俺もグングニールを構え直した。二ラウンド目は面倒この上ないが戦いたいと、強くなりたいと思ってしまった俺の責任だ。その少しの余裕が体制を立て直せるだけの時間を与えた原因だからな。
____________________
以下、作者からです。
すいません、先週は忙しくて書く時間が取れませんでした。誠に申し訳ございませんでした……。途中で投げ出す気はないので応援よろしくお願いします。
後、1章がかなり長く続いていますが未だに終わる予定がございません。もう少しだけドワーフの村での話を楽しんで貰えると幸いです。
以上、作者からでした。
____________________
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます