1章44話 チートとチート

結果から言って俺達のグループが魔物を殲滅させるのは早かった。忘れられがちだけど俺はリーダーにされるくらいには強い。それにマップとかのチートもある分、効率もいいから当然だな。


菜沙班も同様に効率が良かったけど俺達の元の場所に戻ってきてから、その時間ぐらいに殲滅が完了したみたいだ。


「お兄ちゃーん!」

「うっ……はいはい、頑張ったね」


お腹への痛みを我慢しながら突撃してきた唯を撫でる。血だらけなので服が赤く染まりそうだが……頑張ったのに褒めないなんてことはしない。撫でたいしな。


ああ、これがダメなのか。

まぁ、今だけは俺への報酬ってことで許してもらおう。悪いが癖はそう簡単に治らなさそうだ。


「結果は何体倒せたんだ?」

「オークとコボルトが主で総数で言えば百ほどでしょうか」


マップを見る限り打ち漏らしはなかった。

今いる魔物達は新しくポップされたものだから無視しても……悪い結果ではないな。むしろ、もう少し少ないと思っていた。俺達よりも少し遅かったから数体だけリポップされた魔物を倒したのか。


「……ダメでしたか?」

「いんや、上出来だよ」


俺の表情が怖かったのか、萎縮しながら聞いてきた菜沙にそんな言葉を投げかける。頭を撫でるのは我慢だ。今の言葉だけでも嬉しそうな菜沙を見ていたら撫でなくてもいいのではないか、なんて考えも浮かんできたし。


とりあえずバックの中の素材類は倉庫内にしまって空のバックを返す。特に欲しい素材もなかったから売ってみると五十万ほどの利益になったので、三人に新しい武器を買う日もそう遠くはないのかもしれない。


丸々一体でオークなら一万円、コボルトなら七千円ほどと考えるとかなりの落差だね。まぁ、素材だけがドロップするのだから仕方がないのだけど。ただこれだけだと一攫千金の要素はなさそうだ。旨みがないわけではないけど外で狩りをしていた方が儲かりはする。群生しているから経験値の方はこっちの方が手に入りやすいけど。


「じゃあ、下の階へ……と言いたいところだけど今日は帰ろうか。早く安全に、それをモットーとして攻略するぞ」

「異議なし!」

「……もっとー……?」


三人からは大きな返事が、リサからは不思議そうな声を出されたが菜沙が説明してくれていた。感謝感謝、俺がモットーの説明をしろと言われても難しくて出来ないわ。


「……質問なんですけど行き帰りが面倒じゃないですか?」

「あっ、説明していなかったっけ」


リサへの説明が終わってすぐに俺へ質問をしてきた菜沙が首を縦に振る。そっか、説明した気になっていたけどしていなかったか。もしくは簡単な説明だけで詳しくは話していなかったからとかかな。


「まず転移でここに飛ぶのでもいい。だけどそれは非効率的だ」

「MPの消費が激しいんですもんね」

「そうだね」


最初は転移でもいいと思っていた。

だけど転移だとここに飛んでからは俺の出番はなくなってしまう。ポータルの存在だけを果たして使えない存在になれば、攻略にもかなりの支障をきたすと思う。悪いがこのメンバーの中で一番に強いのは俺だからな。


それなら別の方法を考えればいい。


「ダンジョンに拠点を作る」

「えっと……詳しくお願いします?」

「あー、いいよ。要は俺の拠点の能力で俺のパーティーメンバーなら自由にここに来れるようにするんだ。戦いに慣れるために入口から入るのは手際が悪い。一階層は一撃で死ぬ雑魚ばっかりだからね」


これには誰も反論はなさそうだ。

二階からはある程度強くなるから繋げていても損は無いし、この絶妙な緊迫感は二階からでしか味わえない。


「今は少ないクランメンバーも増えることを考えればいくつかの自由なダンジョンは保持しておきたい。もちろん、ドワーフと仲良く出来ないのなら首を切る所存だ」

「……ありがと」

「リサ達を苦しませる気はサラサラないからな」


リサが小さく感謝してきたのでぶっきらぼうに返しておいた。自分で言うのもなんだが少しだけ漢を演じてみたが……性にあわないな。もうやめよう。


「そこは分かりましたけど繋げる場所はどうするんですか?」

「最初は五階層ごとに置かれているボス部屋前にある休憩室に置こうと思っていたんだ。だけどここを使う人が俺達だけとは限らないし、五階層ごとだと不便なことも多い。今も無理をしないといけなくなるからな」

「となると……まさかとは思いますけど穴を開けるつもりですか?」

「いえっさー。だって、それが手っ取り早いと思うし」

「無理では? ゲームならダンジョンには事故再生機能とかがありますし」

「あっ、あるよ?」


菜沙が面を食らったような顔をする。

ないわけないじゃないですかー。やだな。だから穴を開けるんだよ。文字通り、そして言葉通りにね。


「俺の拠点は拠点と認めてしまえばその以前の能力を無効化する力があるんだ」

「……はい!? なんですか! それ!」


いやー、俺も調べてみるまで知らなかったんだけど拠点ってやばいほどにチートなんだよね。


言葉だけなら難しいけど分かりやすく説明するのなら、例えばダンジョンに小さな空間を作ります。ダンジョンの自己再生は大きな空間でも、小さな空間でも半日をかけてゆっくりと直していくんだ。だから時間はある。


その間に拠点と認定して能力を発動すれば、そこはダンジョン内であって、ダンジョン内ではなくなる。もっと言うのならその以前にあった自己再生の範囲に入らなくなるんだ。詰まり直すことが出来なくなる。


これもいくつかの条件があるチートだけど無機質であればなんでもいいから、だからこそ俺は怖いと思う。だって小さかろうがなんだろうが、生物じゃないのなら自分だけのものに出来るんだぜ? 怖くね?


理解に困っている唯とリサには菜沙が説明していた。やっぱり今の言葉だけでも理解出来るのか。すごいね、これは最早、以心伝心しているって言っても間違いはないんじゃないか?


「それってヤバいね!」

「だから頭を抱えているんです……。これってつまり私達に安住の地はないってことですよ? 自由に部屋を行き来して除きし放題なんて……」

「最高じゃん!」

「そんなわけありません!」


菜沙の妄想に対して三人が肯定した。

えっ? 三人? 聞き間違いですか? リサも肯定していなかったか? ま、まぁ、お兄ちゃんのような存在が部屋に来てくれて嬉しいってとこだよな。……危ねぇ、変な妄想をしてしまった。


ってかさ、こんなことを容易く想像している菜沙の方がヤバい気がするんだけど。俺やらないし。やるのなら唯と俺の部屋を繋げるくらいだわ。さすがに節度って言葉は覚えているわ。


「なんだ? 菜沙ってそうしてもらいたいのか?」

「そんなわけ! ありません……」


あの……語尾が聞き取れなかったんですけど。なんで徐々に弱くなっているんですか? 素直に違うって言えばいいのに。まぁ、良いけどさ。


「後、繋げた場合、俺の部屋にも簡単に行き来出来るようになるから多分、しないぞ?」

「そうなんですね」


なんで悲しそうな顔をする?

まさかとは思うがしてもらいたいのか? いや、確証がないから断定は出来ないけど。それに実際、しないし。


「悪いけどリサの家とダンジョンを繋げるけど大丈夫か? 一応は拠点内に俺が認証した人以外は入れないから安全だけど」

「……それで攻略が早まるのなら全然、大丈夫だよ? 後、リサとヨーヘイさんの部屋も繋げていいよ?」

「あー……気が向いたらな」

「……残念」


心底残念そうにされるとしてあげたくなるけどプライベートってあると思うんだ。特に思春期の男ならある程度、考えないといけないこともあるし。事情もある。


「とりあえず穴を開けるから離れていて」


今いる場所は入口を少し進んだ場所だ。拠点を出ればすぐに魔物がいる場所、ハラハラして良いと思う。それに左右に分かれていると言っても俺が今、叩いている場所から先に道はない。貫通する心配もない。


全員を下がらせて壁に手を当てる。

ダンジョンは物凄く硬い、だったらそれ以上の高火力で押すしかない。もしくは魔法で削るとかね。一つ言えるのは俺のステータスでは壁を壊せない。だから削る。


「拠点」

「えっ?」


全員から素っ頓狂な声が聞こえた。

あれ? これも説明していなかったっけ?


「あー、拠点って拠点を作りたい場所に手を当てても空間を作ってくれるんだ。大きさも指定出来るし」

「……怖いですね!」


だから削るんです。

まぁ、説明しなかった俺のミスだ。全員の認証をしてから中へ入らせる。イメージは俺の家だから生活する分には不便を感じないと思う。広いから十五人は住めそうだね。トイレとシャワーも別。家賃高そう……。



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以下、作者より


少し区切りが悪いですが次回はこの話から続く話を書いていきます。後、一章はまだまだ続きます。書いている感じでは百話いきそうで少しだけ怖いです……。まぁ、ゆったりと書いていきます。


私事ですがこの「現実世界はゲームと変わらないようです」が総PV二万五千を超えました! 応援ありがとうございます! これからも頑張って書いていこうと思うので、これからも応援よろしくお願いします!


以上、作者からでした。

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