1章43話 味方と見方
最初に向かったのは当然だが女性陣、仮に仕切っているのは菜沙だから菜沙班としておこう。俺達はその真逆だ。
今回の件は効率性に特化した戦いとなる。
まずパワレベの基本として仲間がどれだけの力があるか、そこを基礎として物事を考えていかないといけない。
そして明確にやり遂げたいことはなんなのか。そこがモヤモヤしたままなら成功する確率は少ないし俺としてもいいことが無い。
基礎の二つのうちリサの能力はここら辺の魔物を圧倒するくらいは出来る。つまり俺が目を離していても倒すことが可能だ。それはかなり大きい。
二つ目はリサに戦いの基礎を学んでもらうこと。リサは完全な前衛職で、悪いがタンク系のステータスになっている。HPと防御に特化している訳では無いが、比較的にそこの数値は平均以上。ましてや牽制にも使えるレプリカが大きく効いてくるだろう。
これを踏まえたならば俺がやることは小さな攻撃を後衛で行い、リサを前に立たせて注意を逸らしてもらうこと。だけどそれを言葉にしてはいけない。一見、難しそうに思えるけど。
「もう少しでオークがいる場所に出るから。オークは火に弱い、俺が広範囲の魔法の準備をするから守ってくれないか?」
「……任せて」
リサが親指をサムズアップする。
リサの考えの中に守ってくれること、守ることの二つは大きな影響があると俺は思っている。というのもリサの母が病気という立場でリサの奥底にはいくつもの葛藤があったはずだ。ワガママを押し込むこともあっただろ。
俺もそれはよく理解している。莉子がその一人だし俺も似たようなものだ。その中には弱い自分を隠すために守りたいという、自分の強さを誇示すること、それと守られたいという、自分を庇う弱さの塊が小さくとも出来るものだ。
幼い頃に不遇に襲われていれば尚更な。
その点で言えば莉子は俺という発散相手がいたし、俺には弱さは見せられなくとも気心が知れない、大切な妹という話し相手が、気晴らしの存在がいた。今でも唯を一人の女の子として見てしまうのはそれもあると思う。
結婚する気は無いけどな。
例え血が繋がっていてもそんな目で見たことがないってことは嘘でも言えない。だってあのルックスだ。モテモテの可愛い子が妹が俺を大好きと言ってくれるんだぜ。ラノベの主人公のような気持ちになれる。
人を上手く扱う。
言い方は悪いけどクランのトップに立つということは重要な才能だ。人の才能を見抜き適材適所を、自分達の出来る限りのことをして上昇させていく。
向上心のない奴ほど要らない存在はないね。リサは戦うことに意欲的だし、何よりも家族思いだ。俺には両親は死んだものとして見ているから何も言わないが、リサの立場なら、もし唯が死にそうなら何度でも死にかけてでも俺は動き、希望を掴もうとするだろう。
「魔法の訓練がしたいからそんなことを言ったんだが……悪いな、後で簡単なことならしてあげるから」
「……抱っこでいい」
「そう、分かった」
小さなことでも願い事を叶える。
そうすれば頑張る気にもなれるだろうし、リサは俺に兄のような目で見ている感じがするから、いくらでもそんなことを言っていられる。
願い事も予想が出来るしな。
だいたいは甘えることが多いから、そこも加味するとさっきの守る守られるの話がより想像しやすくなる。
「……行きます!」
「頼む」
素直に言えば詠唱無しで魔法を放てるからリサにヘイト稼ぎを頼む理由はない。だけど今はリサが強くなるためにやりたいことのだけだ。
少し面倒だが詠唱を呟かせてもらう。
「火の波よ、敵を穿つ力を見せろ」
「……少しだけ時間を稼ぐね」
リサは分かっている。
魔法を放つのに詠唱だけが必要なんじゃなくて魔力をねることが必要だってことが。実際はそれすらなくても魔法は放てるけど……まぁ、考えないでおこう。
「ブギ!」
「……遅い」
肉切り包丁が空を切る。
リサはその包丁を少し睨んだ後にレプリカで砕いていた。ダンジョン外なら売れる物が減るから出来ないが、ダンジョンでは関係がない。
「……かみなり」
「ギャー!」
目の前のオーク以外のオーク達に電撃が走る。なるほど、リサなりのヘイト稼ぎがこれか。……って、あれ? 俺が教える必要あるかな?
「……死んで!」
「って! ちょっと待」
俺の言葉の途中で目の前のオークが全滅した。本当に一瞬で光に変り始めたんだけど。
いやいや、そんな「あれ? 俺、何かやっちゃいました?」みたいな顔しないでくれるかな。俺が魔法の準備をしている時にそんなことをしたらダメじゃん……。
倒すのはいいけどさ……俺の意向を考えてくれよ……。この上げた右腕はどうすればいいの? ただの痛いヤツじゃん。俺の右腕がァァァ状態なんですが?
魔法の構築を途中でやめてリサの近くまで向かう。なんとなく俺の考えが分かっているのかビクッとしてレプリカを抱えた。
まぁ、倒せる相手を選んだ俺が悪かったな。自分で自分の力を測りきれなかったんだろう。俺も悪かったしリサも悪い。
「取り上げないから安心しろ。よく倒し切ったな」
「……怒っていない?」
「こんなことで怒っていたら胃腸がいくつあっても足りないよ。それにリサが思っていた以上に強かったことが分かった。それだけで良い成果になるしな」
本当は我慢しなければいけないのだろうがリサの頭を撫でて宥める。
今回のことで分かったけど安全にヘイト役を覚えさせるより、少し危険がある中で体で覚えた方が良さそうだ。リサが出せるだけの力を出した状態でやらせた方がいい。
後衛役は俺じゃなくてもいいし戦力差がありすぎるなら俺は戦わない。そこを踏まえれば俺が動きの幅をきかせられる状態だろうし難しい環境下ではないと思う。
今回はお預けだな。
それなら普通に戦わせて早めに殲滅させよう。ようやく新しいオークが一体生まれたところだからダンジョンでの魔物の増え方にも予想がつきそうだし。
それにリサには才能が無いわけではなさそうだしな。良いのか悪いのか生まれながらにタンクの才能がありそうだ。最初の攻撃の時には明らかにオークの視線は俺ではなく、リサだけに集中していた。
ドワーフの村に来て思ったのはドワーフ自体が全員が全員ではないけど、タンクとしての力があること。ってか、父親があんな見たまんまのタンク系の存在なら継がれていてもおかしくないしね。
次の近場のオークの集団に目をつけてリサの手を引きながら向かう。目の前に出てきてすぐに俺は駆け出した。
ダンジョンならではの戦い方、そして忘れかけていたがグングニールには隠された力がある。俺はオークにグングニールを刺してから能力を発動した。
瞬間にオークが爆ぜて血の霧が舞う。
そのオーク達が視界を奪われている隙に鑑定やマップを駆使して場所を把握、血の霧が絶えないように爆ぜさせるのを繰り返して二十はいたオークを殲滅させた。
「……すごい」
「いやいや、これはスキルと武器を使った戦い方なだけだから。俺の能力が高いから出来たことじゃない」
リサの褒め言葉を否定する。
ステータスは俺の力とはいえ、スキルは俺が最初に貰ったポイントによる影響が大きい。俺が強いからスキルも強いとは少し違ったものになる。
何よりも一番スキルレベルが高い菜沙でさえも、剣術スキルで七止まりだからな。もしかしたら七まで簡単に進んだところを見ると、七から八へのレベルアップには条件があるのかもしれない。もしくはそれ以上の熟練度みたいなものがあるのかの二択か。
「……スキルはその人の才能。才能があっても覚えられるわけじゃないし、手に入れたからと言っても強くなるわけじゃない。だからヨーヘイさんはすごい」
「そっか」
うん、そういう見方もあるよな。
運がいい、それが俺の才能かもしれないし、誰がなんと言おうとチートを貰えたのは事実だ。それのおかげだろうと貰えた俺の運という実力なのだから文句は言わせない。
そういうことにしておこう。
納得はしないけどな。
そのまま次の魔物のいる場所に向かって歩を進めた。
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