1章42話 特有のアレ
「……リサのことをいじめるなよ」
「虐めてないよー!」
「……そうだよ?」
いや、本気で言ってはいないんだが。
まぁ、幼子一人に倒したであろう魔物の素材を持たせていればそう思うだろ。唯も莉子もそんなことをする人だとは思っていないけどな。どちらかというと男性脳だ。
莉子に至っては脳筋の節があるな。
「はい」
「うん、ありがとう」
いつも頭を撫でたりしているので今回は無しだ。その代わり後で違うことでお返ししよう。
今でも唯以外の頭を撫でるのは少しだけ躊躇いがあるからな。撫でる時は意識せずに勝手に動いていることが多いから、こういうことで少しずつ変な癖を治していこう。
そんな目をしても……しないからな……。
俺の固い意志はそう簡単には曲がらない。
「後でな」
「……我慢する」
するかどうかも分からない約束をして素材を回収する。
チラリとマップに目をやってから周りの魔物の数を数えるが……あまり増えていないな。ポップやリポップまでの時間は長いのか?
四人全員のレベルは高くなっているし、リサを除いた三人に至っては二十まで上がっているからな。すぐにやられるなんてないだろうし……そうだ、もっと効率のいい方法があるよね。
「……お兄ちゃんが悪い顔をしているんだよ」
「良くないことを考えている顔だよね」
「良くないことってなんだよ……」
俺が考えついたのはRPGゲームなら誰でもすると思うやり方だ。俺がクランにいた時はよくやっていたことだし今の俺達には必要なことだと思うんだが。
「それじゃあ、何をするんですか?」
「菜沙には分かると思うけど班分けをしようと思っているんだ」
「却下ですね!」
なんで!? いや、唯や莉子が否定するとは思っていたけど菜沙に否定されるなんて思っていなかったんだけど? 菜沙はどちらかというと効率的なゲーマーの考えをしているから否定されるなんて少しも予想していなかった。
「……何で?」
「洋平先輩が言いたいことは分かりますがイレギュラーな化物がいることもあるかもしれません。その際に私達で対処するのは難しいでしょうし、全員でいる方が楽だと思うからです」
たっ、確かに……。
俺がやっていたゲームでもそんな敵キャラがいたな。ダンジョンに長時間いれば現れる敵や運営が送り込んだ負けイベント、そんな敵を無理に倒そうとはせずに逃げることも多かった。
どうするか……?
仕方ない、少しだけ突っついてみるか……。
「さっき言いたいことは分かるって言ったよな。それならどうすれば納得出来る?」
「分かりません。確かに洋平先輩が強くて知らない場所でも知識として頭の中に送り込む力があるかもしれませんが、察知出来ない敵もいるかもしれません。効率を考えれば洋平先輩のやり方に賛成ですが……」
やべぇ……言い返せねぇ……。
まず盤面を整えよう。俺の最大の敵は菜沙だ。別にリサと二人きりになりたいわけではないが、こっちの方が今はやり方として好都合だ。
唯と莉子は……脳死状態なのか菜沙を褒めているだけ。それなら菜沙さえ打ち崩せれば俺の意見を押し通せるはずだ。……負けてもそれはそれで攻略の方法だしやるだけやることにしよう。
「菜沙はそれをどうして望む? ゲーマーなら俺の考えの方がより強くなりやすいし防具も整いやすい。バトルロワイヤルゲームなら敵を倒して装備を奪わないと強くはなれないよな」
「……安定性ですね。私が怖いのはイレギュラーです」
イレギュラーか……。
少しだけ糸口が見えた気がするな。
「でも、その数日の間でリーネさんの病は進行しているかもしれない。もしかしたらその期間があって助けられないかもしれない。仮定を考えればキリがないけど強くなるに越したことはないと思うんだが?」
「それは……そうですが……」
「見えないものよりも見えるものを優先したい。それに仮定をあげればキリがないんだ。仮定に悩むのは今は必要が無いだろう。例え現れたとしても俺でさえ勝てない気がするからな」
ゲームの時は俺が強いから殿でも何でも任せて貰っても何とか出来た。だけど今の俺はキテンと同格だ。チート以上の反則級の敵が現れたとすれば俺になすすべはない。
「そういう敵と戦えるようになるために少しでも効率を考えたいんだ」
「ですが! ……ですが……」
何かが菜沙を納得させないのか。
なんだ? 一度刃向かったから引くに引けないのか? もしくは二人がうるさいからか?
「それなら今回のことを許してくれれば願い事を一つだけ叶えてやるぞ」
「それなら許します。今、一番に必要なことは全員の強化ですもんね」
「おっ、おう」
「えっ?」
二人の声が重なる。
いや、俺もすごく驚いているんだが……何でもは漫画の世界とかネットの世界でしか強くないと思っていたんだけどここまで効くのか。……俺はまさかひもじい思いをさせていたのか?
こんな食い気味に納得してくれるとは思っていたんだけど……。
「……なんかごめんな?」
「どうかしましたか? 私は洋平先輩の言いたいことに納得しただけですよ。別に洋平先輩へのお願いごとに目が眩んだわけじゃありません」
そっ、そうだよな……。
いや、でも一応は釘を刺しておくか。
「何でもって言ったけど性的なことはナシな。リベンジポルノとかを考えれば怖いし、今の世界なら法律なんて効き目がないからな」
「それは理解しています」
「良かった」
俺は胸を撫で下ろした。
未だに納得出来ていない二人は後で丸め込めるはずだから気にしなくていい。これでより楽にダンジョン攻略が進められそうだ。
「それなら行きますよ」
「えっ? 待って! お兄ちゃーん!」
「助けてください! お兄さん!」
「えっと、行ってらっしゃい」
まさかここまで効くのか。
自分の陣営にさえ引きずり込めれば勝手に動いてくれるなんて……良い人材を得たな。それに菜沙に効き目のある言葉は「なんでも」ということが分かったし楽が出来そうだ。
「あっ! 待ってくれ!」
「どうかしましたか?」
唯と莉子が助けの声に応えてくれたと思ったのか俺を見つめてきたが、もちろん、違う。悪いけど違う。本当にその目に応えてあげたいけど違う。
「これを持っていけ」
「これは……ありがとうございます! それじゃあ行ってきますね!」
「おっ、おう。行ってこい」
最後の希望を絶たれたような目をしている二人に手を振る。ごめんな、俺はどちらかというと女性脳なんだ。計算した上で動くような数値を考えて動きたいんだ。
後で何かをして機嫌を取ろう。
今回、悪いのは菜沙じゃなくて俺だからな。
「……最後に何を渡したの?」
「うん? あれはマジックバックっていう上限はあるけど時間経過とかがない、大容量のカバンだよ」
「ふーん」
興味も無さげにレプリカを撫でてから俺の横に寄り添ってくる。アレでも数百万という代物だからな。俺の異世界倉庫の劣化版だと思ってくれればいい。
「……デートだね」
「……そうだな、娯楽のある場所じゃなくてごめんな」
「……戦うのは好き」
ニッと口元を開きピースを作ってくる。
そこら辺は万国共通なんだな。ちょっと怖い一面もあるけど戦うのがデートに入るのなら悪くは無いな。俺も一緒に戦う分には楽しく思えるし。
唯や莉子、菜沙の方は嫌いそうだけど。
やれゲーセンに連れていけーとか言われそうだな。主に莉子が。俺はゲーセンよりも家でゲームをしていた派だから外に出たくはないな。今のパワレベはゲームと変わらないし動くことで疲れることもない。
痛みはあるけど疲れにくい。
現実味が薄くなってくるし夢から覚めれば元の世界が待っているかもしれない、そんな儚いことを思ってしまう朝もある。だけど今が現実なんだ。それなら生きやすくするしかない。
クランの時より良かったことは経験値が共有出来ることだからな。この力を使って全員でクランを立て直していくだけだ。そう考えると少しだけ興奮してくるな。
「んじゃ、行くか」
「……うん」
俺はリサを連れて三人の向かった逆側に足を進めた。
あっ、ヤバっ。
また無意識に頭を撫でてしまった……。
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以外、作者より
一度、この話を書ききってから消えたので萎えていました。何とか書ききれたので良かったですが誤作動って本当に嫌ですね。
もうそろそろで書く時間が取れなくなりそうなのでインターバルが伸びそうです。申し訳ありません。
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