1章41話 見解と分析

一階と二階の魔物は変わらなさそうだ。

だけど出てくるレベルは格段と高くなった。一階では最高で五レベルが最高であった魔物達でも、二階では十五が最高とレベル差は明らかだ。


まぁ、俺だったら楽に進めそうだが……この調子で一日一階層ずつなんて現実的じゃないな。唯達ならもし、この流れでレベルが上がるのならオークがレベル六十、つまり地下七階ほどで戦えなくなりそうだ。


その話でいうのならオークがレベル六十ともなればナイトや、下手をすればジェネラルまで進化していそうなものだし……俺もデパートで倒したオークジェネラルがわらわらと現れたら太刀打ち出来ない。


それにナイトが現れてしまえば学校以上のオークが現れることを指す。経験値は多そうだが……いのちだいじに、誰かが欠ければダンジョン攻略は失敗だ。欠ける人がリサなら尚更な。


「……っと、リサもパーティー登録したぞ。これでレベル上げに関しては楽になるはずだ」

「……ありがと」

「どういたしまして」


まずは経験値配分がしっかり出来るようにしないとな。


今はアレスとアテナがパーティーにいないから手に入る量も楽になるし、自分で倒すよりも少なくなるとは言ってもラストアタックを気にしなくて済むしな。


さっきの戦いを見れば実践もいくらかは出来るだろうし、最悪はキテンがいるから俺も少しは暴れられる。ぶっちゃけ動けないのはキツイな。


「リサも強いことがわかったし敵のレベルを考えながら進ませていくぞー。後、こっからは自由に動いていい。後衛の唯でも少なければ近接で倒せるだろうし、それに……」

「……それに?」

「わざわざリサを守らなくて済むのなら、いかに早く敵を潰すかがレイドやミッションの評価点となる。そんなところかな?」

「さすが莉子! 全くもってその通りだ!」


早く進ませておけばゲームの製作者側から一目置かれる。上手くいけば次のミッションとかの話も聞けるし、ポイント制の敵をたくさん倒すミッションなら俺達のクランに入りたがる人も多い。何より宣伝になるのが一番の理由になりそうだな。


なんでもそうだが少数で出来ることと出来ないことがある。それにどれだけ仕事が出来るかなんて入れてからじゃないとわからないだろう。


俺達が決めた鉄の掟には人柄と有能、思考の三つの観点から仲間を探していた。有能っていうのは言い方が悪いが、要は適材適所のように役職を回して仕事が出来るかどうかだ。それはなんでもいい。人を見る目やまとめ上げるような人と上手く関われることとかでも十分。


人柄は普通にネットの馬鹿にすることしか出来ない人や、他人との関わり方がおかしい人や、ゲームの戦い方に品がない人とかが入るな。わかりやすく言うのなら死体撃ちとか見ていて腹が立つことを平気でする人は要らない。


思考は人柄と似たようなものだな。

変わっていてもおかしくなければいい。と狂気のようなは似て非なるものだしな。その点でいえば陽真は論外だ。人を痛めつけることしか能のない奴はゲームをする資格もない。


そのことを短時間に理解出来るのは俺と莉子か。それでも莉子に人を見る目に関しては勝てる自信が無いが。関わる時間が長ければ別だけどな。頂点に立つ俺だけにペコペコしても下の人達のネットワーク内に密偵はいる。それにそんなことをしなくても莉子が見誤ることは少ないし。


まぁ、実際は早く済ませばリサやリーネさんの苦しむ時間が少なくなるからな。やる必要がなさそうに見えても早くやるに越したことはないだろ。どうせ、そのことを話せばツンデレだのなんだの言われるから言わないが。


「それじゃあ、最初の魔物がいる場所に向かうか」


今回のダンジョン戦で得なければいけない情報がある。


一つ目は外界の敵とレベル差による能力値の違い、動きの差。


二つ目にポップ、リポップなどのゲーム特有の魔物の出現。


三つ目に敵のドロップアイテムの差。


一つ目は言わずもがな俺が見た限り一階での魔物のステータスは、同種でレベルが同じであれば同じステータスを持っていたからだ。


これがダンジョン一般に言えることならダンジョンの魔物達は個性というものがないと言える。外界の魔物は俺達と同じで違う親から生まれて違う環境で生きるからな。ステータスやレベルに差はある。才能だって差があるだろう。


足が早ければレベルアップでより早く、力が強ければ物理面で強くなり、頭が良ければ何故か魔法が強くなる。魅力があればその数値も良くなり、運すらもステータスで測られるからな。


二つ目のポップ、リポップの話は場所さえ分かれば、俗に言うキャンプや巡ってみても構わない。ゲームのようなマナーは俺達以外の客がいないダンジョンには無関係だろう。


要は養殖だ。リサをもっと全線向きにさせるために、な。たくさんの経験と経験値が必要になるから必然と言ってもいい。


三つ目のドロップアイテムの差はこれもゲーム経験者なら分かりやすいと思う。これ見よがしにステータスに書かれている幸運はダンジョンのためにありそうだからな。


もし俺の予想通りなら俺が魔物を倒すのと菜沙が魔物を倒すのでは、ドロップアイテムの質がかなり変わってくるだろう。この中で一番に幸運が低いのは他でもない菜沙だ。


例えば俺の倉庫で見た時にリサ達から手渡されたものは肉と毛皮、そして牙だ。牙>毛皮>肉の順で数は少ない。コボルトに限定したことだがドロップアイテムで落ちやすいのは牙とみて間違いないだろう。


それじゃあ、誰よりも幸運の高い俺ならどうなるか。そして落ちるアイテムに差があるのか。なんなら牙以上のレアドロップとかあるのか。


そう思って俺は四人に説明してみた。

まぁ、リサ以外簡単に納得していたからおかしくはないよな。菜沙が少し悲しそうな顔をしていたけど仕方がない。悲しそうな顔すら可愛く見える俺は末期なんだろうな。……ちなみに唯に足を踏まれたが。


軽くフォローを入れてリサに説明を任せてから、一つ目のオークが十五体いる場所へとついた。数分で説明を終えられる菜沙はやっぱり頭が良いんだろうな。


俺はオークの前に立ち深呼吸する。

さて、ここからが本番だ。


「雷舞」


久しぶりに使った気がするが出し惜しみする気は無い。


オークには悪いが俺の、俺達の実験材料になってもらう。


俺が雷舞を当ててから即座に菜沙の首切りでオークが三体死んだが俺の見たかったものは見れた。まずステータスに状態異常というものがあり、その中には麻痺というものもあるみたいだ。HPの横にしっかりと書かれていた。


随時、視界の左右にはマップと相手のステータスが表示されているので見づらい。だけどステータスで分かったこともマップで分かったことも必要なことだ。多少の我慢は致し方ない。


「……終わり」


リサが俺の近くまで来てVサインを作る。

俺はその頭を撫でてから素材を回収した。


まず幸運で魔物のドロップアイテムは変わるようだ。少なくともオークの最高レア度のドロップアイテムは、オークの、その……睾丸だったが俺が倒した時は全部が落とせるドロップアイテムの全てを落としていた。肉と皮と睾丸の三種類を。


次にポップは数が減ってすぐではないみたいだ。倒してから数分経った今でも二階の魔物の総数に変化はない。


最後に魔物の行動はどこか機械的だ。

ラスト二体のところで攻撃をやめさせて見守っていたが、同じような行動を繰り返して、まるでプログラミングされたゲームの魔物みたいな行動をしていた。乱数のようなものではなく本当の機械的な何か。


「ふぅ、それで菜沙はどんなことを思った? 敵は強い? 行動に違和感は?」


俺一人で悩んでも仕方がないので菜沙に助けを求めた。ゲーム脳の菜沙が一番、良き理解者となりそうだからな。


「同じくらいの力、そして同じ行動。……まるで何かに操られているようでした。例えば私が昔戦った傀儡師の操る人形のような」

「うん、それは俺も思う」


この間に唯にリサと莉子を連れさせて少数の魔物のいる場所へ向かわせていた。近場だからそこまで困ることもないしな。


菜沙は双剣を見つめて呟く。


「ダンジョンが魔物を操っている。……もしくはダンジョンを操る何かが……」

「ダンジョンマスターか。……いても不思議じゃないよな……」

「……嫌な予感しかしませんね。私達が頑張ったところでダンジョンの最下層まで、リーネさんを助けるところまでいけるのでしょうか……?」


菜沙の不安そうな声と顔に俺も不安感を煽られる。


菜沙だって人なんだし、俺と同じように辛いことを経験して痛みを理解している存在だ。もしここで俺が弱気なことを言えば菜沙はきっと……。


「大丈夫だ、俺がついている。クリア出来ないのなら他にも方法があるだろ」


エリクサーを買うやルーン花を買う、そんなことを俺は出来なくもない。まぁ、高くて買える気もしないけどな。


回復魔法を使いこなせればもしくは……そんなことも夢物語じゃない。


「菜沙は安心してイキリオタクの俺に守られていればいいんだよ」

「……そうですね。イキリオタクの洋平先輩に守られ頑張ります」

「イキリオタクは否定して欲しかったんだけどな」


俺は頬をポリポリとかいた。

菜沙がいつも以上の笑顔になる。クランメンバーの皆の士気を操作するのも俺の役割だ。テンションが低いなら上げるしかない。


「……ありがとうございます」

「おっ、おう!」


最後に笑顔で頭を撫でられた時には驚いたが成功したということだろう。ギャルゲーのように選択肢をミスすれば面倒くさいことになる。特に俺のモチベーションが持たなくなるな。成功してよかった。

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