1章40話 デジャヴ
「……また勝手なことをして……」
「……ごめんなさい」
怒れる三人の前に俺は頭を下げることしか出来ない。デジャヴだ……。いつだったかも同じように謝った気がする。
「リサを連れてくるのは百歩譲っても仕方ないよ。だけどさ! リーネさんとイチャつくのは違うと思うな!」
「それはやっていない! 断じて治療だ!」
唯達に説明をしたのはリサだ。
だからリサの感じたことをそのままに伝えられていた。そのためにリーネさんとイチャついていたとかおかしなことを話されることになってしまったが。
それにリサにも説明をしたはず……。
まだ根に持っているのか? いや、確かにお母さんを取られそうになったら子供は嫌な気持ちになるよな……。申し訳ない。
手を握っていたリサをそっと抱き締めて申し訳ない気持ちを軽減させていく。リサには意味が分からなさそうな顔をされたけど嫌な顔はされていないので悪くはないはずだ。
「それもおかしいよ! なんでリサと手を握っているの!」
「唯とはいつもしていただろ。後でするから許してくれ」
これは贖罪だ。
断じてリサと抱き合いたいとか触れ合いたいとかいう気持ちは少ししかない。おっと、変な言葉が出たな。そう、少ししかない。
「今度、デートでもすればいいだろ。昔はよくしていたんだし」
「それなら許すよ!」
唯は納得したけど莉子からは批判の声が聞こえる。だけど、あんまりデートとかそういうことを安売りしていたらここぞという時に使えないからフォローはなしだ。莉子だって他のことでカバー出来るだろうしね。
「莉子、これからダンジョンに行くんだ。生半可な覚悟なら死ぬかもしれないんだぞ。少しは考えてくれ」
「……そうだけど……無理やり納得させられている気がするんだよぅ……」
「なんのことだか?」
「……洋平先輩がすごい顔をしています」
呟く菜沙の口を止めるために頭を撫でて片手にグングニールを準備する。
「さぁ、行くか」
全員の声が重なり俺は安堵した。
まずダンジョンには俺が最初に足を踏み入れる。初めて足を踏み入れてみたがキテンの言っていた通り道には松明がいくつも置かれている。
マップを開いてみる。
なるほど地下三階までは光があると言っていたけど、ドワーフ達で地下四階までは行ったみたいだな。マップで見たところ地下四階まではマップが書かれている。五階からは一切、何も書かれていないから引き返したんだろう。階段のマークまで書かれているし。
ダンジョンもよくあるマップ機能で歩いたところが記載されるタイプみたいだな。それに出入りで中身が変わるみたいなびっくり仕様はなさそうだ。そう考えるとマップ機能がどれだけダンジョン攻略に向いているかわかるな。最下層まで分かるわけじゃないのがネックだが……楽しみにしておけばいい。
「一階はオークとコボルトがいるみたいだ。雑魚としてゴブリンもいるみたいだけど強い敵はいないな。気を抜かずに一階を終わらせるぞ」
「りょーかい」
「……なんで知っているの……?」
ああ、そういえばリサには説明をしていなかったな。確かに全ての説明をされたわけじゃないのに現れる魔物を理解していたら驚くよな。
「そういうスキルだよ。ただ説明は難しいかな」
「それならいいよ。……楽出来るし」
リサは一つ大欠伸をしてレプリカを構えた。
その構え方は明らかに素人だったけど弱そうには見えない。どこか異質な雰囲気を出しているのはドワーフ特有の武器補正かな。鑑定で隠れスキルのようなものがあって槌補正大って書かれるぐらいだ。興味が無い方がゲーマーとしておかしい。
「最初はリサに任せよう。菜沙は近くでカバー出来るように、唯は回復準備と莉子は遠距離準備だな。俺は三体以上ならヘイト稼ぎをする」
「……やってみます」
他の三人からも首を縦に振って肯定されたのでミスは無いはずだ。少し面倒くさげで心配気味のリサの頭を撫でて近場の魔物のいる場所に向かわせる。
すぐにコボルトが現れてグングニールを構えた。
「死んでくださーい!」
……はい?
目の前にいたコボルト三体がドミノ倒しのように壁に飛ばされた……んだよな? 小さな体と武器では出来なさそうな、物理的に考えれば不可能なことをリサがやってしまった。
武器補正だけではないよな。……まさかリサの才能なのか。武器も関係していたとしてもすごい戦力になるな。……初めて会った時のコボルトナイトに襲われていた時とは大違いだ。
「おいしょっと!」
「……すごい」
「確かに」
菜沙の独り言に無意識で肯定してしまう。
俺でなら出来るかもしれないが菜沙はどちらかというとスピードタイプだ。菜沙のパワーでは振ることは出来てもこんなに上手く同じ現象を起こさせることは出来ないよな。
「まぁ、菜沙には違う役割があるし、唯や莉子も同じだ。リサと菜沙が前衛に立てばやり方はかなり増えるしな」
「分かっていますよ。私は助けられた恩を洋平先輩に返すだけですから」
「気にすることないのに」
菜沙の言葉に重さと律儀さを感じる。
まぁ、別に菜沙が重い女であろうと唯や莉子と仲良くしてくれるのならハブる気もないし、一度でも仲間と認めた菜沙を消す気もない。それに菜沙と一緒にいて楽しいしなぁ。あえて言うのなら菜沙がいてくれないと俺が悲しい。
もう一つ言うのなら菜沙が重い女なわけではないからな。純粋にあの時のことを恩に感じているだけなんだろう。
「……その……頭を撫でないでください。気持ちがよくて眠くなってしまいます……」
「寝ても背負ってあげるから安心して」
「……本当に先輩は意地悪です……」
菜沙は後輩力が高いな。
つい片手が伸びて頭を撫でてしまう。なんだろうか、甘やかしたいというか、愛されやすい子なのかもしれない。その子に尊敬に近い思いを抱かれていれば嬉しいな。
「……リサの勝ち!」
リサのレプリカの一撃でコボルトが光へと変わっていた。……って、光に変わるのか。死んだら魔物の遺体がそのまま残るような外の世界とは違うようだ。
「なるほど、素材だけが落ちるのか。とことんゲームみたいだな……」
「……ゲームって?」
俺の独り言に魔物の落とした素材を回収して持ってきたリサが尋ねてくる。可愛らしい笑顔を浮かべていたけど攻撃の時にはアレスの時のような鬼気迫るものがあったんだが。
ゲームの大まかな説明をしながら素材を倉庫にしまう。時折、リサが頭を突き出してくるのでハンカチで顔に付く血を拭き取った。やっぱり可愛い顔で、純粋な顔で血だらけなままで近づいてくるのは怖いよな。
「……頑張ってよかった」
「そうか、それなら俺も撫でがいがあるな」
十数回往復をしてから手を離す。
これなら気を負う必要も無いな。にんまりと口を三日月形に割いたリサを見ると何をしたのかすら忘れてしまう。もしかしたら俺に抱きついたら俺の背骨ごとボキボキ……いや、考えないことにしよう。
「それにしてもリサは強かったんだな。戦う時に怖がる様子もなかったしな」
「……あの時のリサとはバイバイしたかったの。……ヨーヘイさんがいるのなら後のことを考えなくても良かったから……」
「よかったよ。あの時のことで怖い思いをしたと思っていたからね」
コボルトナイトに泣かされていたリサ。
あの時こそ怒りは湧かなかったが今では殺すだけで済ませたことを少しだけ後悔している。まぁ、嫌われるかもしれないからやりはしないけどな。
それにレプリカを振って血を落とすところを見ると戦闘狂に見えるな。表情から見える純粋さが余計に戦う時の恐怖を煽る。この笑顔と純粋さで攻め込まれたら……怖い。不名誉だが戦闘狂って呼ばれている俺もこんな感じなのだろうか。
強い敵とは戦いたいけど。
「怖くても……ヨーヘイさんと会えた良い思い出だから……。あのコボルトナイトには感謝すらしているよ……?」
どこか表情を探るのは俺が嫌な思い出として捉えているかもしれない配慮からか。嫌な思い出ではないよな……。リサと同じくそのおかげで俺の野望の第一歩を踏み出せるのだから。
「俺もドワーフの村に来れる理由が出来て良かったよ。リサと会えたことも含めたら悪い思い出じゃないね」
「……それならよかった」
リサは黙ってレプリカを背負って穏やかな目で俺を見つめてくる。さて、後顧の憂いというわけではないが戦力差を考えればもっと早くしたに向かってもいいだろう。経験値を考えれば下を開通させておかないとな。
「……うん?」
「次は私がやるから!」
「あっ、はい」
唯に裾をクイクイと引かれ言われた。
なんだろう……いつか見たような……さっき怒られたようなデジャヴを感じる。……いや、まさかな……。
実際、唯はオークを二体倒してから頭を突き出してきて、それを撫でれば第二第三の刺客もとい頭なでなで所望者が現れて同じことを繰り返した。結局、全員の頭を撫でることになるなんて……最高だったということにしよう。特に唯は後でも堪能させてもらうとしようか。
その足で一階を後にして二階へと降りた。
どれだけ下があるのか分からないが出来た時も近いからすごく下まで続いているわけではなさそうだけどな。まぁ、リーネさんが苦しませないように早めに、それでいて俺達が負けない程度に安定してクリアしていくとしよう。
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