1章38話 思いがけず.......
「あら、また来たのかい」
病院の玄関口を掃いているキュアさんにそう言われた。確かに昨日来たばかりだから来る必要性が分からないよな。
「キテンとの約束で回復をするって言ってしまいましたから」
「その年で回復魔法も使えるのかい。……ちなみにスキルレベルは?」
「十です、使ったことはないですけど」
だけどスキルを手に入れた時に使い方は不思議と頭に入っている。レベルが高いだけで最高難易度の回復魔法は使えないし、エリクサーレベルの回復はMPが足りなくて使えない。
でも、スキルレベルが高いということは最低レベルの回復でさえ、大幅な補正がかかって強い回復となる。例えばスキルレベル一で回復魔法の最高難易度であるリザレクション、つまり蘇生させる魔法が撃てるとすれば自分以外の対象者のHPとMPを全回復させる効果が半分ほどまでの回復となってしまう。
うーん、我ながら分かりづらい説明だなぁ。もっと言うのなら目の前のキュアさんの回復魔法のスキルレベルは四だ。俺が撃つ最低レベルの回復魔法でキュアさんの中レベルの回復魔法を上回れるってところかな。
「……珍しい子だねぇ。ギフト持ちかい?」
「そうですね、ふとステータスに現れたので何とも言えないです」
ギフトとはなんだろう。
そう思って少し考えるがどうせチートみたいなものだろう。それならば俺の回復魔法も似たようなものだ。
「いきなりって珍しいね。生まれながらじゃなくても与えられる人もいるのかい」
「うーん、俺が知っているギフトと違うかもしれないですね。俺に関しては本当にいつの間にか手に入れられたものですし」
「何か隠しているように見えるけど……回復魔法がギフトじゃないとかかねぇ。他のギフトで回復魔法を手に入れて……」
「そこまでにしておきましょう。さすがに詮索されるのは好きじゃないです」
キュアさんは悪びれた様子もなく「歳のせいで知りたいことが多くてねぇ」と口だけ笑う。目は笑っていない。本気と書いてマジと読むくらいに俺の能力が気になっているみたいだ。
まぁ、教えたところで悪いことはないが教える義理もない。リサの母を生かすためと言うのなら俺達だけでも十分だからな。唯には悪いが残ってもらって回復してもらってもいいし。
詮索されると弱みを探されているように感じられて好きじゃない。わざわざ隠す感じもなく聞いてくることが俺には余計に好ましく思えない。
「……おお、怖いねぇ。まぁ、ギフト持ちなのは知れたから手を引いておくよ。それにしても神様からの贈り物を手に入れられるなんて運がいいねぇ」
「運だけが取り柄なので」
先程までの空気が優しいものになる。
敵対するつもりは無いから一言で引いてくれるのならそれでいい。全部を求められるほど俺は自分に能力があるとは思えないからな。
それにギフトは神様からの贈り物ということで間違いはないのか。実質、グングニールとかは俺以外に手に入れている人は見ないし、それに俺のように変わったステータスの得方をした人も見ていない。キテンすらも驚かせた一品だからな。
「それで連れて行って貰えますか? 俺も薬の材料のためにダンジョンに行かなきゃいけないんですよ」
「それくらいなら構わないよ。他に何か手伝うことはあるかい? 詮索の礼をしたいんだが」
「別にいらないですよ」
病院の中を歩きながらキュアさんに聞かれるが特に必要なものは無い。なんならポーションなどは欲しいが……あ、昨日、アテナに教えるつもりが教え忘れていた。だけどポーションが欲しいけど今日の夜にでもみっちりと教えればいい。それに危なければ買うことにしよう。困ることは無い。
昨日はあんまり考えなかったが古き良き木材の家にいくつかの部屋。これといった医療器具は見当たらないから魔法がどれだけ有能かが分かる。
受付にはベンチと椅子があって俺達が座っていた場所だ。そこより奥は初めて見たが割と部屋数は多いな。回復魔法も万能ではないってところか?
「そうかい、ほれ、この部屋だよ」
キュアさんが止まった扉の前で軽くノックをする。トントントンと三回叩いた時に「どうかしたのですか」と優しげな声が聞こえた。キュアさんが「お客さんだよ」と言い入って行った後ろをついていく。
俺が入るととても驚いた表情を浮かべるので笑顔で返しておいた。リーネさんがいるのは窓の前に置かれたベッドの上だ。窓から光が差していて少し眩しい。
「昨日の方ですよね……?」
「はい、合っていますよ」
不思議そうな表情をされたので笑顔を崩さないように優しく話しかけた。昨日見た時よりも頬の色が悪い。昨日のように赤くなっていた頬は死人とまではいかないが暗めになっている。
「それで……その方がどうしてここに来たのですか……?」
「えっと、使い慣れてはいないですけど回復魔法が使えるので手伝いに来ました。キテンとの約束の中に回復魔法をかけるとも話しましたから」
「……何から何まで申し訳ないです……」
「いえいえ、それも踏まえての約束ですから。それにキテンから報酬は貰えますしね。リーネさんはゆっくりと薬が届くのを待っていてください」
俺の言葉にリーネさんは苦々しい顔をして俯いてから首を縦に振る。少し間を置いたかと思うとリーネさんが顔を上げたので俺もリーネさんを見る。
「すいません、キュアさんは少しの間、この場を空けてくれませんか?」
「……分かったよ。まぁ、危なくなったら呼んでくれ」
「何もしませんよ」
俺の言葉を意に介せずといった表情でキュアさんは部屋を出ていった。話がありそうなのに話しかけてくれないリーネさん。部屋に沈黙という重い空気だけが漂っている。
こういう時には俺から話をするべきなのだろうか。いや、話をしようにも一番に話をしたいのはリーネさんのはずだ。それと何かを決意しているような表情が少し突っかかる。
「……何が目的なのですか?」
ようやく口を開いた。
何が目的なのか、昨日もキテンに聞かれたんだよね。だけど返事はなんとも言えない。明確に話すにはかけていることが多すぎる。となれば、現段階で大部分を占めている理由を話すしかないか。
「リサのためです」
リーネさんは首を傾げる。
それを見て俺も軽く首を傾げた。
「おかしな人ですね」
「あまり言われたことは無いですけど。……まぁ、話しながらでも回復魔法は使えます。少しだけお体に触りますよ」
「構いませんよ」
言っておいてなんだがお体に触りますよという言葉で勘違いが起きたことを思い出した。アニメでもあったらしいけど唯が風邪をひいた時に「身体に障るから動くな」と言ったら「誰が触るの」なんて聞かれてしまった。あれ以来、言葉遣いに配慮したっけか。今は忘れて言ってしまったが。
ベッドの後ろを回ってリーネさんの背後を取る。昨日のブカブカの服では気が付かなかったが十分に痩せ細っている背中が、白過ぎて生きているのも不思議な体に心が痛んでしまった。
力を入れただけで壊れてしまいそうな背中に軽く触れて回復魔法の中級レベルの魔法を使う。
「供給」
ぶっちゃけ名前は分からない。
例えば初級のHPの回復魔法ならば回復という名前なのは分かっているし、ヒールという言葉でもいいことは勝手に頭の中に入ってくる。
でもMPを渡しながら同時にHPを回復させる魔法はないようだ。MPを渡すだけなら讓渡という名前になるらしいから、この初級レベルである回復と讓渡を組み合わせた魔法を適当に供給っていう名前にしておいた。
効果は中級レベルという名前にふさわしく自分のHPとMPを讓渡するのだが、渡す時に二倍にして相手に与えることが出来るというものだ。例えば百のHPをリーネさんに渡すなら二百となってリーネさんに渡される。
それに触れることによって渡す途中での無駄が省けていい。電気が空気を通過する時に弱まっていくように離れて回復魔法を使えば回復量も減ってしまう。だから触れる意味に変な意味合いはない。
「あっ……」
「痛くないですか?」
「えっと……気持ち良くて……おかしくなりそうです……」
「それなら良かったです」
軽く回復魔法を流すだけで背中をピクンと震わせるということは本当なんだろうな。ちょっと俺にも撃ってもらいたい。最近、腰が少し痛いんだ。
青白くなりかけていた顔が惚けた血の通っている顔になってきた。「驚く程に調子がいいです」とボヤくリーネさんだけど、まだダメだ。
「これは解決にはなっていないです。今、流した量ならば一週間は持ちますが、元となる病気が治った訳では無いので気を付けてください」
初めてでもスキルレベルの補正のおかげか、どのくらい持つかなどの医者などがわかる事が大まかに掴める。これも確実性や証拠はないから信用問題になるけどな。
「……お外には出られますか?」
「ええ、それくらいなら。ただ一緒に行くのならキテンと一緒に行ってください。あの人は口で言わないだけでブツブツとリーネさんを気にしていましたよ?」
これは面白かった。
起きた時にキテンがブツブツ言っていたのはリーネさんのことで、多分、昔やっていたことなんだろうな。治すための方法を知るために奔走して、やっと近いところまで来たのに何も分からない。出来る人がいない。その時の非力さを嘆いていた。
俺にもよく分かる。
非力さなら何度も実感したからね。
「……分かりました、それなら久しぶりにデートでもしようかしら」
にこやかに笑うリーネさんに「いいですね」と返しておいた。そんな時に大声が響く。
「まだ治療中だよ!」
「話があるの!」
怒鳴るキュアさんの声に同じくらいの大きさで反論する女の子。バタバタと廊下を走る音が聞こえて扉が強く押され開いた。
「リサ!」
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以下、作者より
文字数が多かったので二つに分けさせていただきました。次でリーネさんとの話は終わってダンジョンに入れると思います。
後、近いうちに次回も投稿します。出来ればダンジョンへ行くところまでは書き上げたいですね。
以上、作者からでした。
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