1章37話 薬
目が覚める頃には日は上り切っていた。
昨日のお酒は体に残ってはいない。二日酔いなどはなさそうだ。パフォーマンスに支障をきたすから無くてよかった。
足を九十度に曲げながら寝ていたために膝上に乗っているリサごと膝を伸ばすとバキバキと嫌な音がする。それでも痛めていないのは高くなったステータスのせいか、はたまた若いからなのか。
「……起きたの?」
「ああ、おはよう」
「おはよう……?」
リサの頭を撫でて目を覚ます。
顔を洗いたいのでリサを下ろした後で鍋の水を地面に流してから、鍋に水を入れてタオルを放って顔を拭いた。ついでにリサの顔も拭いておく。
「グガアァァァ……」
「うるさ」
「同感」
隣の馬鹿親父は未だに寝ているようだ。
酔いのせいでは無いな。ただ単にイビキをかいて気持ちよさそうに寝ているだけだ。鼻に止めるものでも入れて口を洗濯バサミで止めてやりたい、そんな悪戯心をくすぐられる。
昨日のカッコよく話をしていたキテンの面影はないな。今のキテンは土日休みのお父さんみたいだ。まぁ、リサの父だから間違いはないんだけどな。
家の外に出て大きく伸びをした。
まだ朝と呼んでいい時間のはずだ。陽の傾き方を見れば十時くらいか? 今日だけで少しでも進ませることくらいなら出来る。家々を遮る柵を回って村を見渡した。
ドワーフ達は外で作業をしている。
昨日ほどの不思議そうな、対応に困った目では見てこない。それでも外に出ているのは少ない人数だが俺を見て違う意味で複雑そうな顔をする者が多いな。
「……おはようございます」
「あ、ああ……昨日はありがとう。家族で美味しく頂いたよ」
近くの家の庭にいた髭の薄い男に挨拶をするとそんな返事が返ってきた。多分、ここで俺を見ても家に戻ろうとしない人達は昨日の子供達の家族だ。隣の人も俺が渡したご飯を食べたのだろう。
「……こんにちは」
男の人の背後に隠れるように挨拶をしてくる子がいた。見覚えのある顔だ……あれは俺が一番最初にご飯を食べさせた子供だな。
「おはよう、昨日はよく眠れたか?」
「うん……あんなに美味しいご飯は初めて食べたよ……?」
どこか機嫌をうかがうような態度に心が痛む。幼い子に気遣いさせるなんて大人としては失格だ。もちろん、幼い子供に気を遣わせる親も親ではない。でも、隣にいるドワーフを見る限り俺とは違った、良い家族なんだろうな。見ていてホッコリとしてくる。
俺はフッと薄ら笑いを浮かべて男の子の頭を撫でた。
「お前の親が頑張って作った料理なんだからそんなことを言ったらダメだぞ」
「……そうだよね! 僕のお母さんはすごいんだよ!」
脈略のない言動。
親への絶対的な信頼感。
隣のドワーフの恥ずかしそうな顔。
俺もこんな家族の元で生まれたかった。
子供の語彙力だから長く言い続けられたり同じことを繰り返す場面も多かったが、その子供の親自慢は数分間続いた。どれだけすごくて面白いか。そんなことを話し続けられる子供の方が愛嬌があっていい。
「はっ……ごめんなさい。……長く話し続けちゃって……」
「いいんだよ。すごいね、君の家族は」
「うん!」
子供に対しては難しい言葉じゃなくていい。
簡単に子供が理解出来るくらいの言葉で共感してあげればいいんだ。何も家族自慢は悪いことじゃないからね。
「……すいません、時間を取らせてしまって……」
「いいんですよ、僕も聞いていて楽しかったですし。……あっ、もし家族の方々で同じような料理を作りたいのなら話を聞きますよ。キテンがいてくれれば安心感はありますよね?」
俺も知らない人から話をしたいなんて言われたら、信用出来る人を間に置きたくなるからな。今回はご飯を食べてくれたり話をしてくれたりしてくれたけど、次回からも同じようにしてくれるとは限らない。
俺としてはドワーフ達とは仲良くしたいし。わざわざ少しの努力で仲良くなれるのならいくらでも努力してみせる。リサのことも考えたら仲良くなるデメリットの方が少ないしね。
「……それならお暇があればキテン様にお話しをさせていただきます。家内や息子が喜んでくれますからね」
「あのご飯を食べれるの! やったー!」
「では、また今度。親は大切にな」
「うん!」
良い親で素直な子供だ。
あんな親なら俺もグレなかったかもしれないな。俺が苦しんでいた時も助けてくれたのは他でもない唯だったし……兄でもあった。もう二度と会いたいとも思わない兄。でも助けてくれたことには感謝している。
そのおかげで今があるのだから。
甘ったれたことは言わない。
気持ちのこもっていない慰めなら要らない。
俺は家の方に吹く風と共に視線を親子から逸らした。家に戻る。昨日ほどではないが昔とは違う豪華な食事が並んでいる。朝食、いや時間的に昼食だが、それにしても豪勢だ。ガツガツ食べてしまうアレスの気持ちもよく分かるな。
途中で起きてきたキテンもアレスと同じようにご飯を多く食べてから準備を始める。こんな家系だと楽しそうだけど食費がかなりかかりそうだな。
俺の武器はグングニールだから最前衛でもあり中衛でちょこちょこ動かないといけないな。後衛の莉子を考えたら唯が俺と同じように中衛に、菜沙に前衛を任せなければいけない。回復魔法の扱いにも長けているわけではないからやりながら何とかするしかないか。
指に切り傷をつけてから魔力をそこに集めて治していく。これによって回復魔法が手に入ると神殿であったが同時に自己治癒も手に入れていた。……これはパッシブらしいがレベルはないみたいだ。自身に回復をかけたり時間での自己回復力が大きくなるらしい。
手に入れた回復魔法のレベルをポイントでグググッとレベルを最大にしておく。これでやることは揃った。
「それじゃあ病院に行ってくる。三人は先にダンジョンの前に行っていてくれ」
「うー、一緒に行きたいよ……」
「ダメ、一人で行ってきて軽く話をしてから早く回復させたいから」
「ワガママはダメですよ。早く終わらせると言っているのですから」
唯のワガママに菜沙が説得を入れる。
本当に話をしながら回復をするだけだから時間はかからないはずだ。後は……うん、出来たな。異次元流通の検索機能で倉庫内の破れた本の詳細が分かった。
これに作り方は書かれていない。ただ必要なものは間違っていないみたいだな。異次元流通のルーン花の使用欄から同じ薬があった。名前は……エリクサー。……とりあえずは異次元流通を手に入れておいてよかった。
エリクサーか、よくある定番の万能薬だな。効能としては全ての状態異常や病の回復、瞬時に全ステータスを回復、最後にデバフ効果を消し去り一定時間のバフ効果と自己回復力の強化か。強すぎじゃないか?
神殿のおかげで薬師や回復魔法の得方を知ることが出来たんだ。それと組み合わせればって、俺の持っているスキルってものすごくチートなんじゃないのか?
まぁ、余ればエリクサーは頂いて村に作り方だけ教えておこう。もしかしたら病院のあのドワーフのように薬師とかになれるドワーフもいるかもしれないからな。
不貞腐れる唯の頭を撫でて鎮めてから先に家を出る。もう昼頃だからリーネさんはご飯を食べているかもしれないな。俺達のご飯を少しだけ残しておけばよかった。
手作りではないが消化の良さそうな惣菜、こんな世界になりたての時に手に入れたコンビニのうどんを出しやすいようにしておく。かなり時間が経っているとは言っても倉庫内では時間の経過がない。安心して出せるな。
隣のドワーフ達のように外に出ているドワーフ達に挨拶をしながら病院に向かった。
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以下、作者より
今更ですがキャラ達の相関図を作り直していたので書くのに時間がかかりました。まだ作りきれていないので少しずつ書いていこうと思います。
あっ、一週間以内には出せるようにしますので出さなくなる訳では無いです。多分。
以上、作者からでした。
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