1章35話 飲み始め
食事の後は皿とかの洗い物以外はしまってからキテンとリサを連れて家の縁側のような場所に陣取った。外から見た感じは外国の雰囲気なのにこういう場所があるのは日本人として少し嬉しい。
「……ここまで連れてきてどうしたの?」
「あー、二人ってドワーフだから、まぁ、キテンに対してだな。こんなのでも飲むかと思って」
酒瓶を五本、床に置いてラベルを見せる。
お酒とかを飲む人なら有名かもしれないけど一本一万円くらいはする、日本酒の久保田の萬寿と呼ばれるお酒だ。一度だけ誤飲したことがあって飲みやすかったから買ってみた。
それにドワーフならば日本酒なんて飲んだことがないだろうからな。どうせ飲ませるのなら美味しくて飲みやすいものの方がいい。焼酎とかなら独特の辛みなんかがあるって聞いたことがあるし。
「……酒か?」
「そうだな、一応は俺達の世界では価値の高いものだ。俺達の世界でしか作られていない酒。興味はないか?」
「あるに決まっている。でも……これじゃあ足りないわな。……ちょっと待っていろ」
一度、座ろうとしたキテンが身を翻して奥へと入っていく。よく分からなかったが地下室のようなものを開けて下へ降りる姿を見たのでそこにお酒を隠しているのだろう。
「リサも立ってないで座れば?」
「……なら、ここで待っている」
「……そこでいいならいいけど」
リサが座ったのは俺の膝の上だ。
よく分からないがそこがいいなら退かす気もしない。よく唯にもこういうことをされたからそれより軽いリサなら痺れることもなさそうだしな。
数分が経ったがキテンは帰ってこない。
心のどこかではついにアイツは死んだのか、なんて不謹慎な考えを持っていた。まぁ、そんなことで死ぬようなタマじゃなさそうだから探すのに時間がかかっているのだろう。
「あー! そこは私の特等席だよ!」
「……早い者勝ち!」
「ムキー! 私のだ!」
遅すぎたせいで皆が片付けを終えて俺のところまで来た。いや、別にいてもいいんだが出来ればキテンと話がしたかった。だから遠慮して欲しいかと聞かれればして欲しい。
「悪い、今はキテンやリサと話がしたかったんだ。今度してあげるから我慢してくれ」
「しっかりとアーンをしてくれるのなら許しましょう!」
いや、莉子は何も言っていないだろ……。
そんなに根に持っているのか? 心の狭いヤツめ。仕方ないからここは素直に頷いて今度も同じようにしてやろう。
「私は一日デート券が貰えるのなら」
「それでいいなら別にいつでもいい」
「えっ? 早くない? 私の時と全然違うよ!」
当然だ、莉子は可愛いが妹程ではない。
唯の可愛さを理解し切っていないようで。まぁ、莉子も可愛いから……よくよく考えれば甲乙つけ難いくらいに莉子も、菜沙も可愛いな……。
「莉子にもそれを付けてあげるから許してくれ」
「それならいいよ!」
唯も莉子も仲良しだ。
喧嘩をすることなく二人共それで納得してくれた。アレスとアテナは何かをすると言わなくていいとしても……菜沙だけ仲間外れは駄目だよな。
「菜沙も何か欲しいなら言いなよ」
「いえ……洋平先輩の近くにいられればそれでいいので……」
うっ……なんて健気な子だ。
だからこそ! そんな子には報酬を与えたい。まさか同じものを与えても喜ばないだろうし普通に聞いていこう。
「嬉しいけど本当に気持ちだ。アレスやアテナよりも長い期間、俺の横で戦ってくれただろ。ある程度なら叶えるさ」
「……それなら新しい武器が欲しいです。出来れば遠距離のものがあればありがたいです」
「分かった、考えておく」
何を渡そうか悩むな。
莉子のような銃でもいいし弓でも悪くはない。投げナイフなんかでも菜沙なら簡単に扱えるんじゃないのか。そこはもう少しだけ悩んでからにしよう。
「アレスとアテナはまた今度な。少し前にそれを渡したばかりだから」
「構わない」
アレスに次いでアテナも首を振る。
いや……前言撤回でアテナにだけ何か渡そうか。……半分、冗談だが。羨ましがることが少ないアレスの表情を見たい気持ちもあるからな。
嬉しそうに去っていく皆の後ろ姿を眺めながら、ぼんやりとリサを撫でる。唯のようにどこが気持ちいいのかわからないが、軽く抱きしめながら頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めた。
「悪いな、遅れた」
悪びれた様子もなく頭を掻きながら戻ってきたキテンの手には、少し埃をかぶったラベルすら貼られていない茶色の瓶があった。ガラスはあれど透明なものはないらしい。
「……久しぶりに見た」
「あー、リーネが元気だった頃ぶりか。客がいるんだ。少しぐらいなら飲んでも構わないだろ」
ドンッと強めに床に置かれた酒を手に取る。
蓋を開けて実験の時のように手で匂いを扇ぎ嗅いでみる。……ロシアの原液ウォッカのような強い刺激臭だ。アルコール度数が低いわけが無いな。ドワーフが飲むレベルのお酒なのだから。
尚更、作ったおつまみが重要になるな。
日本人が好むおつまみだ。刺身なんて文化は外交されるまでは日本特有の文化と言っても間違いはなさそうだし。
「……これってアルコール度数とか分かるのか?」
「アルコール度数……ああ、酒の濃さみたいなものか? 一応は酒の元となるものが九十に対して他の成分が十だ」
おいおい……アルコール度数九十ってことかよ……。大酒飲みでも好んでは飲まないな。俺だったら飲みたいとは思わない。さすがに酔い潰れそうだ。
「リサも飲むのか?」
「少し薄めてだけど飲む。慣れれば美味しいよ?」
可愛く小首を傾げながら小さなコップにお酒を注いだ。薄めると聞いたのでレモン水をペットボトル一本分を買って入れてあげた。
「……飲みやすくて美味しい!」
「なら、よかった。俺もそのままだと飲みたくないからな」
「なるほど……ドワーフ酒は好き嫌いが分かれる。その水が気になるな」
キテンもレモン水が気になったようなので他のコップに俺とキテンの分を作る。キテンにはドワーフ酒が濃いめで、俺の分はリサより少しだけドワーフ酒が濃いめだ。さすがにキテンほど濃くはしたくない。
味は焼酎とか日本酒とかの間くらいの辛さか。焼酎も飲んだ時があるが、まぁ、それも誤飲に近かったけどな。それと日本酒の間くらいの味だな。だけど独特の臭みがレモン水のサッパリした風味に消されている。辛みも酸味と相まって美味しく感じれるな。ただ甘味よりは苦味の方が強いのでビール系が苦手な人にはとことん嫌われそうだ。これもレモン水のおかげで甘味が強くなって飲みやすくなっている。
例えるなら……カクテルだな。アルコール度数の高いカクテルならば飲みやすいものも多いって聞くし、カクテルとして出されたのなら普通に美味しいって好まれそうだ。
日本にあったお酒で作るとすればビールが元となって、レモン水と辛味の強い焼酎を混ぜればいいのかもしれない。これも試したことがないから確証はないけど。
「……確かに美味いな」
「……俺もこれは美味いと思う」
「でしょでしょ!」
嬉しそうな姿を見ると楽しくなるな。
コップのドワーフ酒が進む。これだけでも充分いいが俺が飲みたいのはこっちの方だ。そっと俺の後ろに置いていた日本酒に手をかけて倉庫からおちょこと徳利を取り出す。
金属鍋に水魔法で水を注いでお酒を冷やしておく。徳利の中に日本酒を注いで鍋に戻して……味わったことは無いが熱燗というのもあるらしいからこのまま温めるのも手か?
いや、最初は数年ぶりの日本酒を味わってみるのが普通か。冷やさなくてもいいが俺は冷やした方が飲みやすいと聞いたのでそうしておく。
「それって何だ?」
「ああ、このお酒……日本酒っていうものを飲むのに使われている道具だ。これはガバガバ飲むものじゃなくてゆっくり飲むんだよ」
俺の手元にあったおちょこと徳利に二人が興味を示したので説明しておく。その後で納得した風の二人の前におちょこを出して注いでおく。
「まずは飲んでみな」
「……ああ……ん? 少し甘いな」
「うん、甘くて飲みやすい。……あまり濃くはないからリサでも飲みやすいよ?」
「まぁな、だからガバガバ飲むものじゃないって言っただろ?」
二人が頷く。
一応はこのお酒はアルコール度数が高い方として扱われているんだけどな。二人はケロッとしているから水と変わらないのかもしれない。
俺も少し口に含んでみる。
ヤバいな、俺が徐々に不良になっていっている。リサが飲むくらいだから俺が飲んでも法律違反ではなさそうだが。……それに少しも酔いを感じないな。これはステータスのせいか、成長のせいか分からないけど。
だが、日本酒だけでとても美味しそうに嬉しそうにされてしまえば、おつまみである二種類が出たらどんなことになるんだろうな。俺はニヤリと笑ってしまった。
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以下、作者より
もう少しでPVが2万に届きそうだったので連日投稿です。少し早いですが今まで応援してくれた方々、とてもありがとうございます。また、これからも応援していただけるととても嬉しいです。
後、もう一つの作品の書くモチベーションが上がらないので投稿周期が少しの間だけ短いかもしれません。ただ予定は予定なので期待せずにお待ちください(笑)
以上、作者からでした。
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