1章33話 食は全てを凌駕する

フラグは失敗に終わった。

帰り道で変なこともなく、もっと言えばドワーフすら見ることが少なかった。どこか俺達を忌避する行動に望まれぬお客人ということはよく分かる。


別に望んで欲しいわけじゃないし他のドワーフ達を助けたいわけでもない。リサに悲しんで欲しくないだけでリサやリサの家族以外が被害を受けようと俺にはどうでもいい。その被害を与える側に俺達がいなければいいだけなのだから。


それでもそうは言っていられないことはよく分かっている。俺はドワーフと敵対する気はないし欲を言えば仲良くなりたい。リサのお友達という点や異世界の住人という点で興味があるからな。


「おぅ、待っていたぞ」

「ただいま帰りました」

「……何? その挨拶?」


キテンが迎えてくれたので普段通り挨拶をしたのだがリサに不思議そうな顔をされた。キテンも同様に首を傾げている。……アレスやアテナまでもが不思議そうにするんだ。異世界にこの挨拶はないみたいだな。


「俺達の世界の挨拶だよ。家を出る時は『行ってきます』と出る方が言って、送る側は『行ってらっしゃい』と返すんだ。逆に帰ってきた時は『ただいま』と『おかえり』って言うって感じだな」

「……人族ってよく分からないな。まぁ、面白そうだ。今度から使ってみよう。……と、それじゃあ、おかえりだ」

「ただいま、お父さん」


行ってきますの本当の意味とか教えたら使われないんだろうな。実際は『行ってきます』は『逝ってきます』の意味があったらしいし。わざわざ死にに行くなんて日本人ぐらいしかいないだろ。そんな文化があるのは。


「ほれ、何をぼうっとしているんだ。お前以外、先に今に戻っているぞ」


少しだけネットサーフィンに明け暮れていた日々を思い出していたが、キテンに体を揺さぶられて我を取り戻す。良くも悪くもあの頃は良かった。何もせずとも生きていけたんだからな。……よくあの親が養ってくれたな、とは少し考えたけどそこは最低限の面倒を見たのだと思っておく。


「悪い、考え事をしていた」

「……話せとは言わないが思い悩むなよ。お前が死んだらリサが悲しむからな」

「確かにそうだな。それにリーネさんも助けられなくなるかもしれないし」


キテンは首を縦に振る。

現金なヤツだ。それ以上は望んでもいないし仕方ない部分が多いけどな。俺とキテンを繋ぐものなんて大してない。あるとすれば俺は珍しい、キテンの悩みでもあるリーネさんを助けられるかもしれない数少ない存在なだけ。後はリサに気に入られた存在ってところか。


俺は無言でゆっくりとリトルスパイダーを売り払ってみた。一体で四十万、その中には蜘蛛の糸なども入っていたのでそこで高値がついたのだろう。買う時の説明欄には異世界あるあるの『リトルスパイダーの足は良質なカニの足のような味がする』と書いてあるが、わざわざ毛むくじゃらな抵抗のある蜘蛛よりも、普通にカニを買って食べた方が圧倒的に安いし楽だからそうするわ。


何気にカニも毛むくじゃらでエイリアンみたいだ、と言われればそれまでだけどな。ただ俺には抵抗がないからそっちの方がいい。


「それじゃあ、早く助けないとな」

「ああ、頼りにしている。俺の目に間違いはなかったんだと、他のドワーフ達に知らしめてやってくれ」

「はいはい、任せておけ」


俺とキテンが今に戻る頃にはリサと唯、アテナがバタバタしていた。鍋とかの場所を聞いていたから食事の準備だろう。……そこまで慌てなくてもいいのにな。


「あー、待て待て。ここだとろくな材料がないだろ」

「失礼だな! 酒と肉はあるぞ!」

「……野菜はねえのかよ。とりあえず食材と調理機材は提供してやるから、あまりバタバタするな。ホコリが飛ぶ」


ギャーギャー騒ぐキテンを無視して倉庫から道具をいくつか出していく。買ったり取ったりしていたガスコンロや炭、着火材などを取り出して頭にタオルを巻く。


「……いっつも飯は奢ってもらっているから俺が作る。後、祝いだ。少しはいいものを食べても誰も怒らないだろ」


ある人は言いました。

食は何ものにも勝るものなりと。いや、あったかどうかは知らないけど。だけど、どうせ食べるのならワイワイと食べれるものの方がいいだろ。特に野菜とかを美味しく食べるのならこっちの方がいい。


「ドワーフって外でご飯を食べる習慣はあるのか?」

「ねえな。何をしたいのかが全然分からねえ」


キテンに「まぁ見ていれば分かる」と指を左右に振った。唯達には悪いが野菜などを切ってもらって菜沙や莉子には道具のセットを頼んだ。テントや椅子がほとんどで後はコンロが二つだけだ。


「……何をするの?」

「ご飯を作るだけだ。食べる人も参加型の楽しいやつ」


多分だけどな。俺自体はこういうことを多くしていたわけじゃないし。俺はリア充ではないのだ。やる方が少ないと思う。


「俺たちにやることはあるか?」

「あー、アレスは特にないから待っていてくれ。キテンも同様に、だな。リサはほれ、唯達が待っているから食材をよろしく」


気まぐれに何かをする。

別にそれでもいいような気がするんだよな。特に誰かと一緒に何かをすることほど楽しいことは無い。それは人と関わりたくない俺でも重々理解している。


俺は静かに外に出た。

家に入りたての時とは違って少しだけドワーフがいたけど、俺達を一瞬見て目を逸らしていく。わざわざ近づいてくる者もいない。俺はこんな人達と関わるつもりは無い。……だけど誤解だけはされたくないんだよな。誤解をされることがどれだけ辛いか、俺も感じて辛かった記憶があるから。


「これはアレをするんですね」

「そうだな。……タレは作り方とか分からないから市販のでいいよな。後は莉子はしっかりとピーマンを食べるように」

「嫌だよ! あの緑の悪魔はお兄さんにあげるから!」


本当にわがままな奴だ。

ピーマンごときを食べれないのなら苦いものなんて食べれないだろ。ってか、料理によっては食べれるとか不思議すぎる。


莉子に「食べれない女の子は嫌いだな」って返すと苦々しい顔をしながら「食べるよ」と返ってきた。うん、食べれたらありったけ甘やかしてやろう。


俺は二つのコンロに炭を撒いて小さな山のような形にしていく。火バサミは一つしかないので二人には見てもらうことしか出来ないけど楽しそうだ。


「……お兄さん、得意だったもんね」

「まぁな、あの時はリョウとアンダーは炭の起こし方なんて知らなかったからな。俺がやらなかったら誰もやれなかっただろ」


一度だったか、記憶は定かではないがクランの幹部以上で集まって食事会をしたことがあった。アンダーは大きな会社の社長の息子で一個のキャンプ地を借り切ったんだよ。それで「邪魔だから」と言って全員を避けたはいいが誰も炭を起こせない。仕方ないので俺がやったという話だ。


その時に全員の名前と話は聞いたけど名前呼びよりはニックネームみたいなもので呼びあっていたし、今、皆の名前を思い出せと言われても思い出せないな。リョウはそのままリョウだったのは覚えているが。


手馴れた、とまではいかないがゆっくりと着火材を火バサミで挟んで先っぽを火魔法で火をつける。それを炭の山の中心に差し込んでうちわをとりだしてから軽く扇いでいった。


赤い何かが飛ぶ。煙が立って焼ける匂いがポワポワと周囲に舞っていく。風魔法を駆使して外側へ飛ばないようにしておいた。他に迷惑をかけるつもりもないからな。見えない風の流れが家を囲んで煙も匂いも上空へと飛んでいく。


「……久しぶりのバーベキューだ。後、俺の手作りの何かも作るからそっちも楽しみにしていてくれ」

「はい、楽しみにしています」

「……そこまで期待しないでくれよ。皆レベルで作れるわけじゃないからな」


一人暮らしが出来る程度だ。

それでもネットのレシピとかを見ていくらかは作れる。ちなみにお菓子とかも作れるけどそれは別にいいか。今度作ってやろう。


五分程度をかけてようやく炭にまで火が届いた。燃えている、これで後は網の上で焼くだけだ。


ずっと森の中にいた二人には美味しい魚介とかも食べさせて、そして全てを終えた頃にはリーネさんも混ぜてより楽しいものにすればいい。その発破をかける行事でもあるのだから今回の出費は高くはないだろう。その分を二人作成の武器や防具でカバーすればいいし何よりも今はお金に余裕もあるしな。


少しだけ北海道産のホタテが楽しみだったりする。バター焼きにするか、刺身にするか。うーん、すごく悩むな。


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以下、作者より


戦闘会を書きたいです。


以上、作者からでした。

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