1章32話
「ここです」
「……ここか」
薬草が群生しているスポットとしてマップに載っているから、探して見つけるなんてすごいな。俺なら根気強くやるなんて難しいからやらないだろう。
よく花畑とかで辺り一面に何々の鼻が咲き誇っている、なんてテレビで流れているような映像が目の前にあるのだが、目の前にあるのは花ではなく雑草のような草だな。疎らに鼻も咲いているので一概に違うとは言えないが。
だけど綺麗な花には毒があると言われるくらい気をつけないといけない。確かに辺りに花や草が広がっているけど、その中での割合としては薬草や魔力草と呼ばれるポーションの素は半分といかない。ましてや全部を取ってしまえば来年などで取ることはできないのでもっと少ない量しか手に入らないな。それに最初にも言ったように、ポーションの素になる二種類以外は強烈な毒を持つものがほとんどだ。使えないものも多いけどな。
「これとこれだ。リサは分かっていると思うが皆には知識がないからな。この二つはポーションの素になるが他は毒性の強いものしかない」
「毒のレベルで言えばどれくらい?」
「唯らしい質問だな。……うーん、トリカブトくらいだと思っていい」
これでも毒性のある草で、それもこの中で毒性の低いものがこれだけの力があるんだ。下手をしたら俺達が誤飲をして即死なんて簡単に出来るだろう。
「トリカブトって、何だ?」
不思議そうにアレスが聞いてきた。
俺達の世界ではトリカブト=毒草という公式が成り立つけど、元魔物である兄妹や異世界の住人であるリサ達には分からないだろう。
「俺達の世界で毒が強い植物といえばそれだったんだ。他にも強い毒草はたくさんあったけどな」
「なるほど」
アレスは納得したように頷いて近場の薬草を一つ抜き取った。似ている植物が多い中で間違うことなく本物を抜いたアレスの勘は鋭いと言っていいかな。リサも日頃から取っているのか、しっかりと本物だけを抜いている。
「と、まぁ、こんな感じで薬草は取ってもらえればそれでいい。後、他三名は植物に手をつけないように」
「……そういうということは私達の抜いたものは全部……」
「うん、偽物だ。全部毒がある」
数分間、薬草採取に専念したが元魔物の二人や慣れているリサ、マップ機能で区別のつく俺以外の三人娘が取った草達は全て薬草じゃない毒草だった。
しかも殺傷能力の一番高い植物だけを抜いているんだが……。なんだ? この三人は誰かに大きな恨みでも……ある人はいるな。
「ああ、でも、捨てなくていい。毒があるやつでも使えないものじゃないからな」
「そう言って貰えると助かるんだよ……」
有名な話だが毒が使えないや悪い訳じゃなく使う人次第という事だ。例えばカビであっても簡単に毒性のあるものに変えられるし、その逆の薬にも変えることが出来る。カビも色々な材料に変えられるしな。
調べた訳じゃないがこの毒草達も何か他のものに変えられるはずだ。最悪は液体にして毒薬として鏃や鉄砲の玉に塗り付けてもいい。ヒ素のように薄めて毒耐性を得ることも視野に入れられるからな。
ちなみにだが毒草というそのままの草もあって、それは全部抜いておいた。これは薬草のように抜いたら無くなるものじゃなくて薬草が成長過程で毒性を帯びたものだからな。全部抜いたところで悪いことはない。
それにこれが状態異常である毒を回復するポーションに変化させられる。麻痺草などの他の状態異常を回復させるポーションの原料の植物がなかったのは辛かったが、これで毒に関してはあまり困ることは無くなりそうだ。毒を制するものは戦闘を制する。そんなことも割と可能性としてはゼロではないだろう。
ゲームの中では相手を毒にさせて固定ダメージで強敵を倒してや、毒を食らって色々な経験値を得る人も多いからな。少し怖いがそれを実証してみるだけのこと。唯達を守るためならこれくらいなんとでもなる。
「ふぅ、これぐらいでいいな」
「かなり取りましたもんね」
菜沙の返答に首を縦に振る。
俺達は薬草達を、唯達は毒性のある植物達を取っていたのだが、倉庫を圧迫する程ではないとは言っても、数日程度なら篭って作り続けられるほどの薬草は手に入れられた。
それじゃあ、なんでこんなに大量の薬草を取っていたのか。もちろん、俺の薬師としての能力向上などの意味があるし、ましてやこれからはいくらポーションがあっても困らない日々になっていく。そして一番の目的はアテナに関してだ。
「アテナには前に話した通りポーションを作ってもらう役割を担ってもらう。だから薬草を自分の力で取ってくれ。作り方は教えるから。それとある程度ありそうな場所の目処は立っているから、そこも教えておく。何も分からなければリサから聞いてくれ」
「わっ、分かりました……」
「大丈夫だ、俺がいるから失敗してもお咎めを与えることはない。それで定期的な薬草採取のためにアレスには薬草が無くなった時に、アテナと共に取ってきてもらいたい。こっちの戦力が足りなければ休みにして呼ぼうと思う」
「分かった! 俺に出来ることならなんでもする! だからこの鞄も渡してくれたんだな!」
変な解釈をされたが渡してミスはなかったようだな。だけどアレスには少し負荷を与えるつもりだ。
「だけど少しだけ付け加えるが魔物が現れたら倒せよ。絶対に倒せる相手なら倒して強くなれ」
「当然だ! 俺は主の剣となり盾となるのだから!」
「それで十分だ。唯と莉子、菜沙には悪いがダンジョン攻略には付き合ってもらうからな」
三人から大きく「はい」と帰ってきた。
リサが少しだけ悩んだ表情をしていたのは不思議だったが細かくは聞かない。聞いて関係が悪くなるのは好まないからな。
アテナは少し自分が何もしていないと責めている節がある。確かに戦闘では前に出ることはないし攻撃もしないからな。それでも料理などで助けて貰っている分だけ自分を責めているアテナを見るのは心苦しい。
だから今回の目的の中にアテナの仕事を増やすことを決めていた。ポーションは作るのは難しくないし何よりもアテナは生産系に適性があることは分かっている。というのも料理や裁縫などのスキルが軒並みレベルが高いからな。
ポーションがあればダンジョン攻略などの俺達に直結して助けている証になるだろう。そうなれば俺も曖昧なフォローではなく真っ向から褒めてあげられるしな。仲間になるということはそういう事だ。モチベーションを向上させたり居心地のいい空間にする、それがリーダーとしての義務だ。
「アテナ、そう固くならなくていい。俺も初めてだから一緒に、ゆっくりと覚えていけばいいさ」
「ヨーヘイ様を超えられるとは思いませんが頑張らせていただきます……」
近くで震えながらそう伝えてくるアテナが何とも可愛らしい。別に部下に対して手を出すつもりもないので軽く頭を撫でて「出来なければ違うことを頼むさ」と耳元で囁いておいた。アテナが顔を赤くした理由は分からないが少しは自信に繋がってくれていると信じたい。
その後は帰り道の途中で出てくるスパイダーなどの魔物を狩りながら帰路についた。俺は個人的にリサを、唯達は不満げにしながらもアテナの近くで守りを固めていた。ほとんどは魔法やアレスの近距離攻撃で沈んでいたので怪我人はいない。
村に着く頃には夕方だったが門では顔パスで済んだ。これはキテンの根回しが整ったと考えてもいいよな。整っていなくても絡まれなくなればそれでいいが。
そんなフラグのような言葉を頭に浮かべながらキテンのいる家に戻った。これが立たないように祈るばかりだ。そして明日のこともよく考えないとな。計画性のない行動ほど失敗しやすいことはないし。
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