1章30話
話も程々にキテンが部屋を出ていく。
リサが後ろをついて行くので俺達もはぐれないようについて行った。キテンが向かったのは族長の家よりも小さな家だった。木造の二階建ての家で小さく『病院』と書かれている。
まさかとは思うが本当にこの世界の言語は日本語だとでも言うのか? いや、十中八九、勝手に翻訳してくれる異世界人特典の能力でもあるのだろう。そういうことだと思っておく。
「悪いけどここで待っていてくれ。下手に大人数で押しかけるのは迷惑だからな」
「……別にリーネは気にしないと思うが」
「いや、私達のマナー、常識なものだから。うん、分かった。待っているよ」
「悪いな。早めに終わらせてくるから」
唯が代表して話してくれ他の皆も納得したように首を縦に振った。病院に行く時に大人数で行けば対応の時に相手を困らせてしまう。場合によってはうるさくなったりもするからな。そこは相手が許してもマナーを踏まえてやってはいけないと俺は思う。
アレス達には強制しなくてはいけないから申し訳ないことをしたけどな。後で謝っておこう。
「ここにリーネはいる」
「へぇ……ちなみに魔壊病っていうのはうつるのか?」
「普通はうつらない。ただしMPが一定値以下で病人、もしくはその媒体者である魔物の体液を摂取してしまうと患うだろうな。少なくともリーネはそうだった」
口ぶりから察するにリーネさんは前者か後者の方法で魔壊病にかかったんだろうな。少なくとも俺は接する機会もあるだろうし出来る限り注意を払わないといけなさそうだな。
「リサやキテンはかかったことがないのか?」
「ないな、この村でもかかったものはリーネだけで対処法なんて探すのに苦労した。なんせドワーフは人族を好んではいないからな」
リーネさんは魔物から感染したとして間違いはないか。となるとこの近くには媒体者である魔物がいるってことだよな。……怖くないといえば嘘になりそうだ。
「詳しくは医者の代わりをしているババアに聞け。ある程度の知識はあるだろうし何よりも俺よりも博識だ」
「だろうな」
「……敬語はいらないと言ったら調子に乗りやがってよ」
言う割には嬉しそうじゃないか。
なんだ? キテンは喧嘩友達みたいなのが出来て嬉しいのか? 俺は喧嘩とかしたくないから御免だけどな。
「おう、邪魔するぞ」
「はぁ、また来たのかい。そんな簡単に容態が悪化する病気じゃないと何回言えば……って、そいつらは?」
「ああ、次期族長候補だ。なんなら俺よりも強いぞ」
「……俺は族長になるつもりは無いと何回言えば……」
「……あれがお父さんのやり方だから」
リサがこんな人の娘とは思えないな。
逆に母親がしっかりしているのか。喧嘩腰というか楽しければいいみたいな精神はリサに受け継がれていなくてよかった。どこぞの元オーク君みたくなるな。
「否定しているようだけど……まぁ、いいさ。それで、そいつらがなにか関係しているのか?」
「ああ、というよりもこいつがいなければリーネは救えないだろうからな。挨拶してくれるか?」
「……ご紹介に預かりました。俺の名前は洋平といいます。今朝方、リサが魔物に襲われているのを助けて、ひょんなことから族長になれとか言われた存在です。ちなみに錬金術と付与術、薬剤術の全てを持っていますよ」
「こりゃあこりゃ、礼儀正しい子だねぇ。嫌いじゃないよ」
「人によってどのような態度をとるか。それは当然のことです」
「キテンに敬う態度なんて馬鹿にしている感じが取れないからねぇ。確かにお前の言うことに一理あるわな」
「……少し腹は立つけどな。だが力でいえば申し分ない。俺と力比べをして負けないくらには強いからな」
本当はぶっ飛ばせたけど、なんて言えないよな。とりあえずはキテンのささやかな見栄には何も言わずに軽口が終わるのを待った。軽口を叩く度に物理的に医者のドワーフにキテンが叩かれる。うん、ざまぁみろ。
「私はドワーフで回復魔法を使える珍しい存在のキュアっていう年寄りだよ」
「……自分で言うんですね」
いきなり矛先が自分に向いて驚くが率直な感想を述べる。自分で自分を年寄りとか珍しいとか言えないからな。割と大物なのかもしれない。
身長はドワーフというだけあって小さい。顔も少しシワがあるだけで若そうに見えるな。これでババアならどうやって見比べればいいのだろうか。男女も老け方とかを考えればドワーフの方が秀でているんじゃないのか?
「他人に珍しいって言われるのは嫌いでね。それなら自分で呼称しておくさ」
「なるほど」
「分かるだろ? 面倒くさいババアだって」
「……他人に年寄り扱いされるのも嫌いなんだよねぇ。何度も話しただろ? 若造?」
再びキテンに矛先が向いたので話が進むのを待った。こういう人はあまり刺激しないのが吉だ。話が長くなって面倒くさくなるからな。出来るなら取れる場所とかの話を早く聞きたいからわざとそのままにする。助けるのが面倒くさい訳では無い。
確かにその考えに一理あるが。
「それで連れてくればいいのかい?」
「ああ、リーネの部屋には入れられないだろ。それに弱り始めているとは言ってもMP方面だけだ。話したりする力もあるだろうからな。それに、これが最後の機会だと言ってもいい」
「確かにそうだろうねぇ。ドワーフに錬金術なんて使えるものは稀有だし。その代わりの鍛冶みたいなものだしねぇ。分かった、連れてきてあげるよ」
かなり強く叩かれていたはずなのにキテンにダメージはない。もしかしたらおふざけ程度だったのかもしれないな。
それにしても部屋には入れないか。それは異性を入れられないという意味か、あるいは病気のせいか。
「……会うのは久しぶりだな」
「そんなに会えないのか?」
「……自分の苦しそうな姿は見せられないって」
そこは親としての意地かな。
どこか猫みたいなことを言う母親だ。
すぐにキュアさんは戻ってきた。
車椅子みたいなものがないからか、小さな肩に自分よりも大きな女性の腕を回して持ち上げている。……よくよく見ると身長だけじゃなくて耳も長いな。顔もリサの母親という割には若そうだし。
「……初めまして……リーネと申します。リサの件は……どうも、ありがとうございます……」
「初めまして、リサを助けた洋平というものです」
「……私を助ける方法が見つかったとか。本当に申し訳ありません。私なんかのために」
腰が低い人だな。まぁ、見ためで分かる通りエルフのようだからどんな理由でキテンと仲良くなったのか知らないけど、実の娘の前で言うことではないよな。
軽くリサを抱き締めておく。
「そんなことを娘の前で言ってはいけませんよ。キテンもリサもあなたのために頑張っていた部分もあるんですから。それに幼いリサには母親が必要ですし」
「……確かにそうよね。変なことを言って申し訳ないです」
「とりあえずは元気そうでなによりです。出来る限りのことはさせてもらうので頑張ってください」
「……お母さんも頑張って。リサも頑張るから!」
リサが握り拳を作ってリーネさんを鼓舞する。それを見てリーネさんは嬉しそうに目を細めた。
「……悪いね、あまり長い時間、外に出してはいけないんだ。次は準備をしておくから私に会う日は教えておきなさい。それと、ほれ」
「えっと、これって……」
「どうせキテンのことだ。病気の説明もしていないんだろ。その本にリーネの発症理由と説明が書かれている。薬の話も重要な部分だけ無いが書かれているしね。上手く使いな」
「さすがババア、話が早いな」
またキテンが叩かれる。
リーネさんは少しだけ笑顔を浮かべると小さく咳をした。ステータスを見れば分かる。まだ死にはしないとしてもMPの値は消えかけだ。どれだけ苦しいかなんて感じられないにしても想像は出来るな。
普通の顔をしていても酷い頭痛や関節痛に苛まれているだろう。これは早めに助けたい。
「……また来ます」
「……元気でね、お母さん」
キテンを置いて先に病院を出た。
悲しそうなリサの顔が少しでも明るくなって欲しい。そんな気持ちが湧いてきた。報酬も出るんだ。やれるだけのことはやらせてもらおう。この本があれば可能性はゼロではないのだから。
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以下、作者より
特にありません、といいたいところですが前回の話に結界の話があったのですが、森と村の結界の説明がごちゃごちゃになりそうだったので書き足しをさせてもらいました。興味があればもう一度お読みください。
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