1章29話
「リサの母?」
俺は即座に聞いた。
確かにリサの母は未だに見ていない。まさか人族じゃない、偏見ではなく客観的にドワーフと人族は違うからな。そのせいで男女じゃなくても子供が出来るなんてことはあるわけないだろうしな。
逆にそんなことが出来れば腐女子大歓喜だろう。あまり友人でそんな人はいなかったからなんとも言えないが。
「ああ、リサの母は今は病院にいてな。まぁ、要はその薬がなくちゃ死んでしまうんだ」
「それがドワの村の崩壊と何か関係があるのか?」
「鋭いじゃねえか。村にはな、結界というものが張られているんだが、それを張るための担い手は村に二人しかいねぇんだ。それで」
「そのうちの一人がリサの母だと」
「……おう」
キテンは少し辛そうにうなづいた。
確かに家族が死にそうなら辛いよな。村のことは置いておいても本当に大切な人が死にそうなら自分自身も辛い気持ちになる。もし唯がそんなことになれば俺は死んででも助けようとするだろうし。
待て待て、ということは結界が壊れた原因はリサの母親にあると? まだ全壊していないみたいな発言をしているから……いや、村の結界が壊れただけ……森の結界ではないのか?
「森の結界と村の結界は違うのか?」
「村の結界は個人の力で、森の結界は森の女神の力で作られた結界だ。確かに壊れた話はあったが……まさか! リサはそれの確認に外に出たのか?」
「……うん、壊れていたよ」
「……なるほどな。なおさらお前には感謝しかない。ありがとう」
オッサンの感謝ほどキモイものはないな。
感謝されるくらいなら他のことで返して欲しいくらいだ。特に欲しいものもないが。
「ちなみに薬の場所は分かるのか?」
「分かるが……錬金術と付与術を使えるものがいなければ……作ることは出来ない。薬剤術でもいいんだが……いかんせんこの三つのスキルはドワーフとは相性が悪くてな」
三つね……ふぅん、都合よく俺の欲しいスキルが入っているじゃん。手に入れておこうかな。別にリサのためではない。家族を失う辛さを味わって欲しくないとか、そんな簡単なことで助けていたら命がいくつあっても足りないからな。
「持っているぞ」
「……は?」
「だから三つとも持っている。なんなら付与術は俺の専売特許だ。錬金術は使ったことがないがやり方さえ分かれば出来るだろうな。後は回数次第ってところか」
「……ヨーヘイさん! まさか!」
「……またお兄ちゃんの悪いところが出たよ……」
唯は何を言っているんだろうな。
それにリサのように嬉しそうな顔をされては困る。俺にだって考えがあって助けようとしているだけだ。
「……その代わり報酬ははずめよ。リサ特製の装備品。それとこの村に泊まる権利だ。俺はドワーフ特有の武器を作る工程を見たくて来た理由もあるからな」
「お前……そうか、分かった。それなら俺も手を貸してやる。なんなら俺も武器を作ってやるよ」
「そうか? それで素材はどこにあるんだ? 後、やり方は?」
「知らない」
「えっ?」
はっ? このおっさんはなんと言った?
SIRANAIと、知らないと言ったのか?
「正確に言えば素材は分かっている。場所も分かっている。ただやり方はどうするのか分からない」
「ちょっと待ってくれ。それなら薬になるってなんで分かっているんだ?」
「本にあったからだ。だがやり方までは書いていなかった。いや、違うな。古すぎたせいで書かれている部分が読めなくなっていたんだ。多分だが、あの部分に書いているんだろうという場所はある」
「そうか……」
ふう、危ない危ない。
何もないところから作れと言われることほど難しいことは無い。本があるのならいくらでもやり方はあるからな。情報が何も無いことが一番辛いんだ。
「ちなみに素材はどこにあるんだ?」
「後ろの鉱山、いや、今はもうダンジョンか。そこの最奥だな」
「そうか、なら早く行こうか。俺の利害とも一致する。それで? 期間はどのくらいかけられるんだ?」
少しだけキテンは悩んだ素振りを見せた。
この表情から察するに明日や明後日死ぬという事ではないのだろう。現に無くなるからと言っても婚約者に話をつけるとか、色々と時間はあるような発言をしていた。三ヶ月もあれば楽勝だが果たして……?
「半年はあるな」
「それは良い回復魔法をかけられるとしてもか? 一日に二回、体力が全回復する魔法をかけられるが?」
キテンが驚いた顔をする。
何を驚いているんだ? さっきだってキテンの攻撃を止めたのは錬金術や薬剤術を使える俺だぞ? 非戦闘員の力を持つのに戦闘系の魔法がないとでも思っていたのか?
「……それなら一年は持つ。結界ももう片方の子に任せればいいからな。そこは我慢してもらう」
「最後にもう一つ」
「なんだ?」
「いや、二つになるかもしれないな。リサの母の名前と病名を教えてくれ」
どこかの医者にでもなった気だろうか。
あいにくと俺は医療資格のないヤブ医者以下の存在だ。誇れることと言えばそこらの人よりもスキルの獲得が早いことだけ。
「リーネで魔壊病だ。別名、MP欠損病とも言われている」
「……魔壊病か。分かった」
なるほどな、日本の時の病気とは違った異世界特有の病気か。確かにMP切れは死ぬほど辛い苦しみを伴う。それが長く続けば死ぬこともあるだろう。HPと違ってゼロになるイコール死ではないことが救いか。
「……本当にいいんだな?」
「何度も聞かれれば助ける気もなくなる気分屋だぞ? 俺は?」
「嘘だな。リサがそんな奴に懐くわけがねぇ。……俺も手を貸してやるよ。いや、お前達の手を貸してくれ! リーネを救うためなら俺は死ねる! 鉄砲玉や盾になれと言われれば!」
「馬鹿か」
敬語はなくていいと言われたがこれでは敬いの欠けらも無いな。だけどこれでいい。ここまで強い言葉でないとキテンはおかしなことをしてしまうからな。
「リサがいるのに死ねなんて、死ぬなんて言わせない。守るものがある姿に助けを貸してやるって言っているんだ。それに報酬も貰えるのなら俺はそれで構わない」
「……クソ色男が。でも悪い気はしねぇな。俺が女なら惚れていたぜ」
「キモイな」
「うん、お父さん気持ち悪い」
「いっ、言わなくてもいいだろ! ほら、ついてこい! 族長権限で次期族長にダンジョンの場所を教えてやるからよ! 後、リーネにも会わせてやる!」
「分かった……って! 俺は族長になんてならねえ! そんなのはリサにでも任せればいいだろ!」
リサが悲しそうな顔をする。
俺は変なことを言ったか? ……ああ、そうか。リサからすれば俺は仲良く遊べる兄のようなものだもんな。
「……もしくは他の奴らにでも投げておけばいい。リサが望むのなら一緒に村を出てもいいしな」
「ヨーヘイさん……!」
あー、そんなに嬉しそうな顔をしないでくれ。俺だって別に仲良くなれそうな人がいなくなるのは嫌なだけだ。それに仲良い異性の友達が遊びに連れて行ってとか言われたら連れていくだろ。リサには外を見せる必要もあるしな。
「……そうなるといいな。ただ一応はお前が次期族長になるから、というていでリサの婚約者には話をしておく。旅に出るにしても連れていかせる理由が必要だしな」
「はぁ、俺は婚約者でもないし族長になるつもりもない。リサが欲しいのならリサに好まれるようにすればいいだろ。恋愛なんて頑張ればいくらでも叶うものだしな」
「その言葉は顔が綺麗だから言える言葉だと思いますけど。……ブスだったら自信もなくて恐怖から話も出来ませんし」
「……俺には唯がいるから悩む必要も無いんだよ」
キテンやリサを除く皆に納得と言った顔をされた。唯は誇らしげにするし莉子は露骨に期待した顔をするし、何だこのカオスな状況は……?
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以下、作者からです。
お久しぶりです。四十度近い熱と仕事、そしてその他諸々のせいで時間が取れず片方の作品に集中していました。ようやく書けたので投稿します。
次回は少なくとも来月までには出しますね。と言っても一ヶ月以内には出すように努力します。時間が空けば早めに書きますが……取れることを祈ります(笑)
後、イチャイチャ系はもう少し後ですね。予定では次回のうちにダンジョンに潜る予定です。そして今回の話、短くてすいませんでした!
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