1章25話

 森の朝は早かった。

 朝四時ほどだというのに朝日は登り俺たちのテントを照らす。さすがに一緒に寝てしまった唯たちは起きておらず静かに外へ出た。


 昨日、三人からこっぴどく叱られて戦いに規制をかけることを禁止された。それで今朝起きてみたら俺のステータスに『極度のバトルジャンキー』とか書かれていたがそこまでではないと思う。俺はただ強くなりたいだけで戦いたいわけではない。


「主、起きたか」

「ああ、あんまり大きい声出すなよ」


 目を擦っているアレスに笑いながら言葉を投げかける。唯が起きたら楽になるはずだ。回復魔法の中には眠気を覚ますものもある。眠いままでは十全に戦うことはできないからな。


 まだ森の浅い所とはいえ、魔物も強くなってきた。マップで確認する限りもう少しで集落らしい場所に到着しそうなのだが。


 今更になってそもそも中に入れるのかという疑問が湧いてきた。俺は部外者だしエルフは排他的とも聞く。小説などの設定と言われたらそれまでだけど集落の人たちもそうかもしれない。そんな時だった。


「ん? ……ちょっと出かけてくるわ」

「……気をつけてな。何をするのかは知らないけどよ」


 ああ、顔に出ていたのか。

 許してくれるというのなら大丈夫だろう。ここにアレスがいれば大概の魔物は処理できるからな。俺はちょっと用事っと。


 四人を起こさないように俺は深部に入らないようにその場所を目指した。全速力で走ったために少しだけ横腹が痛い。まだご飯も食べていないのに。


 そしてそこにマップで見た通りの情景があった。小さなジャックナイフと大きな体が釣り合わない、コボルトナイトがそこにはおり、そして、


「た、助け……」


 一人の小さな幼女のような女の子がそこにはいた。コボルトナイトが俺を視界に入れた瞬間、女の子に肉薄しナイフを振り下ろそうとする。


「させ、ねえ!」


 グングニールを横薙ぎにしてナイフを吹き飛ばした。先程までの余裕そうな表情は消え俺を睨んでくる。悪いが俺は睨まれるようなことをしていない。


「……お兄……さん?」

「下がっていな。絶対に守ってやるから」


 我ながら気障っぽいセリフだと思う。それでもこんな小さな子を殺そうとする魔物は許せない。


 雷を片手に付与する。

 もう慣れたものだ。少しだけ雷で俺の腕が痛いがステータスの高さからかダメージにはなっていない。もしかしたら使っているだけで雷耐性とかがつくかもしれない。


 そもそも魔法には基本的な属性がある。初級魔法が火や水、風、土、光、闇、無だ。雷はその派生型で火と風の扱い方をマスターしていなければ手に入らない。俺の場合は少し特殊なのだけど。


 故に体に付与した時の能力アップは初級魔法よりも高い。火と風、両方の力を宿すために攻撃力アップと移動力アップができる。ただでさえコボルトナイトと俺とでは力の差があるのに、余計にその差が開いた場合どうなるか。


「バ、ゥ……」

「こんなものか」


 一撃目は何とか耐えていたようだが、その後は躱すこともできずに受け続けていた。一撃目で思いのほか大ダメージを負っていたようだ。その後はトントン拍子で膝をつくまでに時間はかからなかった。


 素材を回収して女の子を見てみると少しだけ怯えた様子で俺を見て視線を下にそらす。嫌われたかもしれない。


「……お兄さん、名前は?」

「俺? 俺は洋平、って最近自己紹介してばっかりだな」


 思えば昨日だろ。アレスとかと戦ったのは。そう考えればどんだけ今の俺はタフなんだ。


「ヨーヘイ……聞いたこともない」

「あー、あんまり名前が売れているわけじゃないしな。そういう君の名前はなんて言うんだ?」

「……リサだよ」


 リサ、ね。元の世界でもそんな名前の女の子はいそうだ。軽く頭を撫でて「よく頑張ったな」とだけ言っておく。その瞬間、


「……怖、かったよ……」


 俺の体に抱きつきリサは泣きじゃくり始めた。俺はテンパっていた。唯や莉子は泣くことなんて滅多にないし、どちらかというと襲ってくることの方が多い。そのためにこんなに小さな女の子をどのようにして宥めればいいかなんて分からない。


 もう少しだけ女性について知っておくべきだった。だがそんな後悔はもう遅い。


「ああ、怪我がなくてよかった。……にしても何でこんな場所にいたんだ?」

「それは、リサの言葉だよ。大地震が起こって以来、人がここに来ることはなかったの。見たことがあったのは私たちドワーフとエルフだけ」


 この子はドワーフなのか。

 髭がないところを見ると幼いからなのか、女性は生えないのか。どちらにせよ、この森にはドワーフとエルフがいることが分かった。そして外の状況も知らないということも。


「リサはその大地震以来、森から出ていないのか?」

「出てない、いや、出ることができなかったって言うのが正しいのかな。元々この森には結界が張られていたの。それが壊れたから街に魔物が向かっているんじゃないかって」


 となればリサはそれなりにステータスが高いのか。もしくは他のドワーフには内緒にしているのか。


「これじゃあ、みんなに対して面目がたたないよ。……外に出ることすらこんなに困難になっているなんて」

「その口ぶりからするに森の魔物はそこまで強くなかったのか?」

「そうだよ。さっきのコボルトナイトだって人が住んでいない場所に蔓延りやすかったのにここにいた。これが異変じゃないならなんて言えばいいのか分からないよ……」


 なるほどな。よく分からないけど世界の異変は感じ取っているのか。そして俺に話してくれているのは善意か、助けたお礼か、それとも……。


「森の外は多分お前達が知っているような場所じゃなくなっているぞ。森の結界とやらが壊れたのもそれが原因だろうし」

「……そっか」


 まだ怖そうにしているリサを見つめていた。鑑定でステータスを見てみたが、なるほど、言うだけあってステータスは高い。そして年齢は十二歳か。


「リサの住んでいる街まで案内してくれないか。そこの長と話をさせてもらいたい」

「長と? ……駄目だよ、私たちの街、いや集落は信じたものしか中に入れないから、私が言っても一笑に付されるだけで入れてもらえないよ」

「そこを頼む。もしかしたら俺にとっても、ドワーフにとっても利益のある話し合いができるかもしれないんだ」


 俺は頼み込むことしかできなかった。それでもリサから返ってくる言葉は否定的なものばかりである。


「それならこれはどうだ?」


 俺は一つの提案に賭けることにした。


「とりあえずリサを送る。リサが一回頼んで駄目だったらそれまででいい」

「……それなら、いいよ」


 ようやくリサから許可の言葉をもらえた。俺はその気が変わらぬうちに、と思いリサを担いで仲間たちのいる拠点に向かった。


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少しだけプロットの設定(2章の中身を考える)を行いたいので更新をストップします。多分三〜四週間でまとまると思うので待っていてもらえると助かります。


次回からようやくドワーフ集落編(1章終わりの二つくらい前のイベント)です。リサなどもこれから活躍してくるのでよろしくお願いします。


フォローや評価よろしくお願いします。

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