1章24話

 フシュルシュルと身の毛もよだつような嫌な声を発し俺を嫌悪させる。ただ単純に気持ちが悪い。元々蜘蛛が好きじゃなかったのに余計に嫌いになってきた。


 マップにあった通り周囲からは小さな蜘蛛たちが現れる。多分、親蜘蛛と小蜘蛛で分かれているのだろう。親と戦わせるのはアレスにはちょっと無理だな。下手をすればやられるだろうから。


「っと」


 指示通り戦っているアレスを見て子どもたちを助けに行きたいのか、俺を瞬殺しようと糸の塊をぶつけてきた。それを何とか上に飛んで躱し剣をグングニールをクルクルと回す。倒すのは簡単だが、どうせやるなら制限を付けて倒したい。


「魔法を禁止して戦ってやるよ」


 後で怒られそうだが危なければ魔法を使わせてもらう。主導権は最初っから俺だけだ。魔物に持たせるつもりもない。


 相手から攻撃をされてから避ける。

 全然苦にならないな、多分ステータス三百の差はそれだけのアドバンテージになるようだ。三発は全て躱してやろう。


 二発目は上に飛んで躱し、三発目はその飛んだ俺の隙をついて糸玉を飛ばしてきた。それはグングニールの薙で壊してしまう。俺へのダメージはない。


 悔しそうな顔をしているが魔物に感情なんてあるのだろうか。余裕ぶった顔が割と皺くちゃにはなっている気がする。


 魔法を使わなくても余裕か。

 そう思って正面から戦いを仕掛ける。オークジェネラルと戦ってレベルが三十四になっているから付与士を見習い錬金術士に変えておく。


「グアッ」

「リトルスパイダーにも鉄分はある、と」


 MPを多く使って触れずに蜘蛛の内側から剣を生やさせる。あまり鉄分がなかったために小さな短剣の刃先が体から飛んだだけだ。


 だがこれはリトルスパイダーにとっては驚きだろう。何もしていない、向かってくるだけの敵の攻撃を受けたのだから。今までそんな相手と戦ったことがないんだろうな。少し哀れみを覚える。


「だが、殺す。俺たちの経験値となれ」


 リトルスパイダーの首を落として戦いを終える。遺体を収納してから四人の元へと向かった。数のせいか俺の方が早かったようだ。


 特に何も言われなかったので制限の話は聞こえていないのだろう。自分を無理やり納得させアレスを待つ。


「すまない、遅くなった」


 律儀にも倒した魔物の遺体を運んでいたようだ。そりゃ遅いわけだ。


「仕方ないさ。ほれ、これ使って」

「これは?」

「空間魔法が付与されているリュックサックだ。倒した魔物を入れられるから楽になるはずだ」


 アレスがリュックをいじり始める。見るのは初めてなのかもしれないな。


「こんなのに入るのか?」

「やってみればいいだろ」

「うおっ。すげー全部入ったぞ!」


 それはいいけど俺の肩を揺すらないでくれ。地味にステータスが近くなっているからか痛い。


「そっそれをやる。とっとりあえず、ゆっゆするのをやめてくれ」

「ああ、分かった。ありがとう」


 気に入ったのか背負い始めた。

 初めて見たわけではなさそうだ。いやマジックアイテムであるリュックを初めて見たのか。


 その後は平常運転だった。

 大体の雑魚はアレスが倒してくれるし打ち損じがいても三人の盾がいる。この盾が厄介で誰もアテナまで届くことはできない。まあ、リトルスパイダー位は強くないと無理だな。……俺だったらいけるかもしれない。


 そんな馬鹿なことを考えているうちに、辺りは暗くなり初めての夜が訪れる。森の中はとても暗く、そして静かだ。魔物が近づけば足音や鳴き声で聞こえてしまう。


 特に襲撃もなく肉を焼いて塩コショウで食べた。米は今日はいらないだろう。みんな美味しそうに食べてくれて、炭をおこした甲斐が有るってものだ。


 少し開けた場所に拠点を取り背後を崖の所だ。辺りに木は少ない見晴らしのいい場所。一応、夜にここら辺を警備する人のためだ。と言っても俺とアレスで、だけど。強くなるならこれくらいやらないとな。


「なんか怖いこと考えているでしょ」

「考えていないよ。さあ、アレス。夜の警護の交代周期はいつにする?」

「あー、全部俺でいい。主は三人とイチャついてくれ」


 テントを二つ建てたからそんな勘違いをしているのか。じゃなくて、一人でやる?


「いや、俺もやるぞ。部下ばっかりに任せるのは違うだろ」

「そうじゃねえ。あまり俺は活躍できなかったからな。それの罪滅ぼしだ」


 なにが活躍できなかったのだろう。

 リトルスパイダーの時にも子蜘蛛相手に戦ってくれたし、その前も後も魔物から護衛してくれたし。


「打ち損じがいたら駄目なんだ。それに魔法抜きで戦うと宣言して勝っちまう。そんなこと俺にはできねえ。素手だけなら力負けするのがオチだ」


 いや、今のアレスなら容易いと思うが、って。


「お兄ちゃん、今の魔法抜きでってどういうことかな?」

「もしかして私たちが見ていないからって手を抜いて戦っていましたか?」

「お兄さん? 有罪ですね?」


 後ろで三人から掴まれて体の自由が利かなくなる。こんなことで三人のレベルが上がったことは理解したくなかった。


「ちょっと待って! 俺の言い分を聞いてくれ!」


 三人から「はい、却下」と声を揃えて言われた。そのままで俺は一つのテントの中に三人によって引っ張りこまれていった。


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次の更新日は8月25日の朝8時です。早ければ23日か24日には出せると思いますが……期待しないでください(笑)


次回にはメインキャラが出る……かなぁ?と思います(笑)


評価やフォローよろしくお願いします。

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