1章23話

「それで、どうするかだな。まず俺は森に入りたいと思う」

「まだステータス的には安全とは言えないと思います」


 俺の言葉に間髪入れずに反応する菜沙。

 やはり頭がよく回る。前の俺なら確かにそうしていたがやらなければいけない理由ができた。


「理由はある。一つ目にここら一帯に俺たちが経験値を稼ぐための狩場がないことだ」

「……学校組とかかな」


「当たりだよ」と唯に返しておく。

 西園寺を含む中学組と陽真を含む高校組が合流したようだ。学校の魔物は狩り尽くしたらしく外での活動も行い始めている。


 俺からしたらはた迷惑だ。一生学校から出てこなくてよかったのに。


「そいつらを含むレベルの上がった人たちが命懸けで戦っているみたいだ。俺は力を露顕させたくないからバレにくい場所でレベルを上げたい。それに……三人には本当に強くなってもらわないといけないからな」


 今回のことで唯たちをおざなりに扱ってしまった。せめてもの償い、そう言えば聞こえはいいが俺の心の中で言い訳が成り立つようにしておく。


 三人が、いや五人が強くなればありがたい。それにアテナもレベルを上げてジョブを手に入れてもらいたいしな。


「俺でも戦いに参加できるだろうか。一応、進化して鬼人という存在にはなったのだが」


 そう、アレスとアテナは俺の従魔となった時に進化した。それのせいか、ジョブにつけるようになったのだからアレスには近接を、アテナには生産ジョブになってもらおうと考えている。


 それに神殿で見たが薬剤師などは薬草を取れば獲得できるんだ。ビルの佇む街中ではそんなこと不可能だろう。


 ちなみに錬金術師はドワーフ限定のようだ。それになれる俺は多分、全制限が解除されているのだろう。


 考えられるのはキャラメイキングだ。俺だけ周囲とは違う方法でステータスを手に入れている。こんな言葉を使いたくはないが神様の悪戯や加護かもしれない。


 元の世界では一切手助けをしてくれなかった癖に、だ。


 まあ、武器や制限がないことは普通にありがたい。だから感謝はしておこう。頭を下げてする程ではないけどな。


「鬼人はジョブに付けるらしい。進化したてでレベルが1だから街に近い所までだな。俺もそこまで深く入れないから安心していい」

「そうなのか。一応ステータスが七百を超えたのだけれど。……まだ無理そうか」

「それにアテナのジョブ解放にも動かないといけないからな。アテナにはポーションなんかを作ってもらうつもりだ」


 もちろん、俺も作っていく予定だ。

 そのうち他人と出会った時に回復薬があれば後手に回らなくて済む。死にかけの時にも使えるし、なにより魔物を使役する時にも使えるらしいからな。やはり必要だ。


「私に作れるでしょうか」

「俺が教えてやる。安心していい」


 つい癖でアテナの頭を撫でてしまったが悪い顔はしていないな。どちらかと言うと心地よさそうに目を細めている。


「お前の力が必要になってくるんだ。兄と同じくらい活躍してもらうぞ」

「……頑張ります」


 そんな会話をしてその日を終えた。

 さすがに俺の具合の悪さは酷くなったためによろけてしまったのだ。唯に引きづられながら「無理しすぎ」と怒られながら目を閉じた。






 ◇◇◇






「こんなに良い装備を。……ご期待に添えるように頑張ろう」

「護身用でこの武器ですか。……こちらでも頑張れるように努力します」


 オークジェネラルの体は高く売れた。

 だからアレスには火雷のグローブ、アテナにはダイヤモンドの短剣を渡しておいた。ダイヤモンドは元の世界のものとは違いMPを流したら切れ味の上がる素材らしい。


 そしてわざと二人に手渡した服などの装備は執事服とメイド服だ。戦闘用と書かれていたので動きやすいようではある。


 さすがにボロ切れで体を隠すような装備はダメだと思いそうしたが、いかんせん二人には似合いすぎる。


 ワイルドで粗野そうなアレスにはそのギャップによって女性は黄色い声を上げそうだ。アテナは普通に可愛い。お色気たっぷりなのに恥ずかしながらスカートの裾を持って、「大丈夫そう、ですか?」と俯きながら聞いてくるのだ。


 とにかく普通の服も渡しておいたけど二人はそれが気に入ったようで執事服とメイド服のままでいる。


 唯と菜沙、莉子は軽めの龍革の帷子を装備している。なぜだか龍革と付くこの防具と同じくらいに執事服とメイド服は防御力が高い。ここに来てファンタジーなのだと実感してしまった。


 ちなみに俺は「なくていい」と発言して五人全員から「駄目」と返されている。そのために一番高い耐性の黒衣を装備している。本当に高かった。


 きちんと拠点を飛んでデパートのお金を手に入れておいたのだが、これらの装備でオークジェネラルを売ったお金と共に全部失くした。でも命に変えられるなら安いくらいだろう。その時にガスやテントとかの必要そうなものは確保済みだ。缶詰も手に入れている。


 アレスの初めて缶詰を食べた時は面白かった。この世のものかと騒いでいたからな。アテナは菜沙から調理法を聞いていたな。缶詰に関しては知らないと困った顔をしていたくらいだ。


「行くぞ。まずは比較的に道ができている場所から入る。だからデパート方面に向かって回る感じで森に行かないといけないな」


 どこぞの自衛隊が作ったであろう道だ。

 そこまで幅はないがマップで周囲に人を置けば俺は集中して探知ができる。


 全員が頷いたのでそのまま部を後にした。部を出てすぐにゴブリンと遭遇するのだが、


「爆散」


 火の玉を握り潰してアレスが投げつける。威力は攻撃依存らしく魔力方面に乏しいアレスにはもってこいだ。


 それに小さな火の粉が二、三度当たるだけで雑魚は消える。七体いたゴブリンはそれだけで全滅だった。


 回収して、歩いて、アレスが屠って、回収してと繰り返して二十分で森の道へと着いた。想像通り車輪や車の腹で潰された草木が見える。森の奥は真っ暗で見えない、それがとても恐怖心を煽ってくる。


「アレスが先頭、アテナと莉子は俺の後ろに立って。唯と菜沙はアテナと莉子の後ろを頼む」


 言った通りの陣形で中へと入っていくが魔物は出てこない。マップでは見えているがなにかに怯えるかのように向かっては来ないようだ。


 考えられるのは自衛隊かアレスか俺だな。もしくは、


「……奥にアレスより少し弱い程度の敵がいる。リトルスパイダー、これは俺が雷で援護するから唯と菜沙、莉子で倒してくれ。アレスは周囲の雑魚を撃破」


 予想通り強い魔物がいた。

 そして警告して数秒、リトルと付くには大きい体躯を持つ蜘蛛が木の枝を飛んで姿を現した。




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