1章22話

「配下?」

「そうだ、お前はあいつを倒したんだろ!」


 人差し指でオークジェネラルの死体をさす。確かに倒しはしたけど……チートで何とかしたから俺の力じゃないんだよな。

 それに武器の力もある。鋼の剣だったら大して傷をつけられなかっただろうし。


 もう一度座り直して腕を組む。

 さも悩んでいます、といった風で兄の方を見つめていた。配下にしてくれってことはさっきの話を聞いてなかったってことだろう。


「唯、ちょっと妹を連れて部屋を出てくれ。菜沙と莉子は兄の方の話を一緒に思案してくれ」

「私も残りたい!」


 言うと思ったよ。

 でも駄目だ。


「妹さんと話しやすいのは同じ妹である唯だ。それにお前は倫理的な考えが苦手だろ」


 唯が口をへの字にする。

 図星だから何も言えないのだろう。何年一緒にいると思ってるんだ。なんなら唯のホクロの数も……それは知らないな。


「ゲームでも参謀や人事に関しては莉子がやっていたし、菜沙は頭がいい。適材適所、唯には唯のいい所があるんだ。妹同士、話をしていてくれ」

「もう、わかったよ……。その代わり頭を撫でてくれることを所望する!」


 唯に「後でな」と言うと嬉嬉として妹を連れて部屋を出た。多分、俺の部屋なんだろうな。電気はあるからビデオとか暇潰しはあるだろう。


「それで、なんで俺の配下になりたいんだ? もしかしたら偶然で倒せたかもしれないだろう」

「偶然で倒せないことは両方と戦った俺が理解している。お前は強いのに妹を逃がしてくれただろ。それに俺と一緒に戦ってくれた」

「だから? 俺からしたら利害の一致だ。妹である唯や大切な菜沙と莉子が犯されて欲しくはないからな。手伝ったわけではない」


 兄の顔がムッと歪む。

 こいつ頭良くないな。良い奴だけど戦い以外には頭が回らないのか。でも切込隊長になれるだろうし速度から戻ってきて往復もできる。面白い奴だとは思うけど。


「どうした? それだけが理由なら俺は配下を作る気はない。一応、妹さんには二人とも生活できる場を作ることを約束はしたけど、いつでも破棄はできるしな」

「……利害の一致で生活できる場を提供するか? 俺はただお前に惚れた」


 背筋が凍る。

 男に好きって言われても嬉しくねぇ。


「……強い奴が好きってことだよな? 俺はお前のことを好きだとは思わないぞ」

「知っている。だから配下になって俺は強くなる。そして大好きなお前のことを支えていきたいんだ。別に俺も男が好きなわけじゃない」


 よかった。

 胸をそっと撫で下ろし二人の方を見る。菜沙はまだ思案げだが莉子は頭を縦に振っている。いいのかもしれない。


 そもそも俺たちのゲームの冒険者ギルドでの一つの集団、つまりはクランで莉子の手腕は思いっきり発揮されていた。


 どこからか得た情報で他人を測る。周りの感想や性格を面接の時とどれくらい違うか。そして莉子の目から逃れられた者はいない。


 百人いたクランのメンバーでも粗相をする者や首を切った者、弱かった者はいない。俺のクランは莉子の採用によって成り立っていた。


 そして唯は人をたらしこむ力があった。どんな人でも心を開く、それによってファンも多かったみたいだけどな。ステータスも高かったし。


 幹部というか唯、莉子と並んでいた人も残り三人いるが、いつかは会えるかな。他県の男性が二人と女性が一人、もしかしたらすぐに会えるかもしれない。


 話はズレたけどその莉子が頭を縦に振っているということは採用なのだろう。しかもこの感じは俺と同じく幹部候補ということだな。


「……っつ、ハハハハハ」

「どっ、どうした?」

「採用だよ、二人とも。菜沙はまだ悩んでいるみたいだけど、民主主義の多数決によってオーガの兄妹を俺たちのクランに入れる」


 莉子の目が丸くなる。

 そうだよな、ここに来てそんなことをするとは思わないよな。でもこの世界ではできるはずだ。いつかは元の世界は消えるかもしれない。そうした時ほど人を統治できる環境が必要だ。


「……クランの名前は『ルース』ですか?」

「そうだ。Loser&Peace、敗北者の下に成り立つ平和だ。俺たちは負け犬でいい。だからこそ負け犬らしいやり方で平和を作っていけばいいんだ」


 元の世界でも勝者なんて何人いただろうか。いや何割か。勝者には敗者の考えなんかわからない。働くこともやる気も無くなるのはわかる。


 元の世界は俺には合わなかった。この世界では本当の人として暮らしていく。もうあいつらの呪縛には縛られない。


「ルースってまさか、最大クランと言われたゲームの最強管理チームですか?」

「まあ、いくつかのゲームのランキングでは一位だったかな。一応、俺がリーダーだったんだ」

「ここに来てもそんなの作るんですか?」

「いや、呼び方がめんどくさいんだ。なんとかのメンバーです、ていう程度で使えればそれでいい。それにゲーム友だちも仲間に入れたいからな」


 チームメンバーの名前はリョウ、アンダー、ゼロ。

 一度全員と会っているから顔は知っているし性別もわかる。リョウとアンダーはイケメンでゼロは美人な女性だ。


「まあ、そういうことだ。アレス、お前に任せるよ」

「……それが俺の名前か。わかった、アレスは神の名の元に主の剣と、盾となろう」

「話し方は……一応、習っておいてくれ。人前では主としての威厳がないからな。莉子、二人を呼んできてくれ」


 今から行うのは二人を配下にすること。

 二人を調教と召喚によって従魔とする。もちろん、制限はしないしほとんど自由にするがそっちの方が楽なのだ。


 莉子が二人を連れてきたのを見計らって椅子から立ち上がる。床に二つの座布団を敷いてから指で座ることを合図する。


「今から二人を従魔にする。ただし自由を奪うつもりはない。俺のMPがある限りMPやHPの共有や、俺の近くに召喚もできる。それに最大の利点は俺のMPが尽きていないうちは死ななくなる」

「別に構わない。お前は?」

「みんなの役に立つなら。ユイさんからヨーヘイさんの良さも教えられましたし」


 それならいいよな。

 今回は雰囲気を出すために多めにMPを使って詠唱を行う。頭の中に浮かぶ言葉の中には元の世界では発言できない言葉もあるが、俺の口からは発音されているし止まることもない。


 千ほど使った所で詠唱が止まる。

 そして俺は最後の言葉を口から出した。


「従魔化」


 わかる、俺の体の奥から力が湧いてきている。俺だけじゃないみたいだ。二人の体が輝きおでこの角が小さくなっていく。


 そして光が消えた。


「兄のアレス、妹のアテナを我が配下に加える。我のために戦い、そして活躍してくれ」


 最初はカッコつけていたが途中から恥ずかしくなってしまった。唯、そんなに笑わないでくれ。


「わかりました!」


 二つの声が重なる。

 アレスは俺より大きい百八十ほどで目つきの鋭さが強くなった。角も髪で隠れているが少し小さくなった程度。ワイルド系イケメンとはこのことだろう。


 アテナは百七十ほどで俺と同じくらいだ。ただアレスとは違い角は小さく垂れ目で、瞳の色がラピスラズリのような色と輝きを含んでいる。胸はEくらいはありそうなほどでかくとても抱き心地が良さそうだ。とても妖艶な大人の魅力がある。


「アレスはカッコいいな。アテナも綺麗だよ」

「ありがとうございます」

「ありがと……です……」


 アレスは元気に、アテナはオドオドと恥ずかしながら返事をした。大人の魅力があるのにオドオドしている姿はギャップがあってとても良い。


 俺は二人を仲間にしたことをとても喜んだ。これで森にも行けるかもしれないな。


____________________

以下、作者からです。


新しい小説を出してみたので興味があれば読んでみてください。


そしてこちらの小説も1章の終盤に差し掛かってきました。1章の終わりを決めているので2章の話をどうするか悩んでいます。


評価などよろしくお願いします。


以上、作者からでした。

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