1章21話
唯たちが逃げたのは俺の家だ。
全員が家の前にいることを踏まえると俺のスキルのせいだろう。
拠点は許可した人物のみが入れるようになる。入れればこれ以上ないほどの防衛拠点となり、例え爆弾やオークジェネラルが激突してもノーダメージだ。
だがオーガの妹は許可していない。
それこそ敵であったしさっき会ったばかりだしな。
なんとかマンションの前まで着く。とてもじゃないが体の調子が悪い。戦ってすぐの全速力はキツいな。
「お兄ちゃん!」
「……なんとか帰って来れたよ」
部屋の前まで行って三人に抱きつかれる。実際は抱きつかれると体の傷が酷くなるのでやめて欲しいが、俺も独断で行動したから自業自得か。
「少し……離れてくれ」
さすがに一分ほども抱きつかれれば体が持たない。三人にそう言い部屋の扉に手をかける。
「……これでオーガの二人も中に入れるはずだ。とりあえず唯、俺とこいつに回復をかけてくれ」
「オーケーだよ! 回復!」
傷が癒えていくのがわかるが具合の悪さはなくならない。多分、貧血なのだろう。なくなった血は元通りにはならないのか。
「……なんで……兄を助けてくれたのですか?」
「俺にそっくりだったから。格上相手に挑みに行ったんだぞ。それがなければ俺も死んでいたからな」
中に入ってオーガの兄の方を俺のベットに横たわらせる。全員俺についてきていたので引き連れたままで居間へと向かった。
「ここに座ってくれ」
三人はいつもの位置にオーガの妹は適当に空いている場所へ座らせた。俺は地面に新聞紙を敷いて一つのものを上に置いた。
「ッツ!」
「こいつが敵だった。実際、勝てたこと自体が奇跡だろう。戦う時には勝てる見込みすらなかったんだから」
事実だ。みんながいれば余計に気を配らなくてはいけなかったし、オーガの兄が勝手にとはいえ戦ってくれるとは思わなかったから。
それに勇者に変えることも、スキル欄にポイント変化があることも知らなかった、この二つを行ったのは確実な賭けだ。死ぬ可能性もあった賭け。
「……固有ジョブですか?」
「……そうだね。俺は勇者っていうジョブを持っていたんだ」
「そっか。面倒ごとに巻き込まれそうだもんね」
「お兄さんは無償で働くの嫌いですし」
「だから三人にはその子を連れて逃げてもらった。あいつも妹がいれば守りを重視するだろうからな」
実際、俺は、俺たちは死ぬつもりだった。
光のエフェクトがかかってすぐにステータスを見たけど、あそこまでの恐怖は今まで抱いたことがない。
ステータスの低さ、レベルの低さをとても実感した。オークナイト程度ではその差を埋められないだろう。
「唯、菜沙、莉子。今回の件は本当に済まなかった。あそこで戦うのならそうするしかなかったんだ」
「知ってますよ、洋平先輩。あの時の洋平先輩の顔、とても追い詰められた表情をしてましたから」
「お兄ちゃんが私たちを守ろうとしてってことは分かっていたしね。だから、これからはそうならないように強くなるよ」
「えっと、私は怒ってます。だから命を無駄にすることはやめてください。全員で拠点に逃げてしまえば何とかなったんですから」
莉子の言葉が胸に刺さる。
そうだ、知っていたんだ。そうすれば一番楽だって。でもやらなかった。
「お兄ちゃんはなんだかんだ言って勇者の素質があると思うよ。私たちを逃がすためじゃなくて、他人が襲われないようにオークジェネラルを倒そうとしたんでしょ?」
そうではないと思うが時間稼ぎしたのは間違いないしな。……ここは黙っておこう。
「だから私は、唯はこれで許すよ」
「グアッ」
無言の腹パン。それも思いっきりだ。
ステータスが上がっていても痛いものは痛い。そしてウンウンと頷きながら莉子にも腹パンをされる。もちろん、菜沙からも。
怪我が治ったとはいえ調子の悪い俺にはかなりのダメージだ。だが三人とまだ一緒にいれるなら甘んじて受けよう。
「それで君はどうしようか」
「……私たちですよね。敵になるつもりはありません」
「知ってるよ。君は弱いもんね」
オーガの妹の顔が歪む。図星か。
「だから兄の手を借りてレベル上げって所かな」
「……聞いたんですね。その通りです。私は兄の厄介者でしかないので」
「一つ訂正するけど兄の方には聞いていないよ。ただ俺も三人に近いことをやっていたからな」
だからといって俺は唯たちを厄介者だとは思っていないけどな。逆にいてくれないと困る。
「私たちオークやゴブリンなどは雌が生まれることは少ないんです」
「……それに突然変異種が二匹も生まれてしまった。今はオーガだけれど昔はオークだったってことか」
妹は「その通りです」と悲しげに笑った。
「そんな私の末路が気に入らないって、苗床になんかさせないって兄が親ごと集落を一つ潰したんです。兄が私をパーティに登録していたみたいで私も進化をしました」
「なのにステータスは低かった。ちなみに戦闘経験は?」
俺は片手で調べごとをしながら話を聞く。
話しづらそうにしながらも妹は話をしてくれるようだ。
「ないです。何かを殺すことが怖くて」
「じゃあそれのせいだな。まずステータスは戦うことで上昇していくんだ。進化しても戦闘したことがなければ上がるものも上がりづらい」
鑑定で自分のステータスをより深く調べてみればそれがわかった。オーガの妹のステータス自体は俺の十分の一だ。三人よりも弱い。
逆に兄の方は五百と前の俺と大差なかった。今では簡単にとはいえないが倒せはするだろう。
「……やっぱり巾着だったんですね。あの時に死ねばよかったのに」
「それは違うよ! それならお兄ちゃんみたいに助けようとはしないよ!」
妹の肩を掴んで唯がそう叫ぶ。
魔物と人が相容れない。そう考えていたのだが一概にそうとは言えないよな。
「大事って大きな事、つまりはオオゴトなんだ。その人がいるかいないかで自分への影響がある。いないことがとても辛くて悲しいから君の兄は助けたと思うんだ」
「……人族とオークでは考えが違うと思います」
「そうかもね。でもオーガやオークって言っても俺たちを殺そうとはしていないでしょ。妹を守ろうとしたでしょ? 俺は普通に無意味に人を殺す人よりは圧倒的に人だと思うけどね」
意味の無い殺しは殺人だと思う。でも意味ある人殺しは? 殺されかけたから殺す、今まで虐められて殺してしまう。法では許されないだろうがそれは悪いのだろうか。
法は絶対ではない。それなら簡単に変えられないだろうからな。故に俺は法律=条約に近いと思う。それに罰があるか、ないかという違いしかない。
「いくらね、生まれてきてくれてありがとうって言う人がいてもDVをすることだってある。お前なんか産まなきゃよかったって言うんだ。友だちだって言うやつも裏切る。でも君の兄はそうしなかったでしょ? あいつらよりも十分人間だと思うよ」
「……ありがとうございます。ですが私たちは」
「ここにいていいよ。兄の方は俺が説得する。君たちが死んでしまうのは俺にとっても悲しいから」
やっぱり住まいのこととかで悩んでいたようだ。目を丸くして俺を見ている。
「人族の常識は三人から学べばいい。対価としては一緒に生きるために戦ってもらうことだ。君にも強くなってもらうよ」
「……生物を殺すことは……」
「ごめんごめん、言葉足らずだったね。俺は少し特殊なんだ。常識外れの力を使って君には兄の手助けができるようになってもらう」
それ即ち生産職だ。妹の方にはものを作ってもらい俺たちの手助けをしてもらう。
食事等もできるようになれば独り立ちできるだろう。兄の手助けもできるからな。
「戦わないでものを作る。もちろん、作る場は提供するしそこはとても安全な場所だ」
俺の拠点は簡単には壊れない。
土地の価値がなくなれば城を建ててもいいしな。完璧な居城、そこで働いてもらうのも悪くない。
「兄に……疎まれなくなりますか?」
「それは君次第だろ。やるかやらないかが問題だと思うよ。さて話をしに行くか」
俺が立ち上がった瞬間だった。
居間の扉が開き一人の青年が中に入ってくる。
ふと俺の顔を視界に映しそのまま下へと移動したかと思うとオーガの兄が頭を下げた。
「……俺を配下にしてくれ!」
オーガの兄の姿を見て俺は固まった。
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以下、作者からです。
ようやくオーガの二人が仲間になる所まで書きました。もちろん、仲間になります。さてどうやって仲間になるのでしょう。
そして二人の名前は。今後ともお楽しみに。
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