1章20話

 マップから四人が遠くへ離れた瞬間にそいつは現れた。まるで待ってくれていたようにも見えるのでありがたい。


 俺たちを視界に入れてふんと鼻を鳴らす。わかっているんだ、俺たちが格下であることを。


「……なんだ、これ」

「プレッシャーか。……それとも上位種特有の威圧感か」


 手足がうまく動かない。動かそうとしてもぎこちないものになってしまう。


 存在するだけでここまで敗北感を味わうのか。怖い、それ以上の感想が出ない。


「ザコダナ。ココニハオナゴモイナイノカ」


 前言撤回だ。こいつは四人の逃走を待っていたわけではない。わかっていたことだがここまでオーク種は似たり寄ったりなんだな。


「キサマハドウシュカ?」

「俺は豚じゃねえ。……元オークではあるけどな」


 力を振り絞ったのだろう。オーガがオークジェネラルに向かっていった。だがその攻勢も一瞬だ。


 本当に瞬きした後にオーガが壁へと激突していた。そしてそこから俺に向かってくるのも当然のことだった。


 グングニールを構えた所でオークジェネラルの動きが止まる。なんだ、余裕がなくなったようにも思える。


「オマエ、ソノブキドコデテニイレタ」


 片言ではあるが話せなかったオークナイトとは比べ物にならないのだろう。全てにおいて優っているオークジェネラルが俺の武器に恐怖を抱いたのか?


「イヤ、コロセバカンケイガナイ」


 また勢いをつけ向かってくる。

 だが恐怖を拭いきれていないのはわかる。速度はオーガを飛ばした時よりも遅い。


 ギリギリ動きが分かる程度だが分かるだけマシだ。予想で躱していけばいいんだからな。


 何度も何度もオーク種ならではの肉切り包丁をグングニールで流し躱していく。まだ恐怖を抱いている今ならいいが、俺の体も無理やり動かしているのと変わらない。


 ステータスの差を埋めなければ勝ち目もない。本当に無理ゲーだ。せめて少しだけ自由な時間があれば。


 そんな時にオークジェネラルが俺の目の前から消える。足の踏ん張りによって飛ばされはしないが、いくらか横に飛ばされている。


「俺を無視してるんじゃねえよ!」


 オーガがオークジェネラルを吹き飛ばしたのだ。そしてオーガの体も少し変だ。光を纏い俺と戦っていた時以上の速度を誇っている。


 いや、今はそんなことよりもやらなければいけないことがある。幸いにもオークジェネラルの意識がオーガに向いている今しかできない。


 オークジェネラルのステータス自体は千ちょっとだ。俺は五百ほどしかいっていない。ならば嫌な気持ちはあるけれどジョブを変えるしか手がないだろう。そして溜まっているポイントを使う。


 神殿の力でジョブを勇者に変化させた。それでもステータスは八百ほど、オークジェネラルには及ばない。


 そこにポイントを経験値に変える。もしかしたらと思いスキル欄を見ていたら最後にあった。これで本当にポイントはゼロだ。


 ポイント1で経験値10に変えられる。それに経験値上昇の恩恵を受けるようだ。それによってギリギリレベルが三十になった。


 三十になったからか見習い付与士から付与士が派生されていたため、セカンドジョブに付与士を付ける。これでようやくオークジェネラルに並んだ。


 ステータスの差が恐怖を生んでいたのだろう。今は体が自由に動く。それにステータスを見たがオークジェネラルに勝っているものがある。


 HPとMPだ。これらに関しては一万を超えている。オークジェネラルでさえ五千ちょっとだ。


 もしかしたら俺のHPとMPはとても上がりやすいのかもしれない。MPを消費できるだけして体に電撃を纏う。今は三千ほどが限界だがこれからもっと増えていくだろう。そうじゃないと困る。


 その頃にはオーガが守りに徹し始めており、また壁に吹き飛ばされていた。追撃を与えようとオークジェネラルが飛んだが、


「それはさせない!」


 何も持っていない左手でぶん殴る。

 ゴスっという鈍い音が響きオークジェネラルが半回転して地面に倒れた。だがまだだ、雷で多少動きを鈍らせられたとは思うが麻痺しているわけではない。


 グングニールを構えオークジェネラルが起き上がるのを待つ。先とは違い目が充血している。


「オマエ、ツヨイ。ダカラコロス!」

「うるせえよ!」


 肉切り包丁が俺の腹に当たるが雷の鎧で跳ね返される。MPで作られた鎧だが防御力はそこらのものとは比べ物にならないのだろう。


 それにこの世界で三千も使用して雷を纏えるものがどれだけいるか。付与と雷のスキルレベルが最高値で、MPもとても高くなくてはいけない。


 目の前のオークジェネラルの一番レベルの高いスキルでさえ、身体強化のレベル六だ。


 跳ね返されて驚いているオークジェネラルの横腹へ、大薙ぎのグングニールを横腹へぶち当てた。打撃音など聞こえない。聞こえるのはグアッという腹を切られて真っ二つになるオークジェネラルの断末魔のみだ。


 それでも俺は余裕を持てなかった。倒したオークジェネラルのレベルは1だ。ということは高レベルのオークジェネラルもいるはずだ。それが出てこないとも限らない。


 オークジェネラルの死体を回収して気絶していたオーガを担いだ。早く逃げなければいけない、そんな気持ちを覚えながら唯たちの逃げた場所へと全速力で走った。





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