1章19話

 俺が攻撃を受けたのは明らかだ。

 大振りの攻撃は立て直すのに時間がかかるし相手はそれを上手く扱えるだけの力量がある。


 やるなら小さくダメージを与えていくしかないか。


 体には……ダメージは少ないな。思ったよりもステータスの防御面の高さが、相手の攻撃面よりも高いらしい。それだけわかれば十分だ。


 見た感じ速度では勝てないだろうな。

 だが他の面ではどうだろうか。


「いつまで、寝ているつもりだ!」


 飛び膝蹴りのように俺のいる場所へ蹴りをぶち込んでくる。


「なっ」

「愚直に戦いすぎだ」


 速度で負けているのならカウンターを狙えばいい。俺はそう思って体に付けながらグングニールを構えていた。


 その刃に蹴りを食らわせたため相手の足にダメージが入る。もちろん、その反対方向にあった刃によって俺の腹もいくらかは切れているが。それでも計算内だ。


「お前の妹か?」

「ならなんだよ」


 体を起こし小さく聞くとそう呟いた。

 この状況下ならあの少女が目の前の親族であることは目に見えているし、それに、


「あの子を守りたいんだろ」

「……そうだな」


 先程の怒りはどこかへと消え少し口ごもりながらも返事をしてくれた。


「俺にもいるんだ、妹が。だからその気持ちはわかるよ」

「……そうか。でも」

「わかってる。真意を図りたいなら戦って感じろ」


 相手は首を縦に振った。別に熱い展開は好きじゃないんだが、これも悪くはないだろう。


「お前の名前は?」

「名前はねぇ。あるのは忌み子って言う呼ばれ方だけだ」

「そうか、俺は洋平。……お前を倒すものだ」


 殺すつもりはない。殺さなくても経験値は入るかもしれないし、ここでの最大の目的は金稼ぎだ。まあ、オークナイトたちの経験値が入らなかったのは痛いけど。


 さぞ愉快そうに相手は俺に突撃をしかけてきた。速度は先のせいか遅い。俺でも対処できるほどに。


 ただ俺もあまり力が入らない。少し出血量が多かったのかもしれない。


 グングニールを構え直すが、その間にもすぐ側まで迫ってくる。八割ほどは流しきれるが残りの二割は体で受ける。というよりもこれが限界だ。


「ッツ」


 ヒットした。

 攻撃の際には防御面に隙ができている。さすがに両立はできないのだろう、その隙をついて横腹に雷を纏った拳で正拳突きを行った。


 それを受けてか、背後に飛ぶ相手。

 戦闘狂なのか口角がヒクヒクと動いている。明らかに相手は笑っているのだ。そして俺も、


「……楽しいな」


 オークナイトとかと戦うような命の取り合いじゃない。どちらかというと喧嘩のようなものに感じる。それがとても楽しい。


 どうやって俺を倒そうとするのか、次の一手はなにか。そんなことを考えながら相手を倒そうとするのはとても楽しい。


 もしかしたら本当は命を取られるかもしれない。それでもこの楽しさを消す事はできないだろう。


「わかるか。俺も楽しいぞ」


 ちらりと妹の方を見ていたため、俺も自然とそちらを向いてしまう。少し心配そうな表情をしているが祈ってるだけだ。


「あいつには力がないんだ。生まれた時からな。そのせいで虐められていた時に俺とコロニーを出たんだ」

「集落のことか。……オーク種の仲間なんだろ?」

「そうだな。……はあ、他種族の方が優しいなんて本当に意味がわかんねえ」


 そう言ってまた俺の方に向かってきた。雷が効いているのか、より速度は遅くなっている。


 後もう少しだ。もう少しで俺の勝ちだ。

 そんな中で一つの異変が起きる。


 黒い渦がオークナイトのいた場所にできあがる。まるでなにかがそこに現れるような、そんなエフェクトのような感じ。


 見る人を畏怖させるようなそんな真っ黒い何か。そしてそこから現れ始める。


「……オーク……ジェネラル」

「あいつらの上位種かよ」


 戦いの最中には見ることができなかったが、唯たちはまだ隠れているようだ。傷はどうするか、相手がその渦から出るまでには時間があるだろう。それなら、


「三人とも出てきてくれ! そこの少女を連れて一度外へ出ろ! 頼むから今だけはそうしてくれ!」

「お前! ……仲間がいたのか」


 棚の影から出てきた三人は少し訝しげにしながらも首を縦に振ろうとはしない。当たり前のことだ。


「この償いは後でする。その子が死んだら駄目なんだ!」

「お前……すまない、俺からも頼む」


 頭を下げた俺に横にいた少年も頭を下げてくれた。少しだけ時間が経つ。この時間すら逃げる時間に変えて欲しいのに。


 そうして三人は何も言わずに少女を連れて外へ出た。これでいい、俺のことを見限ってもいいから今は逃げてほしい。俺と少年がいても勝てる見込みは、ゼロなのだから。


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