1章18話

 一階装ごとにオークが数体いる。

 このデパートで得られる数少ない経験値なので、近場のものだけは魔法でバレないように殺していた。まあ、さすがに三人にはバレていたが。


「あれ、おかしいな」

「うん? どうかしたの?」


 俺の呟きに唯が反応を示す。

 周囲に配慮してか、唯も小声だ。


「いや、オークの数が減っていっているんだ。近くにいるのでオーク種以外もいないし」


 マップに映る敵の存在はオークナイトとオークのみだ。その中でオークが段々と数を減らしていっている。あっ、今、オークナイトの一体が死んだ。


 なにか嫌な予感がする。オークナイトを倒せるほどの敵がそこにいるのは間違いないのだ。


「あのさ」

「私は行きますよ」


 菜沙の真っ直ぐな目と曲げられないような真剣な声に、「残ってくれ」という言葉を出すことはできなかった。


「また、残ってくれって言うんですよね。あの時ですら、自分が一緒にいれなかったことを悔やんだのに、同じ体験をしたくはないです。たとえ力不足でも四人でいたらなにかいい手もあったはずですから」

「あらら、菜沙に全部言われちゃった。私も残る気はないよ」

「お兄さん、根本的にさっきと今は違うよ。みんなジョブを得て幾らかは自衛手段を得たんだから」


 続けざまに言われる三人の言葉。

 確かにわかる、わかるけど、


「お兄さんは死なないからって言って出ていきましたよね。それに返すって言って私の銃を壊しましたし」


 言外にそれの元締めをするために私たちを連れていけ、と言われているようだ。だが、


「死ぬかもしれないぞ」

「お兄ちゃんも死ぬかもしれない中で生き残ったよね。ゲームとかそこら辺の柔軟な思考なら負けないと思うよ」

「洋平先輩は少し人に頼るということをするべきでは?」


 人に頼るか、頼ったせいで周りに疎まれることもあるんだけれど。いや、この三人ならそんなことはしないのか。


 信用も信頼もされている。だから過保護にしていたが、それは傍から見たら突き放しているようにも見えるのか。やっぱり対人関係は難しい。


 ステータスを一度開いてみる。




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カナクラヨウヘイ

種族レベル 24

ジョブ 1.見習い付与師

HP 4220

MP 5850

攻撃 415

知力 475

防御 415

精神 415

俊敏 415

魅力 500

幸運 500

スキル 身体強化7、経験値増加10、ポイント増加10、異次元流通4、異次元倉庫10、槍術1、マップ10、拠点10、付与10、鑑定10、召喚1、調教1、追跡2、気配遮断2

固有スキル 神殿

魔法 刻印10、拘束10、空間10、火5、水5、雷10

ポイント 5214

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 やはりステータスの上昇率が高い。

 それにもう少しでレベルが三十に到達する。三十を超えればセカンドジョブをつけられてよりステータスも上がるだろう。


 これなら、さっきとは違う結果にすることができるかもしれない。


「三人とも、死ぬかもしれない、そんな危険性があるんだが付いてきてくれるか」

「当たり前ですよ」

「お兄さんが行くなら、後ろは任せて」

「お兄ちゃん、なんだかんだ言って守ってくれるんでしょ?」


 そうだよな、俺も三人も守ってみせる。

 誰も死なないままで俺はこのデパートを出て、変わり果てたこの世界で生きていく。そんな中で三人がいないのは絶対に嫌だ。

 逆に三人も俺が死ぬのは嫌なんだろうな。


「当然だ、四人で生き残るぞ」


 エスカレーターを早足で駆け上がる。気配遮断で三人も含め相手にバレるということはないだろう。あるとすれば足音だけだ。

 だがまだ相手はオークナイトと戦っている最中だ。足音なんて些細なものだろう。近づくなら今しかない。


 敵に近づいた。四階層目の端ら辺でまだ戦闘中だ。そして敵の姿を視認した。


 オークナイトとオークの死体が散らばる中で佇む一人の青年。その横で青年を見つめる少女の二人だ。


 オークなんかじゃない、明らかに人だ。

 いや、違う。額に小さな凹凸がある。つまりはそれは角か? 豚であるオーク種であるのに。


 マップを確認した。

 その考えを捨て去る。二人の種族はもはやオークではなかった。オーガ種、そして鑑定にはオーガ(変異種)となっている。


「誰だ!」


 そこで相手に気づかれた。

 三人を置いて先に出る。唯ならばわかっているはずだ。敵の数を確認されているのとされていないのとでは大きな差があると。


 例えどんな手であっても勝ちは勝ちだ。汚かろうが奇襲でもなんでもして生き残ってやろう。


「俺はオークナイトを潰していただけだけど」

「ふぅん、まあ、殺すけどな」


 オークの上位種であるオーガの攻撃が俺に何発も来た。大丈夫だ、余裕を持って攻撃を流せる。


 少女の方を見た。

 行動を起こしていないようだ。それが癪に触ったのだろうか、


「てめぇ、俺の妹に何の用だ」

「二対一では来ないんだなって思っただけだ!」


 俺の声に舌打ちが返ってくる。

 一段と攻撃の手が早まり少しずつ本気を出してきていることを理解する。


「最初は本気じゃないなんて余裕だな!」


 グングニールを足に刺す。

 ダメだ、横に躱されて皮一枚分を切っただけだ。


「てめぇ、許さねえ!」


 相手の体が光るのを確認してから視界が横転した。目が回る、体を起こしてようやく殴り飛ばされたことを理解した。

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