1章17話

 その死体を見てなぜ倒れなかったのかを知った。最初っから菜沙の氷が足を凍結していたのだ。


 それにオークも首尾よく全滅していたようで仲間の成長を感じる。


 マップを確認した。さすがにオークナイトの咆哮で先の偵察隊のオークナイト二体が降りてきているようだ。


 ササッとそれらを回収して三人を少し下がらせる。相手も待ち構えているとは思わないだろう。スキルの重要性を身にしみて実感した。


「三人とも、レベルは十を超えたか?」


 棚の裏に隠れた三人のそばまで行き小さな声で聞く。マップを見た限りではまだまだ距離がある。


「私はなっていますね」


 菜沙はなっているようだが、二人の表情は芳しくない。多分到達していないのだろう。経験値の分け方の問題だと思うので次の戦闘の後にはレベルが規定値を超えているはずだが。


「一応、ジョブは付けておけ。ジョブがあるのとないのとではステータス差がはっきりとする」


 それは俺が一番理解している。ジョブの有り無しでは今後の展開には大きく変化をもたらすだろう。


 そんな中、そいつらは来た。

 エスカレーターを早足で降りてくる二体のオークナイト。オークはいないようだ。


 舐めている、わけではなさそうだ。

 ただ単純にボスの守りを固めようと思ったのか、もしくは俺らをあまり強くはないと思ったか。


 俺を見てすぐに二体のオークナイトが俺に向かってきたが、


「氷足」

「雷足」


 氷と雷がオークナイトの足を襲っていた。

 菜沙も攻撃をしているため、もうジョブを決めて付けたのだろう。


 雷の方は俺のよりはレベルが低い。そのためダメージは大してない。

 氷も微妙か。あるとすれば速度が少し落ちたくらい。もしかしたらオーク種は変温動物なのかもしれない。


 グングニールを片方の頭へと突き刺す。

 ステータスがかなり上がったのか、先よりも早い速度で体が動いた。


 その力も明らかに違う。

 相方を殺されたオークナイトが俺に向かって獲物を突き刺そうとしてきたが、引っこ抜いたグングニールで鍔迫り合いを起こす。


 前回ならばこのような展開を起こせはしなかっただろうし、今の鍔迫り合いでもオークナイトに負けていただろう。


 ガキンと大きな音を立てオークナイトの獲物が芯から折れる。武器のランクの差がここに来て現れたか。


「死ねッッッ」


 そのままグングニールを押し付け腹に一文字の傷を付ける。そこから噴水のように噴出した血に視界が少し悪くなったが、気にせずに右手に雷を纏わせる。


 慣れてしまったのか、インターバル無しで右手にビリビリとした黄金色の光が露出する。


 そしてその一文字の傷へと貫くために伸ばす。傷をなぞるように貫いた手を下へと下ろす。先程の出血とは比べものにならないほどの血が飛び出た。


「……終わったな」


 オークナイトが二体とも収納できることを確認してからそう零す。収納できるものは死んでいる、もしくは道具類なので死んでいることは丸わかりだ。共にグングニールも一度しまった。


「これで三人全員がレベル十を超えたか?」

「うん、レベル11だね」

「私だけレベル12です」


 確かに菜沙だけがレベル12だ。これは経験値の配分のおかげだろう。


 それにしてもレベルの上がりが早いな。俺が倒したものだけ、俺の経験値上昇が適応させるのだろうか。まあ、それはいいとしてもこれはいい感じにことが進んでいる。


 俺はウキウキしながらマップを確認した。

 最上階に残りのオークナイト三体とオークが待ち構えているようだ。オークの総計は二十七体、過去最高だが何故だか負ける気がしない。


「ちなみに三人ともジョブは何にした?」

「私は……絵師? っていう固有ジョブみたい」

「絵師ってあれか? サイトとかでイラストを書いている、あの絵師か。確かに唯は絵が上手いけど」


 固有ジョブということは俺でいうところの勇者みたいなものか。名前的にはあまり強くなさそうだが。


「スキルは鳥獣戯画っていうものみたい。なんか見たもの、想像したものを魔力の絵にして放つことができる、だって」

「魔力の絵、ですか。つまりは莉子さんの銃弾を一気に増やして掃討する、なんてことも可能ですよね」

「なるほどな。……意外に強いんじゃないか? 下手したら俺抜きでもオークナイト倒せそうだしな」

「確かにね、結界で守りながら遠距離で攻撃、なんてことも簡単にできるから。でも、お兄ちゃんの近くにいれないのは嫌だよ」


 愛らしく首を倒す唯。

 可愛いが今は愛でている時間はないだろう。


「そうか、ありがとうな。これで唯は後ろで援護するのが確定だな。それじゃあ菜沙は?」

「私は見習い魔法剣士です。固有ジョブはあるにはありますけど、今必要そうなものではないのでこちらにしました」

「そっか。ちなみに固有ジョブはなに?」

「聖騎士ですね。ただ前衛は洋平先輩で十分でしょうから、中間で前衛後衛を行き来できる中衛が必要だと思ったのでこちらにしました。見習いということは成長の幅も大きそうなので」

「そうだよな。そう、俺もそう思って見習い付与士っていうジョブにしたんだ。なんか付与ってカッコよさそうだしな」

「そういえばさ、聖騎士って固有ジョブなんだね」


 唯の言葉に俺も確かにと首を捻った。すぐさま神殿やその他のスキルを使って調べてみる。答えは神殿ですぐにわかった。


「どうやらその心得がある人じゃないとなれないらしい。例えば警察官なんてジョブもあるみたいだけど、きちんと警察として働いていた人でないとなれないみたいだ。その点、俺たちは少し特殊みたいだな。その心得がなくても固有ジョブを得られるらしい」

「えーと、つまりは聖騎士になれる人はいるけどそれは極わずかな人たちってこと?」

「そうだな。まあ、唯の絵師とかは特殊みたいだけど。ああ、俺たちっていう言い方はこの魔物がいた世界に生きていた人ではない人たちってことだ」


 莉子の「俺たち?」と呟く声にそう簡単に返す。


「どちらにせよ聖騎士って良いな。俺もなりたい」


「そうですよね」と賛同する菜沙を横目に莉子の方を向いた。莉子は「普通のジョブだよ」と言ってまた口を開いた。


「見習い銃士っていうジョブなんだけど、銃を撃つのに補正がかかるみたい。それに固有ジョブもあまり好きなものではないし」

「固有ジョブはあったんだな」

「うん、道化師だって。多分、演じたり物を投げたり撃ったりに補正がかかるみたい。サーカスのピエロみたいなジョブだね」


 中学校では友達に対して演技をしてきたんだ。そんな過去の莉子の言葉を思い出す。

 少しだけ悲しそうに見える莉子の頭を撫でながら、元気づけようとする意図ではなく、ただ本心をぶつける。


「今は嫌いでもいいさ。ただ俺は道化師ってかっこいいと思うよ。二人はどう?」

「うーん、ゲームでは見ないものなのでやってみたいという気はありますね」

「自分のスタイルにあった戦い方ができるならそれでもいいかな。まあ銃士も銃を撃つ莉子にはピッタリだと思うよ」

「だってさ」


 笑いかけながら莉子の頭を乱暴に撫でる。

 莉子は「痛いですぅ」と困ったように笑い「そうですよね」と口を開いた。


「今はこれにならなくても、いつかは必要になってくる時があるかもしれない。その時に乗り越えられればそれでいいさ。俺だって陽真とかとの因縁を乗り越えられてはいないんだから」

「……やっぱりお兄さんに付いていって正解でした。セカンドジョブとかがあるなら……道化師にしてみようかな」

「なら俺もあいつらのことを乗り越えないとな。一緒に頑張ろうぜ」


 俺は莉子の頭から手を離し再度グングニールを取り出した。妙に莉子の体が大きく感じたのは気の際ではないはずだ。


 俺たちは近くのエスカレーターを登り始め最上階のオークナイトの元へと向かった。



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