1章16話
まずはオークの殲滅から始めなくてはいけない。中央にいるオークナイトは後回しだな。
オークは三人に任せてできる限り時間稼ぎ。俺の次に攻撃に幅のある菜沙のレベル上げは必須だろう。
もしくはパーティでも組めばいいのか。そしたら平均で分けられるかもしれない。
ステータスをいじってみるとそれらしいものを発見した。まあ、ゲームでもパーティなんて当たり前にあるんだから普通だよな。となれば俺と三人、計八人までなら組めるようだからまだまだいけそうだ。
「ん? なんか来た」
「パーティ編成……ですか?」
「そうだね。経験値を分けられるみたいで、いちいちラストアタックを気にしなくて済むでしょ?」
「いいですね、いっつも一人でダンジョンとか行ってたんでドキドキします」
少しだけ菜沙の可哀想なゲーム生活を知ったが不可抗力だ。できれば知りたくなかった。
「これからは三人ともいるから」
「……はい、後ろは任せます? か、後ろは任せてくださいって言えばいいんですよね?」
可愛らしく聞いてくる菜沙に「そうだよ」と返す。パーティを組むからには一蓮托生だ。もう少しでジョブをつけられるレベルに到達するから、それまでは三人ともを守らないとな。
「さて、行くぞ」
経験値を俺・三、唯・三、菜沙・四、莉子・三にしてまた進み始める。もちろん、許可はとったし、菜沙が一定レベルまで行けば唯と莉子も同じようにするつもりだ。
マップを確認する限りでは中央のオークナイトは警戒したらしく、オークを集め陣形をとっているようだ。先程のパイソン爆破がそうさせたのかもしれない。
そして上階からオークナイトが偵察に来ることもない。これも同じような理由だろう。魔物でさえ、自分の命は惜しいように見える。
その集合していること自体が俺にとってはありがたいけど。
「中央にオークが十二体いる。さっきの倍くらいだ。それで」
「私たちが倒せばいいんでしょ?」
胸を張る唯を愛おしく感じながら首を縦に振る。
「オークナイトは一体とはいえ、三人だと倒せない危険性がある。だから俺が時間を稼ごうと思う」
俺でも倒せるかわからない、そんな言葉を飲み込む。三人よりは可能性があるはずだ。
右手に雷を纏わせる。できればグングニールにもそうさせられればいいのに。だがまだできない。
「俺がオークナイトを抑えているから、三人でオークの殲滅をお願いしたい。できれば俺一人で倒そうとは思うけど、まあ期待はするな」
俺は自分の力を過信する気はない。俺の力が強い、というよりはグングニールが強いだけだ。スキルが強いだけだ。俺の努力から得たものなど何もない。
だけど、その力でさえ、今はありがたい。
中央付近へと着いた瞬間に俺は右手の雷をふんぞり返るオークナイトへと飛ばした。走り込みオークナイトの肉切り包丁をグングニールで抑え込む。
「氷花」
「雷舞」
「当たって!」
三種三葉な攻撃が奇襲に戸惑うオークにぶち当たる。
菜沙は炎を封印しているようだ。それもそうか、こんな場所では炎は自分の首を絞めるだけなのだから。
「ブルルッ」
「きめぇよ!」
拮抗している刃と刃。そしてもう片方に力が込められた。オークナイトと俺では軍配は前者にあるようだ。だが、
「ブルッ!」
「戦い方なら俺に軍配があるだろ!」
弛んだ鎧から漏れている肉に雷をぶつける。鎧と体の間をすり抜けるようにオークナイトへと雷が襲っているのだ。そして、
「隙がありすきだ!」
グングニールをオークナイトの顔へと突き刺す。ダメだ、顔を逸らされて切れたのはほんの一皮のみだ。
二の手を考える前に体が動いた。オークナイトの右腕にグングニールを振り下ろしている。そのままオークナイトの腕は落ち、肉切り包丁は地へと落ちた。
「ブルゥアアア!」
「なっ、ちっ」
オークナイトの咆哮が響いた。
そしてその瞬間に体が固まる。恐怖からではない。これは、スキルか。
「結界!」
左腕の大振りの攻撃は見えない何かに阻まれた。そうだ、唯の結界。それに俺は今、助けられたのか。
少しだけ自分の不甲斐なさにイラつき、それを発散するためにグングニールを前に伸ばした。
オークナイトの左腕によって阻まれたものの、左手から肘までグングニールが突き刺さったままである。グングニールに雷を纏わせることはできない。だからこのまま中から雷撃をというわけにはいかない。
それを引っこ抜くために力を込めた。その時間すらオークナイトには反撃を与えるチャンスであることを知りながら。
そしてそれは来た。
オークナイトの顔面に四発の銃弾がぶち当たる。一人だったら負けていたかもしれないな。
グングニールを引き抜くことに成功した。それを首に突き刺すために伸ばす。逃げないオークナイトを疑問に思いながら、何かが飛んでいった。
俺の目の前には直立不動のままで佇むオークナイトの死体だけが残った。
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