1章14話
孤独というのはここまで俺をドキドキさせるのか。
少し前に一人で行動していたはずなのに心細さを感じる。やはり贅沢になれてしまってはいけないのかもしれない。
莉子から渡された道具はきちんと左手で持っている。グングニールはしまった。
獲物としては最高だがさすがに大きすぎて隠密行動には向かないだろ。
それに危なくなれば魔法を使えばいい。
今更だが火魔法でデパートを燃やし尽くせば楽だったのではないか。こんな世界では法も上手く働かないだろうし。
いやダメだ。それだと本末転倒になってしまう。ここで得られる道具などは全て灰になってしまうだろうし、オークナイトはそれでも耐えきってしまうかもしれない。
マップで確認したがスキルとジョブを得るなら、やはりこの階層のオークが一番だろう。
中心付近のエスカレーターらへんには隠れる場所が多くある。そこを陣取っているのは食料品売り場がすぐ近くだろうし、ましてや小物を売る場所も近い。
棚が多いのだ。それは過去の記憶からではなく、監視カメラの映像で確認済みだ。
抜き足差し足忍び足を心がけ、オークの近くに向かう。ポイントで買う方が楽だったのだが、いつポイントが使えなくなるかわからない。それなら残しておいてここぞという時に使いたい。
やはりやるしかないか。
小さく深呼吸をする。まだ近づいていないため探知されることはないだろう。
「ッッッ」
不意に近くの洋服売り場の中に隠れる。
十数秒後に一体のオークがその道を堂々と通った。マップがなければ終わっている。本当にこのスキルには助かっているな。
追跡するかのようにオークを、距離にして棚を間にして歩いた。そこで一つのスキルを手に入れる。
『追跡』のスキルだ。
追跡して約二十秒だったが、それがこれの獲得条件だったかもしれない。そしてこれを得てからは少し楽になった。
レベル1にして足音が消えたのだ。
俺はほくそ笑んだ。こんなにも簡単に欲しいものが獲得できそうだったから。
そしてオークナイトのところに着く前にそれを手に入れた。『暗殺者』と『気配遮断』だ。
暗殺者に関しては楽だった。
ただ雷を纏った手でオークの腹を貫いただけなのだから。本当に気配遮断はありがたい。ま後ろにいてもオークが気づく気配すらなかったのだ。
オークナイトに近づく前だったからできたことであり、もしすぐそばにいれば俺は退却していた。
俺は神殿でジョブを暗殺者に変え気配遮断を使いながら帰路についた。
帰路も半分を過ぎた頃だ。一つの足音が近づいてくるのを認識してから、俺はあることに気づきマップを展開する。
オークには知恵というものはないと思っていた。だがそれはオークまでみたいだ。
いや、ただの巡回かもしれないが本当に運が悪い。
業務室近くの階段から二体のオークナイトが降りてきている。業務室自体は俺のスキルで安全だろうが、問題は俺だ。
戻る手がなくなった。
転移はあるが必ずしも成功するとは限らないしな。まだ一度しか使っていないから、失敗してここに倒れ込んでしまったら元も子もない。
手を考えないといけないな。
それも三人が外に出ないようにしながらだ。階段付近に監視カメラがないのを俺は知っているし、近くにオークナイトがいるのは知らないだろう。
早く戻れるように、かつ安全に戻れる手を。
俺はまだ手に持っていたパイソンを握りしめた。
◇◇◇
一つの爆音が一階で響いた。
普段なら聞くこともない、銃の暴発をした時の音だ。
失敗する確率の方が高かったが成功して本当によかった。もちろん、火事を恐れて入口付近のトイレの洗面所に水を張って行ったわけだが。
理論上は簡単だった。
一弾だけ残し雷を発射口に張らせた。そしてファイアリングピンに雷を纏わせただけだ。
ただのパイソンだから纏わせられたが、グングニールほどの価値ならば無理だっただろう。本当に莉子には感謝だ。
纏わせたと言っても即座には全体に雷が通るわけではないため、ある程度の時間が空く。その間に先の業務室近くに行ったのだが、マップで見る限り全てのオークナイトたちはトイレに向かったようだ。
銃弾が雷によって押し出され、また雷の壁に阻まれて激突する。そしてそこで止まることによって暴発を促した。本当に要らない知識を持っていて助かった。
俺はそのままオークナイトの消えた業務室の中へと入っていった。
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以下、作者からです。
パイソンの暴発で逃げるという手を書きたかったのですが、見切り発車の割にはよく思いついたな、と自画自賛しています。
ちなみにパイソンの暴発に使ったのは、雷魔法と付与です。現実的にできるかはわからないですけど、そこはご都合主義ということで(笑)。
次回からは本格的にデパート戦が始まります。その後すぐに森編へと入るのでお楽しみに。
以上、作者からでした。
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