1章13話
業務室の扉の前にいたのはオークが四体だ。
そしてその周りを回るオークナイト。見回りのつもりかもしれないが、知能がないからかオークの周りを回るだけだ。
もし知能があれば俺たちは見つかってただろうな。
そしてその四方に立つオークが三体。莉子のナイフの総数は三本しかないので三体までしか倒せない。となれば莉子が狙うオークもわかるだろう。
あまりMPを使いたくはないが、やるしかないか。
「三人ともお願い」
ダメで元々だ。失敗したならここから出て時間をおいてからまた来ればいいだろう。
「氷足」
最初は菜沙の攻撃が決まった。
八体全てのオークやオークナイトの足を氷で固め戸惑わせた。それのせいでオークナイトたちは声をあげるということを忘れている。絶好のチャンスだった。
「雷食」
そこへ間髪入れずに俺と莉子の攻撃が決まる。名前だけはかっこいいのに技の見た目は微妙だ。
ただ五体のオークナイトとオークの喉元を焼き切っただけなのだから。同時に莉子のナイフに雷を付与はさせたがな。
「死んで!」
莉子の声とともに三体のオークが息を引き取る。やはりと言うべきか一番に持ち直したのはオークナイトだった。だが、
「やり方はわからないけど、守って、結界」
唯の結界が俺たちの目の前に張られた。もちろん、オークナイトの攻撃で壊れるということもない。大した防御力だ。
「オークナイトは俺がやる。三人は五体を始末してくれ」
この先、オークナイトと戦うのなら俺もレベルを上げておきたい。勝てる勝てないの前に逃げれるだけの力を手に入れるべきだ。
三人の「わかった」の声を聞いてから目の前のオークナイトに向かって行った。
「雷舞」
オークナイトにこの程度の威力では効かないだろう。でも、ヘイトを溜めることはできる。
グングニールを横薙ぎにする。オークナイトの左腕を切り落とした。隻腕、少しかっこいいと思ってしまう。
「どうせなら、隻眼にもしてやるよ」
ステータス的に前戦ったオークナイトと変わらないだろう。ならば俺のステータスでもできるはずだ。
「雷腕」
両腕に雷を纏わせる。グングニールにはなぜか付与できない。もしかしたら俺の熟練度や武器としてできないのかもしれない。
グングニールはとても強い武器だ。それこそステータスが十倍以上離れていても殺せるんだからな。それくらいのマイナスがあっても仕方ない。
「右目は貰う!」
右手はグングニールを掴んだままで、左手でオークナイトの右目を貫いた。ステータスが高ければここまでの事ができるのか。レベル上げは重要だ。
「ァァァ」
声にならない声を出し悲鳴をあげるオークナイト。だが無意味だった。そんな小さく淀んだ声は仲間には届かない。
「……じゃあな」
オーク特有の出ている腹に左腕が突き刺さり、そのまま心臓を握り潰す。
気分は良くない。生きるためとはいえ、生物を殺すこと自体に忌避感はあるようだ。そこは慣れしかないか。
「ァァ……」
そんな声が聞こえ振り返る。ちょうど最後のオークが菜沙の双剣によって首をとばされた瞬間だった。
マップでも他のオークナイトたちが行動した形跡はない。大成功だった。
唯たちが声を上げる前に俺は人差し指で自身の唇の前に出し、口を閉ざさせた。せっかくの成功でも一つの失敗ですべてが無駄になる。
先に業務室に入り壁に手を当てる。
拠点化に成功したことを知らせるログがステータスに現れたのを確認して、外にいる三人を中に招き入れた。最後に入った莉子が律儀に扉を閉じてくれる。
「成功したな」
「……うん」
俺が声を出したことによって安全であることを理解した三人の顔に安堵の表情が浮かぶ。本当に愛らしいな。
その後すぐに四人で部屋の探索をしたが、乾パン等があるだけで他には特になかった。だが一つのいい意味での誤算があった。
業務室だと思っていたがここでは監視カメラの映像も見れるようだ。ただしその監視カメラと繋がっているテレビは電気の供給が止まり真っ黒い空間だけを映しているが。
それでもこれがあるのはとてもありがたい。拠点を置いたことによってそれもMPで賄える。それも消費量は微小だ。詳しくいえば一時間で一の消費量、本当に微小なのだ。
テレビにデパート内の監視カメラの映像が流れる。いきなりついたため三人は肩をビクリと震わせた。
「……これで俺が安全かそうじゃないかわかるだろ?」
少し意地汚く笑って見せたが三人はなにも言わない。
「……頼む、行かせてほしい」
三人に頭を下げた。
三人を、いや、唯を菜沙を莉子を、その個人個人を守りたいから、俺は強くなりたい。
「戦う気はない。あってもここに入れば上手くやり過ごせる」
最悪、転移で、拠点の力でここから他の拠点にとべばいい。
「俺は……」
陽真が来ても対処できるくらいに、もし強い敵が、理不尽そのものが襲ってきても倒せるくらいには、
「強くなりたいんだ」
室内に静寂が訪れた。
その時間は数秒、そして足音によってそれはかき消される。
「……いいよ」
「仕方ありません」
「お兄さんが望むなら」
そんな言葉が並べられたがすぐに三人の声が重なる。
「帰ってきてね」
そんな声が俺の脳内のタンスの中へと収納された。
帰ってきてね、か。前の俺なら言われなかった言葉だろうな。
「……あとこれを、お兄さんを守ってくれるはずだから」
「……ありがとう。莉子」
俺は一つの道具を莉子から借り部屋を出ようとした。
「絶対に返してね。約束だよ」
返さないわけがないだろう。
俺は立ち止まり深呼吸をした。大丈夫だ、絶対に返せる。
今の俺なら何でもできる。
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以下、作者からです。
初夏の日差しも強くなり、ますます夏バテというものが怖くなり始めた今日この頃。
ようやく明日から休みが続くため、一気にデパート編を書き上げていこうと思っております。
またPVも1,000を超え気分も晴れやかです。
楽しんで呼んでもらえると幸いです。
また莉子が渡したアイテムも、お楽しみにしていてくださるとありがたいです。他のヒロインももう少しで出ます。
以上、作者からでした。
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