1章12話

「……やっぱり大きいな」


デパートの前でそんな言葉が漏れた。

ここに来るのも久しぶりだ。確か唯を含めて静の母と誠也兄と、そして静と来て以来だな。……あの頃は楽しかった。


「お兄ちゃん、来るの久しぶりだもんね。少し改装されてるから中を見たらもっと驚くかも」

「久しぶり、ということはなにかあったんですね」

「ただここは幼馴染との思い出がありすぎるだけだ」


菜沙は「そうですか」と悲しそうに言うだけで口を噤んだ。菜沙の過去になにか関連することがあったのかもしれないな。


さて、ここからどうしよう。

スキルとジョブを得るにしても三人にどのように待っていてもらおうか。なにを言っても単体行動を許してくれなさそうだな。


ここで待っていてもらうのが一番楽なんだろうけど。でも……やっぱりな。三人が強いことはわかっているがそれ以上に強い敵が出ないとは限らないし、それに三人から許可がおりるとも思えない。


他を考えるとするならば……デパートに拠点を置くことだろう。悲鳴などが聞こえれば助けに来てほしい、そんなことを言えば許可してくれる。うん、決めた。


「三人とも話があるんだ」

「話ですか?」

「そう話。ここの攻略をしたいんだけど少し単独で偵察に行きたいんだよね」


中に入る前に話は終わらせておく。

デパートはなぜか音が反響するからな。騒がれても魔物がよってくるだけだ。


「一人でですか? ……足でまといですもんね」


いくらか現実的な菜沙は理解したようだ。

多分二人も理解しているのだろう。だけど、


「納得できないだろうからデパート内に拠点を置こうと思う。そこからあまり離れずに行うから、悲鳴が聞こえたら助けに来てほしい」


助けに来ればいいや助けに来い、なんて他人行儀な言葉は言わない。来て欲しい、それだけで三人の心をどうにか納得させる素材にはなるだろう。


俺だって三人が単独行動を望んだら少し悩んでしまうしな。俺がもし許すとすればどう言われたいか、それが先の言い方だっただけだ。


「拠点を置くまでの時間で考えておいてくれ」


一種の逃げだ。

三人に時間をおかせて了承の返事を得やすくする。多少の時間があれば冷静に考えられるようになるだろう。


俺は「はい」の言葉を待たずして中へと侵入する。


「わかりました」


入口付近で菜沙の了承の声が聞こえたので、グングニールを前に構えマップを表示させた。


あまり時間はかけられない。そして時間がなさすぎてもダメだ。


時間をかけすぎても魔物に見つかるだけだし、なさすぎても考える時間が不足する。


拠点を置くのに適している場所は下層だ。もしデパートが崩壊を始めたら上階では死んでしまうだろう。


下層で、できればいくつかある入口付近がいい。内装はトイレなどの簡易的なものがあればいいだろうしな。


本当の仲介地点としてここを使う。より良い場所があれば、ここを解除してそっちに移行すればいいだろうし。


デパートへの用事は必要そうな道具の回収とお金、そしてオークナイトの討伐だ。その後でここへの用事があるとは思えない。


「……オークナイトがこの階層に二体か」


七体のうちの二体がこの階層にいるのか。

三人に戦わせるのもいいが、それよりも俺が倒すべきか。……難しいな。


「私たちがいても拠点まで行けるものなんですか?」

「……極力、戦闘をしたくはなかったんだけど、しないといけないだろうな」

「オークナイトと?」

「そうだな。オークナイトのレベルの低い方と戦う。俺は近くにいるオークナイト殺すから、オークの方を何とかしてくれ。最初に行動力は削ぐつもりだけど」


そう言ってから先を歩く。

オークがいるからか、中に入ると不気味な声が木霊していた。最初の頃に来てしまっていたら、即逃げていただろう。


オークナイト二体の位置は中心付近のエスカレーターに高レベルが一体、拠点を築こうとしている一階業務室の近くに一体だ。


もちろん、業務室の方のオークナイトと戦おうと思っているためその周囲もマップで確認している。


そのオークナイトの近くにいるのはオークが七体だ。レベルはまあまあ高く15程なので俺の経験値となってもらう。


オークナイトのレベルは4だが雷魔法と拘束魔法を使えばどうにかできるだろう。問題は悲鳴も上げさせずにという点だ。


さすがにオークナイト三体に囲まれた時に比べたら恐怖は薄い。それでも前の戦いを思い出して足が震えてはいるが。


「唯、確かスキルの中にさ」

「……うん、あるね。それを使えばいくらか楽になる?」

「わからないけどな、確証なんてないし。菜沙には氷で」

「わかりました。みなまで言わなくてもそれだけで何を考えているのか」

「莉子は」

「投げナイフでオークの殲滅かな。さすがに一瞬で七体はお兄さんでも無理でしょ?」


本当に三人はわかってくれているのか。

少し疑問に思いはしたが唯と莉子はゲームの時から俺と同じ思考をしていた。そして菜沙も氷で、それでわかったなら一つの結論に至るか。


とりあえずは俺と莉子でオークを全滅させ、残った一体のオークナイトを拘束かな。莉子の言ったように、一人で七体を殲滅は厳しいからありがたい。


そう思い俺は先に業務室に向かった。

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