1章11話

「あれ……自衛隊じゃないか?」

「……確かにそうみたいですね」


 俺の街はそこまで都会というわけではない。そんな場所に陸上自衛隊車両が六台走っているのだ。誰であろうと驚きはするだろう。


 こんな場所……いや、森にでも行くのか。そうだとすればあの重装備も理解できる。


「……一応、武器は隠せ」


 献上しろだなんだ言われても困るからな。下手したら対立関係になる。そうなったら全面的に戦うとは思うが、最終的には大敗北を喫するだろうな。


 三人はあまり理解している気配がないが、それでも信頼感からか武器を見えないところにしまった。剣に関しては隠せないだろうから俺が預かったが。


 それから数秒後に俺の目の前で二台の車両が止まった。運転席の扉が開き一人の男が出てくる。自衛隊員の割には若いな。


「生存者を確認。大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です。……なんとかあの二足歩行の豚からは逃げ切りましたし」


 幸か不幸か俺たちの進行方向は都市部の方だ。逃げているといえば都市の方に逃げていると勘違いしてくれるだろう。


「……足が遅いことだけが救いだからな。機関銃でさえ、効くものと効かないものがいるくらいだ」


 俺は黙った。ただ情報を与えるかどうか考えているのだ。


 別に渡してもいいが逃げてきたことと噛み合うようにしなければいけない。難しいな。


 効くものと効かないものの違いはレベルだろうし、高ければ莉子の銃撃も意味がなくなる。そろそろ買い替え時か。それともなにか強化する手があるか。


「このステータスというものも不明な点が多いからな」

「ステータスですか……」


 今回は惚けておく。

 情報を渡す理由が見つからなかったからであり、噛み合う言い訳が見つからなかったわけではない。


 それに手伝えと言われても面倒臭いからな。戦う場面も出てくるかもしれない。そうしたら逃げてないことがバレるから。


 三人とも俺の後ろで様子を伺っているが、口を開く様子もない。当然といえば当然のことか。


「それにしても自衛隊車両でどこへ向かうんですか?」

「街の中心に現れたという森だ。隣町の中心を咲くようにして広範囲に森が現れたようでな」

「道路はあるんですか」

「そこはさっき話したステータスでなんとかする」


 なるほど、スキルで道を作るのか。それならばいくらか無謀ではないと思うが、それでも足りないだろう。


 いや森の中のレベルを知らないからか。多分、自衛隊の人たちは高レベルのオークを倒して調子に乗っている。言い方は悪いがその言葉が一番お似合いだ。


「……気をつけてくださいね。逃げてきた人の話では豚を倒せたのに入口付近で魔物にやられたと言っていたので」


 でまかせだが嘘ではない。入口付近でさえオーガなどの明らかにオークとは戦闘力の差がありそうな魔物がいる。


 若い自衛隊員は「情報感謝する」と言って車に乗りこみ、また森へと向かい始めた。


 あの程度で情報と呼べるのか。

 そんなことを思いながら俺は隠していた武器を二人に手渡した。


「どう思う?」

「……死ぬと思います」


 俺の言葉に反応したのは菜沙だ。

 それは同感だ。自衛隊員のレベルは7である。莉子にさえ勝てないだろう。それがわからずとも森に入ること自体が無謀だが。


「ちなみにそう思う根拠は?」

「武器が機関銃だけでは少し不足です。確かに剣よりも威力は高いかもしれません。ただ弾切れと至近距離からの攻撃に耐えられるかどうか」

「三人の武器はある程度値の張る武器だからな。……そうなるのも仕方ないか」

「でもさ、国を守る自衛隊が勝てない相手にどうやって戦うの?」


 唯が少し声を震わせながらそう聞いてきた。確かに怖いだろうな。元いた世界で銃といえば遠距離で戦える最強の武器と言ってもいい。それを持っていながら倒せなかったら。


「ん……」

「まあ、そこは俺がなんとかするさ」


 せめて唯の恐怖は拭わないとな。

 唯の頭を撫で自分の心も落ち着ける。数度深呼吸をして周囲を見た。


 見た感じでは普段と変わらない光景だ。ここら辺はまだ魔物の攻撃が少なかったのだろう。


 でも、事実、あいつらはそこらじゅうに蔓延っている。人肉を貪り女を苗床にしている。それ以外の敵だっている。

 なにも人の敵は魔物だけではないのだから。


「……そんな趣味があったんですね」


 不意に考え込んでいた俺の耳にそんな声が届く。菜沙の声であり唯は恥ずかしそうに俯いていた。


「なんか変なことしたか?」

「無意識だったんですか? 女性の匂いを思いっきり嗅ぐなんて」

「ああ、深呼吸のことか。……確かに唯はいい匂いだからな。心が落ち着くよ」


 減らず口を叩いておく。

 絶対に俺の考えを悟らせてはいけない。この中で一番強いのは俺だ。その俺が怖がっていることがバレたら三人とも動けなくなる。


 それなら不名誉であろうと変態の二つ名をつけられても構わない。


 だが菜沙は「そうですか」と言うばかりで何かを言うわけでもない。


 そんな時に俺の横腹へと衝撃が走った。視界に入っていなかった莉子と菜沙が抱きしめてきた、そう気づくのに少し時間がかかった。


「……これならよりリラックスできますよね」

「変態なお兄さんも好きだよ」


 本当に二人はいい子だった。

 俺が今まで出会ってきた友人とは比べ物にならないほどに。


「……お兄さん、どうしたんですか?」

「うわー、お兄ちゃんが泣くなんて初めて見たよ!」

「……今は別に泣いていいですよ」

「……ばーか、泣かねえよ」


 泣いているのに泣かないとは意味がわからないな。それでも三人は絶対に、俺が絶対に守りきりたい。そう思った。


 そんなことで三人におちょくられながら俺たちはデパートの近くまで歩いた。






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