1章10話 選択肢

 とりあえず未来のことよりも今のことだ。未来なんてものはどうやったって希望的観測にしかならない。それなら今必要なことをしよう。


 オークに対して手こずることはなくなった。となれば次はオークナイトでさえも手こずらないようになればいい。


 だがオークナイトの数は圧倒的に少ない。当たり前のことだな。そんなに強キャラばかりいればオークなんて生きていけないだろうし。


 オークを回収してから三人を見てみた。特に変化はない。汗ひとつかいていないようだ。最初の生きるか死ぬかの戦いの時が懐かしいよ。


「お疲れ様」

「ありがとうございます」


 予想に反して最初に俺の声に反応したのは菜沙だった。唯がいの一番に来ると思ったんだけどな。


 菜沙が頭を差し出してくるので撫でておく。男女問わずに頭を撫でられる行為は心地よいようだ。ほどほどにしないと唯と莉子の反感を買うので十秒程度で手を離す。


「この後どうしますか?」

「そうなんだよな。……選択肢は二つ、森に入るか、オークナイトと戦うか」

「うーん、前者は難しそうだね。森の中ならどんな場所かもわからないし敵のレベルもわからない。……お兄ちゃんのスキルならわかるのかな?」


 唯の言う通りだ。それがわかっていても選択肢は選択肢だからな。実質、解答は一つしかないんだけど。


 そして確かにマップを使えばわかるかもしれないな。でも今回は安全策を取っておきたい。


「それならオークナイトと戦うことにするよ。三人ともそれでいいかな?」

「もちろん」


 三人の声が揃った。その信用はどこから来るのかわからないが、まあくすぐったい程度で嫌なものではない。


 オークナイトが密集している場所、できれば学校以外で、だ。となれば色々と限られてくる。


 さすがにオークナイトが密集している場所に行くわけにもいかないし、オークナイトが少なければ戦闘経験を積めない。


 ある程度高レベルだがオークとオークナイトしかいない場所は一つしかなかった。そのうち行こうと思っていたデパートである。


 オークのレベルは3〜25と幅が大きいし、オークナイトは計七体でレベルも4〜12となっている。


 何人かの人がいるみたいだが、助けなくてもいいだろう。そんなことをしている余裕もない。


 今回の目標は俺たちのレベルを上げるor戦闘技術の向上だ。そこに人助けという意味はないしどんなことを言われても対処できないからな。


 マップではステータスを測ることができないから、俺自身が単独で近づく必要がある。鑑定10の効果範囲は大体二十五メートルだ。近すぎず遠すぎずの効果範囲だから、隠れていれば簡単に相手のステータスを見れるだろう。


 陽真の時にわかったが相手を見つめて三秒で効果が発揮される。少し長いからマップと併用して何とかするしかないか。もしくは気配を消すスキルを得るのも手だ。


 いや、今回は戦う理由として技術を得ることも入っている。隠密技術は必要だ。それにスキルの獲得条件も気になる。


 スキルの獲得条件とジョブの獲得条件がわかるものがないだろうか。そう思ってスキルを見てみる。


 あった、内容も就ける職業とスキルの獲得条件がわかるスキルと書かれている。


『神殿』

 そんなスキル名だが少し大袈裟すぎないか。そう思ったがすぐにそれを否定することになる。


 簡単に転職も可能になるようだ。パーティメンバーなら誰でも。ちなみにパーティメンバーは組もうと思えば簡単に組める。実際、唯たちとも組んでいる。三人とも十に届いていないため確認もできないが、このスキルは必須だろう。のちのち使うのは目に見えている。


 そして最後の機能として『転生』が行えるようだ。説明を見る限りでは異世界の人たちがレベルを最高値まで上げれば、神職の者から転生を行えるみたいだ。要はレベルを一に戻すらしい。ジョブとステータスを引き継いで行えるみたいだが、その分レベルも上がりづらい。結構ありがたいスキルだな。


 神殿にレベルはないようでポイントを多数消費する。まあ、当然のことか。ポイント消費でジョブを変える、そんなことをポイント消費なしで、ましてやジョブとスキルの獲得条件もわかるのだから。


 これでポイントを多めに使うスキルの獲得条件が不可能なものならキレそうだが。そうでないことを祈る。


 神殿を獲得して気配系統のジョブとスキルを閲覧した。主に手に入りそうで必要なものはこの二つだ。


 ジョブ『暗殺者』とスキル『気配遮断』。

 名前の通りであるがジョブの方は少しだけ怖いな。カッコイイとも思うがこのスキルを使われたら対処ができないかもしれないし。


 暗殺者の獲得条件は至ってシンプルだった。なにかの暗殺を完了させる。これは遠距離から銃弾や雷などでゴブリンを殺せばいいだろう。ただし条件として黒猫人のみが就けるジョブらしい。まあ、俺には関係がないみたいだが。


 何故かはわからないが俺は種族特有のジョブに就けるようだ。試したのではなく神殿でそう書かれていた。というよりも神殿の力で就けるようになったのかもしれないが。


 気配遮断は少し難しい。相手に悟られずに半径一メートル以内に一分間いること。できないかな、と思ったがそんなことはなかった。


 文面では悟られずにと書いてある。その手段は書かれていないのだから、なんでもありなのだ。


 例えば透明になれる道具を手に入れて、影から潜伏していればいいのだ。そしてこれから行く場所はデパート、隠れる場所も音が聞こえても誤魔化す手はいくらでもある。


 最初はオークで試せばいい。割と簡単に手に入るかもしれないな。


 そう思って俺は浮き足立ちながら三人を連れてデパートへと向かった。そんな最中だった。彼らを見かけたのは。







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