1章4話 計画・後編
「うっわ、マジか」
見つかりはしたが生徒玄関を出てすぐの門の近くだ。それも三体いる。
外に出ればすぐにオークたちに見つかるだろう。
二体は俺が倒すとして、一体を唯にでいいかな。百メートルちょい離れた家屋の中に、ゴブリンナイトがいるみたいだが、この距離なら気はしないだろう。
それに一体ならまだ勝ち目はあるしな。
余裕ぶりはしないが即死はないだろう。最悪、三人を逃がすための時間稼ぎをすればいいだろうし。
「なんかあったの?」
「入口付近にオークが三体いるからどうしようかなって」
唯の質問に簡単に返した。
そこまで悩むことでもないか。俺自体弱いわけではないし。
そう思い三人を引き連れて入口まで歩いた。途中で昨日にはなかった男子の死体などがあり、少し気分が悪くなってしまったがこの世界では当たり前なのだろう。
俺は、俺たちはこうはならないと心に決めグングニールの持つ手に力を込める。
「……気を負いすぎたらダメですよ」
「菜沙……そうだよな。悪い、ここまで酷いものは見ていなかったから」
明日は我が身、そしてそこに転がる四肢だけがなくなった男子生徒の遺体をそのままにした。
中学の生徒玄関はガラス張りの扉が付いてある。つまりはその先にいるオークの姿も捉えられるわけだ。
どこから捕らえてきたであろう、オークの体躯よりも大幅に小さな女子生徒。
何度も犯され続けていたのか、体からは白い液体を流し目には大粒の涙の跡が残っている。
その子が一人で三体に襲われているのだ。ましてやすぐ近くに恋人であろうか、同学年ほどの男子の遺体も転がる。
頭だけが破裂し残ったものは体だけ。
そんな時にマップの生体反応が消えた。今、目の前で、女子生徒が犯され殺されてしまったのだ。
オークのそれは女子生徒に入れるには大きすぎる。それでいて一箇所だけにとどまらなかった。
ショック死、それが女子生徒の死因だろう。
そして死んでいることを知ってか知らずか、まだ犯し続けるオーク。
扉を開ければすぐにそいつらがいる。なのにまだそのようなことを続けているのだ。
我慢の限界だった。
「……ごめん、唯。雷舞!」
唯からは何も咎める言葉は返ってこない。
もしそうじゃなくても俺はこの手を止めることはないだろう。
雷雲がオークたちを四方から囲む。
一瞬の稲妻が三体を痺れさせ行動を阻害させる。
「
俺が向かう方向以外の三方向に火の壁を発生させる。これで逃げられないはずだ。
「消えろ!」
グングニールを前に伸ばし一体のオークの胸を貫いた。残り二体はその近くで驚き固まっているが、仲間の一体が死んで行動を始めた。
レベルは1のためオークは武器持ちではない。二体のオークは俺に対して素手で挑もうとしてきているのだ。
今の攻撃を見て素手で挑むなんて知能があるならやらないだろう。それに痺れて動きが余計遅いというのに。
本当に愚鈍で馬鹿で助かった。
この怒りを簡単に鎮められるのだから。
グングニールごと体を回転することによって足と腹の間を切り離す。次いでバックステップで背後に下がりオークが倒れるのを待つ。
ズシンとその巨体が倒れたのを見計らって近くまで飛んだ。そのまま首が落ちた。
俺の手じゃない、視線をあげた。
「……菜沙」
「すいません。……知っている……二人だったので」
嘘ではないのだろう。
目尻には大きな二つの水を溜め今にもそれは地へと向かいそうだ。
「なら、構わないよ」
こんなことで怒る道理はないし、ましてや俺も唯との話を反故にしたからな。人のことを言えたもんじゃない。
その分、オークの遺体を回収しても何も言われないし。まあ、三人がそういう系統のスキルを持っていないのも原因なのだが。
マップを確認した。
オークナイトが移動した形跡はない。かなり大きな音を出したと思ったのだけど。
それともオークに殺されたと思っているのか。それならそれでありがたいんだけどな。
行動をしやすい方がいい。それは鉄則だろうし、この後も変わることはない。
だから面倒ごとは避ける。そんなのにいちいち関わっていたら体がもたない。
「高校校舎の近くにオーク、か」
できれば行きたくないが唯の機嫌もとりたいしな。……どうしようか。
中に入らなければいいかな。あいつらの位置を確認したけど、高校の茶道室から出ていないようだし。
「高校校舎の裏口の近くにオークが二体いる。一応、莉子と唯の二人でやってみてくれ」
「二人で?」
「そうだ。後々連携は必要になってくるだろうし、近距離と遠距離の連携は意外にとりづらいからな」
菜沙と唯なら、まだ楽にできるだろう。前進、後退をしっかりとしていればな。
だけど、意外に距離の関係が変わるととりづらくなる。ゲーム内での話だが一歩間違えればフレンドリーファイアまっしぐらだ。
「……ならわかったよ」
「まあ、お兄さんが言ったんだからそうなんだろうね」
唯は渋々、莉子は変な信頼からそんな言葉を返してきた。まあ、今度個別に褒めれば機嫌も直るだろう。
そう思って俺は忌々しい記憶の残る高校へと向かった。
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