1章3話 計画・中編

 莉子の銃弾は消耗品なので、主に二人がメインとなっている。


「来た! 二体だから俺が相手を麻痺させて、その後に首を取れ!」


 唯は俺が言えばすぐに行動に移す。雷魔法の初級である雷舞を、殺さない程度の威力にするために地面に放つ。


 直線上に進ませるためにみんなへの害はない。目の前のオークのみを痺れさせて、その後は首切りで終わる。


 特に人形を殺すことに対しての忌避感はないようだ。いや、相手がオークだからか。


 オークは女の敵らしいからな。俺も唯がそんなことになれば許せないと思うし。


「良くやった、唯」


 唯は「でしょお」と頬をだらしなく垂らし頭を俺に向けてくる。何も言われずとも片手を伸ばし唯の頭を撫でた。


 軽く髪に指を通しツインテールが崩れない程度に楽しむ。それが俺と唯のスキンシップだ。


「……短剣をください。次は私一人でやります」

「莉子が一人でか?」


 なんの気まぐれかそんなことを言う莉子。よくわからないが、戦うというならやらせてみようか。


 レベルも4と三人の中では一番強いしな。


 異次元流通から鋼の短剣を四本取り寄せる。一応、投げ専用に使えるようにと三本多く買った。


 あまり安物を女性に贈りたくない。

 それは男としての矜持やプライドでしかないのだが。


 そんな理由から高めのナイフホルダーも買ったため、目の前に二つのダンボールが落下する。


 中を開くと確かにその鋼の短剣が三本、一つのダンボールに鞘にしまわれた状態で入っていた。


 ナイフホルダーはベルト式なので上手く収納が可能なはずだ。


「莉子、来い」


 手招きをして莉子を近づけ腰にそれを巻き付ける。痩せているからか、スカートの上からでは落ちてきてしまいそうな気がした。


 だが、そういうわけでもなさそうだ。さすが非現実的な世界とでも言うべきか、莉子の腰にまるで吸盤が付いているかのように張り付くナイフホルダー。


「わあ」


 そんな声をあげながらジャンプをしている莉子の腰からそれが落ちる様子もない。


 ステータスの向上のおかげか、そのジャンプの高さもかなりのものだ。にも関わらず落ちる気配がないのだ。


 少し恐怖を覚えた。

 これを元の世界で売ればいくらになるのだろう、と。


 少なくとも金倉ブランドなんて名前は付くだろうな。それに少数生産しかできないだろうから、値段も高くなるだろう。


 いやいや、その前に作れる前提の話でしかなかったな。意外に付与の力を使えばできるのかもしれない。


「今度、やってみよう」

「えっ、なにが?」


 首をコキュっと曲げ、可愛らしく聞いてくる莉子。「何でもないよ」と返して頭を撫でた。


「とりあえず、図書室近くまで行くぞ。そこに一体のオークがいる」


 莉子の「了解」という言葉を聞いてから、図書室に向かった。


 一階にいるオークは少なくなっているので、鉢合わせすることがなかった。もし出てくれれば楽だったのだが。


 やっぱり外に出た方がいいのだろうか。でもどんな奴が現れるかわからない。


 着いた、図書室近くの階段に体を隠す。


「雷とかの援護は?」


 小さく莉子に聞いてみたが、「いらない」と言ってすぐにそこから飛び出した。


 ナイフの風を切る音が聞こえた。次いで聞こえる大きなオークの悲鳴。


 体を出してみんなで莉子の戦いを見てみた。

 一発目でオークの片腕に刺さったようだ。そして近くに詰めてから短剣で腹を切る。


 鮮血が舞った。そのままの流れで足を切り、腹を蹴って後に下がっている。

 もはやアクロバットという方が正しいような気がしてきた。


 血の流れる腹を蹴っているせいで、莉子の真っ白い上靴は赤く染まり、その戦い方を見ている限り戦闘よりも舞に近い。


 赤い靴を連想させて嫌な予感がしたが、それが当たることもなく首に横一文字の傷が入り、そこの出血からオークは死んだ。


 地面に足がついた瞬間に「ふぅ」と息を吐き、汗を拭っている莉子。スポーツ選手がやりそうなその姿を見て、少しだけ欲情してしまいそうだった。


「えっち」

「……言うな」


 菜沙にそう言われバレたかバレていないかよりも、表に出さないでほしいという気持ちになっていた。


「お兄さーん、倒しましたー」


 ぼふっと腹に感触があり、莉子に抱きつかれたことを理解する。ようやく戦うと言った真意を知って、ため息を吐きながら頭を撫でた。


 莉子は「もっと」と頭を腹に擦り付けてにまぁっと表情を崩した。


「……ズルい。……私も一人でやる、だから同じことをしてね!」


 唯もそんなことを言っているので、またオークを探さないといけないようだ。もう探しても周囲にはいないのだが。


 だからといって唯の機嫌を損ねたくないしな。……外に行くしかないのか。


「わかった。それなら外に行くことになるけど構わないか?」

「もちろんよ!」


 即答されたために少し体を反らした。そのせいで莉子も俺の体に乗っかる形になる。

 同時に小さな、それでいて柔らかい胸の感触が腹から感じる。


「最低」

「……すいません」


 菜沙に謝りながら俺は莉子を体から外して、外で倒しやすいであろうオークを探した。


 もう、一階にオークはいないのは俺のせいではないだろう。


____________________

 以下、作者からです。


 一度、3話として投稿した作品との間が飛んでいたので、少し書き直しをしたいと思います。


 次回は唯の戦いです。そして集団戦と……。お楽しみに。


 以上、作者からでした。

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