1章 全ては森の中

1章1話 朝日が昇る

 陽の赤が空に昇り始めていた。


 寝ていた俺の目元に陽の光が差し込んで、心地よく目を覚ました。


 昨日食べた丼物は美味かったな。


 そんなことを考えながら、隣で抱きついて寝ている唯を引き剥がす。


「うっん……お兄ちゃん……」


 なんかすごく息を荒くしているが、まあ変な夢ではないだろう。


「……えへへ、そこは触っちゃ駄目だよ」


 違うよな、夢の中の俺変なことしてないよな。


「……でもお兄ちゃんなら……いいよ」

「起きろ! 唯、起きろ! 夢の中の俺! 早まるんじゃない!」


 唯は妹だ、それも血が繋がっている。


 何か変なことをしたら俺は世間に顔向けできない。


「お兄ちゃん、キスして」

「はい、唯。そこまでだよ」


 パシンと唯の顔に紙の束が落ちた。


 唯は「うえっぷ」なんて女子の言わなさそうな声をあげ、その閉じていた瞳を開き始める。


 俺はどこから紙を手に入れたのか、という方が強かったのだが。


「ってか、起きてたのかよ」

「当たり前でしょ。……お兄ちゃんの寝顔を見たかったから」


 ゴツンと室内で音が響いた。


 無意識に動いていた手が唯の頭に直撃していただけだ。


「……言葉を考えろ」

「照れたお兄ちゃんもかっこいいよ」


 そんなことを言われても嬉しくない。


 はあ、なんでこんな子に育ってしまったのだろうか。


 でも唯が俺以外を好きになったら嫌だしな。


 やっぱりこのままで良かったのか。そんな自己解決で考えは終了する。


「それで話を変えますけど、今日は何をするんですか」

「あーどうしようか。まだ寝てる莉子は一応レベル4まで上がってるしな。……レベル上げとでも洒落込むか」


 昨日のうちに西園寺流星などの一悶着起こりそうな人はマップで把握済みだ。その人たちだけピンを打って、遭遇しないように心がけている。


 だから多分戦いに行っても出会わないだろう。


「……そうだね、少なくともレベル1だとあんまり戦えないだろうし」


 唯も菜沙も莉子だって俺みたいなチートがあるわけじゃない。


 だったら安心に経験値を稼ぐために必要なことはなにか。


 行動を阻害させられる魔法。拘束魔法とかないかな。もしくは、雷魔法とか。


 あった、両方ともあったのでポイントを使って二つともレベルを最高まで上げた。


「じゃあご飯作ります。昨日の様に鍋でご飯を炊きます。二十分くらいかかりますね」

「蒸らしはなしでいいよ。さすがにそこまでの時間はかけられないから」


 菜沙が働き始めた姿を見て、唯も行動を始めた。


 俺はまだ眠っている莉子の元へ向かう。


「起きろ」


 体を揺すりながら莉子にそう投げかけてみたがあまり効果はないようだ。


 少し「うぅん」と言っている姿が少しエロチックで愛らしく思える。昨日のことも尾を引いているからかもしれない。


 でも悲しきことかな、起こさないといけない。


「起きないと朝食なしだぞ」

「ご飯なし! ……あっ……お兄さん……ふぁあ」


 大欠伸をしながら虚ろな眼に俺を映している。目をこすりながらもう片方の手を上に上げ体を伸ばしている。


 昔と変わらずご飯のことになると目覚めがいいんだよな。


「あれ、ご飯はどこですか?」

「もう少し時間がかかるみたいだけど、起きてて損はないだろ」


 莉子は「えぇ」と頬を膨らませながら調理室に作られたトイレに向かう。


 MPのほとんどを寝る前に使ってしまったが、拠点の能力で調理室に水洗トイレを作っておいた。


 残った分もグングニールに刻印を打ったせいでゼロになって倒れた。


 そこまでを予想していたので布団の上でやっていたのだが、失敗しなくてよかった。刻印によるMPの消費もあまり大きくなかったし。


 それでだ、どうやって水とかを調達しているのかはわからない。というかそういう世界のご都合主義だとしか考えていない。


 楽に安心して過ごせるだけ、今はそれだけでいい。


 本当にここを拠点にして正解だった。


 料理も生活も簡単にできるし、準備室に置かれた毛布とかも使える。


 やはり拠点を抑えることは重要だったな。家にいたらすぐに死んでいたかもしれないし。


「なに考えてるの?」

「ああ、唯か。……ここを選んだのは正解だったなって」


「お兄ちゃんがここって決めたなら、その勘が外れるわけがないよ」


 その自信はどこから出てくるのだろうか。


 唯の顔を見る。普通に嬉しいな、褒められることは。


 あんな親からこんな天使が生まれてくるなんて。


「ご飯ができたみたいです」

「ご飯!」


 静かだったトイレから大きな声が聞こえる。


 多分、莉子はトイレで寝ていたな。


「莉子ちゃん、寝てたね」

「……そうみたいだな」


 俺と唯が隣同士で対面の二席に莉子と菜沙が座った。


 並んでいる料理はご飯と味噌汁、そして冷凍食品が数点だ。


 箸で味噌汁をかき混ぜる。具は乾燥わかめだけだろう。好きだから嬉しいのだけど。


「美味しい」

「それなら良かったです」


 無い胸を張って菜沙は笑顔を作った。


 不意に頭に衝撃が走る。


「無くて悪かったですね」


 これが俗に言う女の勘というやつか。


 それとも視線で胸がないことを察したか。


 どちらにせよ、中学生の割には胸がでかいからって嬉しそうにする莉子と、菜沙以上に小さな唯が視界に入りちょっと困惑する。


「そこまで気にすることか?」


 普通に胸よりも顔や性格の方が大事な気がするのだが。


 女子にとっては胸もステータスのうちなのかもしれない。次から気をつけよう。


「じゃあ胸は気にしないんですか?」

「別に菜沙の胸が小さくとも俺は気にしないよ」


 また叩かれた。


 言われるのは嫌なようだ。


 そんな団欒を楽しみながら朝食を終える。


 そうして俺たちは自分たちの武器を手に取った。




____________________

 以下、作者からです。


 次話から戦闘シーンが増えていきます。

 もう少しレベル上げとか拠点でのスローライフ?的なものを増やしていきたいと、作者は心の中で思っていたりいなかったりです。


 楽しんでもらえると嬉しいです。


 6月20日、グングニールに刻印を打ったことを書き足しました。


 以上、作者からでした。

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