序章13話 再会と決意
「……俺と莉子が連携すれば、安定して倒せそうだな」
「当たり前です。相性がいいので」
「……まあ、それでいいよ」
ここまで来れば流石にわかる。
莉子が俺に対して好意を抱いてくれていることには。でも前みたいなことになるなら、そんな関係はいらない。
俺如きがやるべきではないんだろうけど、もう少しだけ真意を測らせてもらう。
「ところで莉子、レベルの方はどうなった?」
「……4になってる。ステータス平均は二百ちょっと。スキル構成は銃術と狙撃みたい」
銃専科か。その内弾切れがなくなるスキルが手に入るかもしれないが、その間は俺が支給するか。
いや、オークの遺体を貰う代わりに弾を支給すればいいか。……どちらにせよ、持ちつ持たれつの関係か。
「もっとオークを倒せば、新しい銃を渡す」
「……それなら狙撃銃が欲しい」
流石にパイソンとかの拳銃の名前は知らないみたいだが、ゲーム知識はまだあるようだ。
ちょっと厨二病の気があるのか。
いや違う、守ってもらうことを前提にしてるんだ。……構わないけど近距離戦も教えないといけないか。
「いいけど短剣の扱いくらいは覚えろよ」
「うん、もしものためにだね」
よくわかってるじゃないか。さすがはゲーム内での俺の右腕。ちなみに左腕は唯だ。
俺が何も言わずともして欲しいことがわかっている。
その後、数分歩いてようやく調理室に着いた。行く時は気づかなかったが淡い光を放っているようだ。
ゲームでいうところのセーブゾーンか。
横開きの扉を開けて拠点の能力で莉子のデータを追加した。これで入れるはずだ。
「唯!」
「あっ莉子ちゃん! 心配したんだからね! 上階から発砲音が聞こえたし」
「あっそれ私」
莉子が唯と抱きつきながら目の前にパイソンを出したため、唯と菜沙が「ヒャッ」と可愛らしい悲鳴をあげた。
「あっ、ごめんね」
「本当に……びっくりした」
そんなことを言っている唯と莉子を横目に、菜沙の元へ向かう。
「菜沙ちゃんも大丈夫か?」
「ちょっと驚いただけです」
フイっと顔を背ける菜沙。
本当は怖かったのか少し体が震えている。
「はいはい、大丈夫大丈夫」
「……腹立ちます……けど、ありがとうございます」
素直じゃない奴だ。
俺も大して変わらないから人のこと言えないが。
「……そういえば『莉子を連れて戻ってくる』って言ってたけど、なんで莉子がいるのがわかったの?」
「あー、スキルで周囲の確認をしていたら、上川莉子って名前があったんだ。それもオークに追われている」
言ってから気づいた。
これで気づかれはしないよな、と。
そのスキルを使って生存者を、とか言われそうだ。唯と莉子は長い付き合いで多分、わかるとは思うが。
「……一つだけ知りたいことがあります」
菜沙は俺の目をしっかりと見つめ、そう聞いてきた。
「西園寺流星という人は死んでいますか?」
生きていますかじゃなくて、死んでいますか。
それが俺の頭で反芻される。
死んでいますか、ということは生きていて欲しくないとも取れる言い方をしている。
つまりは助けてあげてほしい訳ではない。
マップで西園寺流星と検索をかけてみる。
いた、職員室だ。十人ほどの女子と七人の教師、そして小夜先生もいるみたいだ。
「……生きてはいるみたいだ」
「そう……ですか……」
目に見えて菜沙の表情が暗くなった。
「……死ねばよかったのに」
そんな小さな声が調理室に響き渡った。
「……まあ、事情は知らないが今のところは合流する気はないからな。仲の良くない教師もいるみたいだし」
良くも悪くもこの学校の教師は、この学校で資格を得てここで働いている。その中で他校へ行く奴もいれば、安定を求めてここにいる奴も少なくない。
そして昔からこの学校では教師の暴挙が多発していた。それに影響されていた生徒であり、今は教師となった者は同じことを繰り返す。
この学校の教師は屑ばっかりだ。
最初に死んだ若い男の教師だってそうだ。元々、成績を餌に女子生徒を食う男教師は昔からいたらしい。少し調べればボロボロでた。
あいつも唯に手を出そうとしなければ、教師としていられたのにな。
菜沙は何も言わない。
「はい、ここまで。暗い雰囲気は好きじゃないよ」
「唯の言う通りよ。今は生き残ることを考えましょう」
俺は菜沙の顔を見つめる。
「だってよ」
笑いながらそう言うと菜沙も笑い返してくれた。
「……そうですよね。考えていても仕方ないですよね」
「そうだ、今は四人で生き残る算段を立てよう。オークを倒しさえすれば、食料も問題ないからな」
指をパチンと叩き見えないように異次元流通を操作した。二個のダンボールが落ちる。
落ちてきたダンボールを開き、その中身を出した。パック詰めされたマグロやサーモンだ。
なぜこれにしたかと言うと普通に食べたかったから。
そしてこの作戦は成功したのか、俺の目の前で驚き固まる三人。
「こんな風にな、なにかを売ってものを買える。それが俺のスキルだ」
「お兄ちゃん、すごい」
唯から拍手される。次第に影響を受けたのかパチパチと三人が拍手をして、丁度三十秒後、拍手はやんだ。
「まあ、こんなものだ。だけど寄生虫や俺の嫌いな奴を生かしてやりたいとは思わない」
「それはわかってます」
菜沙が先程よりも大きな声で返事をした。
「三人とも、戦って強くなって生き残ってやろう。オークなんか簡単に殺せるくらいに」
そしてあいつを、幼馴染である陽真を殺すために。
そんな俺の心の声は表には出ず、ずっと心の奥底へと沈んでいくのであった。
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以下、作者からです。
これにて序章が終了です。次回からは少し世界についてのことも触れられていきます。
今回発覚した洋平と陽真の関係、そして菜沙と流星の関係。
どうぞ、お楽しみに。
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