序章11話 莉子の暴挙

 俺はその後すぐに用具入れの扉を開いた。


「ひぇ」


 そんな可愛らしい悲鳴をあげる莉子の頭をそっと撫でる。


「全部倒してきたから安心しろ」

「全部……?」


 莉子が泣きそうな顔で首を傾げた。


「ああ、こんな感じでな」


 オークの飛ばした頭だけを取り出し、莉子に見せつける。「ヒィ」と悲鳴をあげたが首だけなのを見て、明らかに安心していた。


「お兄さん……ありがとう」

「気にしなくていい。唯の、俺の大切な友達だからな」


 少し友達と聞いた時に悲しそうな顔を莉子はした。何か変なことを言っただろうか。


「ああ、莉子は俺の義理の妹みたいなものだもんな」

「そうじゃないんだけどね」


 莉子は頬を掻きながらそう返してきた。


「それで何かあったのかい?」


 莉子は俯いてからぽつりぽつりと語り出した。


「怖かったんですよぉ。……授業中に許可を貰ってトイレに行って、出たらあいつらがいたんですから」


 泣きそうになりながら堪える莉子の姿を見て、本当はレベル上げがメインだとは口が裂けても言えなかった。


 莉子のことも信用はしていない。


 信用した時に莉子に裏切られたら、俺の心を保てなくなりそうだから。


 幼馴染でさえ、あんなことをしてきたのだから。


「付いてきな、唯がいる場所に連れていくから」

「お兄さんは? ……お兄さんはそこにいてくれるんですか……?」


 とても小さな声でそう聞いてくる莉子。


 ショートカットで元気っ子なイメージを持つのに、泣きそうな顔。ギャップが凄いし、可愛い顔をしているからこそ愛らしさを感じる。


 後輩に手を出すことはしないから、恋人にしたいとは思わないが。


「当たり前だ。唯のいる場所に俺はいる。莉子も俺といたいなら、いてくれて構わない。少し辛い思いをするかもしれないが」

「大丈夫です。お兄さんが守ってくれると信じしていますから」


 その自信はどこから来るのだろうか。


 まあ確かに、唯のために莉子を殺させはしないが。もちろん、菜沙のこともだ。


 マップを見てみる。


 一体だけのはぐれオークはいないだろうか。


 いやその前に汗をかいたし、莉子をこのままにしていたらオークが来るかもしれない。


 拠点の能力で唯たちは大丈夫だろうが。


 ポイントをタッチしてなにか使えそうなものを探す。いくつかピックアップして、異次元流通で説明を見てみる。


 あった、一番使えそうなスキルだ。


「莉子、ちょっと密着してくれ」


 莉子は「はい」と恥ずかしがりながら抱きついてきた。確かに密着してくれとは言ったがそう来るとは。


洗浄クリーン


 俺と莉子を薄い霧が包む。数秒経ち霧散してから俺を襲ったのは心地よさだった。


 汗の感じはない。一応、洗わずとも体を綺麗にするスキルらしいからな。


 生活魔法、確かに使える。ライトとかの明かりを手に入れたしな。


「わあ、気持ちいいですぅ」


 若干、莉子の肌が綺麗になった気がするが、まあ気のせいだろう。うん、気のせいだ。


 オークの高レベルの方を売る。少し高い、一体一万五千円だ。計四体なので六万円。


 一万円足して一つの武器を買う。


 一個のダンボールが抱きついてくる莉子の隣に落ちる。「きゃっ」と驚き力を強めた莉子を見て頭を撫でておく。


 離してもらいダンボールの中を開けた。


「これを使え」


 買ったものはハンドガンだ。


 弾は計十二発、レベルを少しあげるだけなのでなんとかなるだろう。


「えっ……拳銃……ですか?」

「この世界では戦わないと死ぬんだ。身を守る術は得てほしいんだ。莉子は優しいから近距離だと情けをかけてしまいそうで、だから遠距離のハンドガンにした」


 リボルバー型の弾詰まり(ジャム)の少ないコルトパイソンだ。


 初心者用と聞くので莉子でも使えるはずだ。


 中に弾は入っている。つまりは十八発か。


「とりあえず構えてみろ」


 手渡し莉子は目の前にパイソンを構えた。


 駄目だ、足が震えている。これじゃあ安定して撃てない。


「莉子、死にたいのか?」

「……でも、お兄さん……拳銃って人を殺すんですよ……」

「逆に人を生かしもするだろう?」


 扱い方を間違えれば人を殺すが、その逆も然りだ。だから銃を許す国だって多くある。


 人を殺さないと救えない命もある。


 その救えない命が自分かもしれないんだ。


「殺さないと生き残れない。生き残りたいなら殺すしかない。そうじゃないとこんな世界を、日々を過ごすなんて無理だ」


 マップを見る。


 一体のオークが近付いてきた。


「今からオークを呼んでくる」


 そう言ってコンピュータ室を出た。


 後ろから莉子の悲鳴じみた声が聞こえるが、気にしてはいられない。


 もし俺が死んだら自分も死ぬつもりか。


 そうではないだろう、なら生きる術を得ないといけない。


「ブアァァァ」


 オークが俺を認識した。


 餌だと思っているが追いかけてきてくれているのだから、まだ安心していい。遠すぎず近すぎずを保ちながら中へ入る。


「キャアアア」


 莉子が俺を見て悲鳴をあげたが、まだ撃ちはしていない。


 もう来る、そう感じて莉子の後ろへ下がった。


 来た、下卑た笑みを浮かべよだれを垂らすオーク。


 瞬間、発砲音が聞こえた。


 でも狙いは外れている。足に当たり少し機動力を削いだだけ。


「ブアァァァ!」


 怒りから痛いであろう足を引きずり、莉子へ向かうオーク。


 パァン、そんな音ともに倒れ込むオーク。


 次は頭に当たり息すらしていない。


 マップで確認したが生きてはいないのは確認済みだ。


「ァァァァ!」


 悲鳴をあげながら銃口を向ける莉子。


「やめろ!」


 天井を一つの弾丸が貫いた。


「莉子! 敵は死んだ! 無駄遣いはするな!」


 オークを回収して莉子を抱きしめる。


「もう大丈夫だ。……よく頑張ったな」


 どの口がそんなことを言っているのだろう、と思いはしたが口には出さない。


 次第に胸に冷たい感覚が襲ってくる。


 涙を流しているのだとすぐにわかった。


 頭を撫で莉子の耳元で囁く。


「大丈夫、もう大丈夫だよ」


 小さな莉子の声は次第に消え、静寂が襲う。

 不意に声が聞こえた。


「……これで……お兄さんの近くにいれますか?」

「いれるさ」


 莉子は「良かった」と言って俺の顔を見る。


 一瞬で顔の距離が近くなった。


 何をするか気づいた時にはもう遅かった。


 俺の唇に柔らかい感触だけが伝わった。


____________________

 以下、作者からです。


 書き直しを後でするかもしれません。

 ちょっと説明が不足している部分がありそうなので。


 それにしても、こういうシチュエーションはとても胸がときめきます。


 以上、作者からでした。

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