序章9話 ジョブ
「お兄ちゃん、目が覚めたようだね」
薄らと開いた目に映ったのは見慣れた妹の顔だった。時々やってもらっていた膝枕、今俺はそれをやられているようだ。
腕を伸ばして滑らかな唯の髪を手で梳かす。そのせいで片方のツインテールを止めるヘアゴムが取れた。長い髪が解放され俺の顔にサラリと被さる。
「ありがとうな」
あたりを見渡すと窓の外は夕暮れ近くなっており、自身がいる場所は調理準備室であることを確認した。
調理準備室には布団などもある。これで今夜は大丈夫だろう。
「ここまで考えて、調理室に行くことを決めたの?」
「いや、鍵がかかっていなかったのは運が良かっただけ」
俺はにこやかに笑う唯に笑い返した。
「そういえば菜沙ちゃんは?」
「菜沙ならステータスの調整中だって」
俺は唯の言葉に「そうか」と返して準備室を出た。窓際の準備室の反対側、つまりは一番端で椅子に座って考え込む菜沙がいた。
静かに近付いて「捗っているか」と声をかけると、はわわとなり始める菜沙。
「どっ、どうかしたんですか」
「いや、どんなステータスにしたのかなって。そらに俺となにか違うかもしれないし」
違うのは確定だろう。少なくとも俺以外、ポイントというものはないのだろうから。
それならステータスの調整とはなんなのだろうか。とても疑問に思う。
「ステータスならこんな感じです」
目の前に小さな画面が現れ俺の視覚にもそれははっきりと見えた。
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ミナミナズナ
種族レベル1
ジョブ
HP 250
MP 260
攻撃 155
知力 215
防御 165
精神 225
俊敏 145
魅力 350
幸運 70
スキル 双剣術1
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「さすがにスキルは持っていないようでした。双剣術はこの武器のおかげですかね」
「そっか。……じゃあ俺も見せないとな」
見よう見まねでステータスをタップしたりしていじくってみる。成功した、ダブルタップでなんとかなった。
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カナクラヨウヘイ
種族レベル 10
ジョブ
HP 450
MP 450
攻撃 163
知力 163
防御 163
精神 163
俊敏 163
魅力 500
幸運 500
スキル 身体強化7、経験値増加10、ポイント増加10、異次元流通4、異次元倉庫4、槍術1、マップ10、拠点10
魔法 刻印10、火5、水5
ポイント 984
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俺のステータスを見て菜沙は驚いた。当然だ、菜沙よりも低い能力が多々あるのだから。
「これって……」
菜沙は一回息を吸ってから、俺の顔を凝視して口を開いた。
「なんでこんなにスキルが多いんですか。それとポイントについても」
俺はそっちか、と心の中で思いながら頭を回した。変な答え方をすれば信用されなくなるし、素直に言ってもいいものかと。
「ステータスが菜沙ちゃんよりも低いだろ。それの代わりみたいなものだ」
菜沙は黙ったが納得はしていないようだ。仕方ないか。
「俺が菜沙ちゃんを心の底から信用できるようになったら、教えるよ」
遠回しに信用はしていない、と菜沙に伝えた。武器を渡したのは気休めでしかない。
本当に信用しているのは唯だけなのだから。
「……わかりました。頑張りますね」
ニッコリと微笑む菜沙の頭を撫でる。
「守るって言葉は嘘じゃない。ただ事情があって唯以外、信用してないからさ」
「仕方ないですよ。……私も男性を信用できませんし」
菜沙は少し曇った笑顔を浮かべたが、俺の撫でる手に身を委ね普通の笑みに戻った。
気にはなるが、それを言いたくはないのだろう。それなら聞かない方が吉だ。
「もしかしたら似たもの同士なのかもな」
俺は笑いながら、そう菜沙に言った。
「そうですね、洋平先輩」
「ああ、菜沙」
少しだけ、菜沙は頬を赤らめた。
「今だけは、このままでお願いします」
俺は唯が異変に気付くまでの数分間、菜沙を撫で続けた。唯もして欲しそうに俺を見てたが、今回はなしだ。
「そういえば唯のステータスはどんな感じなんだ」
ふと疑問に思った俺は唯にそう聞いた。
特にいじったわけでもなく、菜沙からステータスの表示の仕方を聞いてそれを出現させた。
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カナクラユイ
種族レベル1
ジョブ
HP 350
MP 150
攻撃 185
知力 155
防御 125
精神 125
俊敏 225
魅力 370
幸運 100
スキル 結界1、剣術1
魔法 回復1
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唯でさえ、初期の俺のステータスよりも高かった。それにスキル欄もこの先必要になりそうなもの。
「……変かな」
唯は俺の顔を見てそう聞いた。機嫌でも探ってるのだろうか。
「いや、いいと思う。俊敏が高いところを見れば伝達としても動けるし、結界とかで支援もできるな」
菜沙も俺の言葉にうんうんと頷く。
それを見て安心したのか、唯は深呼吸していた。
「そういえばご飯作らないとね」
唯がそんな言葉を漏らした。
そのせいで俺と菜沙のお腹がなる。本当に似たもの同士みたいだ。
「唯、冷蔵庫の中に料理部の何かがあるはずだ。電気が通っていなかったとしてもそう時間はかかっていない。好きに作れ」
念の為にカセットコンロをテーブルの下から取り出し、倉庫からガスを三本置いた。
先にコンビニに行って正解だった。
唯は調理室に付いているガスコンロの火がつくかを確認してから、「大丈夫みたい」とだけ答えた。
そのため、一応そのセットは倉庫に入れた。変な奴が来て盗まれないように。
いや拠点の能力でそういう輩がこの中に入ることすらできないのだけど。
水もまだ出るようだ。明日になればわからなくなるが、魔法でなんとかなるだろう。あまり深く考えすぎると判断を鈍らせる。
「それじゃあ私も手伝います」
「よろしくお願いね」
菜沙が唯に手を貸してフライパンで料理を作り出した。主に肉を焼いている。後は少ない野菜か。
野菜等も倉庫の中にはあるから、今のところは安心だ。この時間で異次元倉庫のレベルを10にしておいた。
ジョブの隣をタップした。
十数個の聞いたことのあるジョブの名前が羅列する。
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見習い槍士
攻撃と俊敏、槍装備の時に補正がかかる。
見習い魔法使い
魔力と精神に大きく補正がかかる。攻撃と俊敏のステータス上昇量が少なくなる。
見習い魔法剣士
全てのステータスに若干の補正がかかる。
見習い付与師
魔法を武器に付与してステータスを上昇させる。全てのステータスに若干の補正がかかる。
勇者
固有ジョブ。もしその時間内に誰かを助けるために戦っていれば、種族レベルを50以上になった時に、ジョブ『英雄』を獲得する。
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まだ有るが使えそうなものはこの程度だ。
俺は迷わず見習い付与師に決定した。
勇者とか面倒くさそうなものにはなりたくない。なるとしても30を超えた時に獲得できる、セカンドジョブに入れればいいだろう。
俺の場合、ポイント消費で入れ替えられるみたいだしな。
見習い付与師にしたからか、スキル付与を獲得したので10まで上げておく。
結果、俺のステータスはこのようになった。
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カナクラヨウヘイ
種族レベル 10
ジョブ 1.見習い付与師
HP 1000
MP 1000
攻撃 226
知力 226
防御 226
精神 226
俊敏 226
魅力 500
幸運 500
スキル 身体強化7、経験値増加10、ポイント増加10、異次元流通4、異次元倉庫10、槍術1、マップ10、拠点10、付与10
魔法 刻印10、火5、水5
ポイント 885
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若干の補正のはずなのに、かなりのステータス上昇に繋がってしまった。なぜだろうか。
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