序章4話 初の窃盗

俺が向かっている妹の通う中学は、中高一貫校だ。だからかもしれないが、ありがたいことにその下にはコンビニがある。学生向けだろうな、普段なら使おうとはしない場所だったが……今は最初に行くべき場所だ。


そこでいくつかの用意をしなければいけないだろうしな。家を出たばかりだし着の身着のままだったか何も無い。準備をせずに乗り込むって言うのは馬鹿がすることだ。……いや、俺も大概、馬鹿だったな。


見た感じ学校付近にオークはいるが、校内には入り込めていないようだ。これに関しては高い金を出して入れてもらえた私立学校ってだけはある。何人もの変質者を阻んだ高く厚い門のせいで入れないんだろうし。


学校前の長い坂の中心にオークがいるのを見ているし、学校の門は閉まっている。それでも入り切られていないという確証はないがそうだと信じたい。準備もないままに突入して、妹が死んでいたはシャレにならないからな。出たくない外へ来たんだ、そんな阿呆な結末は絶対に許せない。


予定通りコンビニに着いた。まだ電気は通っているようで、コンビニの自動ドアは勝手に開くようだ。


店員はいない、逃げたんだろう。オークとかに荒らされた形跡もないから、自由にできそうだ。恐らくは無人になって最初のお客様が俺ってところだろうか。


学校に着いたら篭城戦だ。妹を強くしてから外へ出る。


オーク相手なら俺がいれば安心だろうし。


そのためのお金と食料だ。食料品は倉庫に入れればいいだろうし、お金は後々使う。あって困らないものはバンバン奪っておこう。盗みは初だが……こんな緊急事態に金の心配をする人はいない。警戒は怠ってはいけないが盗まないという手はないな。


とりあえず日持ちしそうなものを先に入れておく。後に入れた日持ちのしなさそうなものを先に食べるようにしないとな。倉庫の中がどんな場所か分からない分だけ、そこら辺はしっかりと組み分けしておかないと。


調味料等も一応入れておいた。棚がガランとしている所を見ると、強盗が入ったようにしか思えないな。言い得て妙か。今の俺は間違いなく盗賊のお頭といったところだ。少しだけ厨二病を疼かせるような言葉、悪くねぇ。


お金に関しては……割とレジの中に入っていた。十五万ほどか、でも奥の金庫とかにはもっとあるんだろうな。


静かに受付の中に入ってみる。


奥の扉の鍵は開いている。中に人がいないようだから取っても大丈夫そうだ。


うん、電気がついていない。当たり前か。


電気をつけてみるが人っ子一人いやしない。いたらいたで怖いわけだが。


金庫があった、中身だけ欲しいんだけどな。


そう思って金庫を倉庫に入れてから、売却まで引っ張ってみた。


成功だ、お金はお金で金額欄に入って、中の書類等はそれの価値としてのお金となった。


顧客等の書類だろうけど、まあまあ高く売れるみたいだ。


これで計五十万ちょっと。犯罪を犯しただけのリターンはあると思う。でも、物足りない感はあるな。客が多く来るコンビニ一つから五十万は少ない気がするが……それは逃げる時に店員が金を持っていったからだとか理由は説明出来そうだ。


盗みは絶対にしてはいけないことだ。そう日本国内で決められているからな。まぁ、そのルールというものも法律なんてものが機能していれば、の話でしかないが。


異世界流通の武器の欄を見ていく。


魔槍グングニールレベルの武器はとても高い。安くて数千万、高ければ億を軽くいく。


まだまだ買えそうもないな、残念。

ここら辺のグレードの武器を唯にあげたかったんだが……まぁ、法律が関係ない世界なら気にせずに血縁者であろうと結婚できるだろう。その時に膝付いてプレゼントが一番に良さそうだな。


狙撃銃は数百万で買えるみたいだ。これならもう少しだな、デパートのお金を取ることでも画作しようか。これに関しては俺の好みだ。男のロマンっていうやつだな。


おし、準備はできた。妹を向かえに行こう。


いつも億劫だった坂道なのに、今はそんな気持ちを抱かせない。


歩いている途中で坂道の半ばにいたオーク三体が俺を見つけたようだ。うん、気持ちの悪い顔をこちらに向けないでもらいたい。


「ブオオオ!」


親の敵を見るかのような目で、俺を睨みつけながら突進してきた。こいつらには何もしてないと思うのだが。


「フッ!」


突進してきたオークの腹に鋼の剣を差し込んだ。上に切り上げ行くところまで切っておいた。


貫通こそしなかったものの、一体のオークは突進の速度を活かしながらなので、臓器がその裂けた腹から零れ落ちてきた。


汚い、ただそれ以外の感想はなかった。


二体は俺の行動を見て少し後ろに下がったようだ。恐怖でも抱いたのだろうか。


その間に鋼の剣が刺さったオークは死んだ。オークの体のみを倉庫に入れて、突き刺さっていた鋼の剣は地に落ちた。


カラン、剣が地に落ちた音を合図に二体のオークは俺に向かってくる。


すぐさま鋼の剣を手に取りオークがどこから来ているかを確認した。前と右側からだ、右の方が早い。


右のオークの顔に甘く刺してから、地面を蹴り片手でオークの手を掴み、ぐるんと回転した。


前から来ていたオークは一度立ち止まり、右から来ていたオークは顔面には横一文字の大きな傷がついた。


いきなりのことであり、知能が低いからこそできた芸当だろう。二度目は多分ない。


次いで鋼の剣をオークの首に突き刺した。これで前から来ていたオークだけが残る。


急いで倉庫に入れたが、少し遅かったようだ。


「ガハッ」


体当たりをもらった。だがそこまでのダメージはない。よく見たら鋼の剣が俺の体の前にあった。


無意識のうちに軽くだけだが、攻撃を受け流したのか。運がいい。


流れを消さないように痛む右手に力を入れ、オークの首元に差し込んだ。


これで三体とも倒すことに成功したのだが。


「流石にダメージが大きすぎたか」


軽く内蔵が逝った。骨も折れてる気がする。


俺は異次元流通を開いてなにかないか、と探してみた。あった、ポーションだ。


一万円で買える、オーク一体分だと思えば安いな。


すぐに買って目の前にダンボールが落ちてきた。なんとか中を開け、大きさ十センチほどの瓶を取り出す。


中には少しドロドロとした緑色の液体が入っていた。見た感じ飲む気を失せさせるが……背に腹は変えられない。蓋を開け勇気を出して一気に喉に流し込む。


思いのほかマズくはない。ミントのような爽やかさがあって、好みが分かれるような味と風味。嫌いではないから別にいいが。


「……体は……治ったのか。早いな、さすがはゲームの道具」


そんな独り言を漏らしながら、俺はオークの遺体を売却した。

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