序章5話 平常通りの校内
鋼の剣をまた腰に戻し、学校の門まで歩く。
門前に小さな部屋みたいな場所があるんだが……さすがに警備をしている人はもういないようだ。中からから光が漏れているということは、勝手に逃げ出したか。どこかへ行くだけなら慌てずに規則通りに鍵をかけて電気を消すだろうし。
まあ、人なんてそんなものだ。
愛だとか仕事だとか講釈たれる奴ほどこの程度でしかない。いいだけ説教してきた癖に我が身惜しさかよ、気持ちが悪いな。プライドがとか言っていたのにアホらしいな、まぁ、別におかしいとは思わないが。
俺からすれば咎めるつもりもないし、助けるつもりもない。所詮、人間なんてそんなものでしかないってことだ。
ただ……どうせなら開いて逃げて欲しかったな。
警備員は一箇所だけある扉から出たようだし、ご丁寧に鍵だけはかけて逃げたようだ。ここを無理やり壊すのは……出来るが面倒だし最悪は拠点にするつもりだから無しだな。城としての機能が無くなってしまう。となれば、門をよじ登って中に入るか。
結果は高さ的にはできた。でも門の上につく不審者対策の鉄線で傷がついた。
HPの影響は、ダメージが十入っただけ。まだ範囲内だし、全然大丈夫だ。ステータスを手に入れたおかげか痛みとかも薄いし、ありがたいことだらけだな。
「スーハースーハー」
懐かしい空気だ。
学生という本分を捨てて、もう三ヶ月は経つのか。本当は来たくもなかったが、非常事態だ。
会ってしまっても無視すればいいだろう。
一応、武器を閉まってから中学のご来賓用の玄関に向かう。
インターホンを押して中の教師に顔を合わせる。
「はい……って、え……」
「金倉洋平です、家庭の事情で妹と話をしたいのですが……」
わざとらしく下を向きながら、インターホンの画面に向かう。相手の表情を見ることはできないが、すぐに鍵が開いたということは中に入っていいのだろう。
靴を置いた振りをして倉庫に入れた。
礼儀とか言われるのでスリッパを履いて中へ上がる。このまま妹の所へ向かっても、授業中の教師が許すわけもない。
最悪、汚名をかぶってでもいいのなら、武器を振りかざして連れていく、なんててもあるのだが。
二階にある職員室に向かう。
よく友人とここに来ていたな。今は転校して話もしていないが。
コンコンコン、これがここの礼儀だ。
二回のノックはトイレだとか意味不明なことを言われてしまう。ネタだとしても職員室ぐらい二回でいいような気がする。どうせ、この中にいるヤツらは排泄物以下のゴミ野郎ばかりなんだし。
「……お久しぶりですね」
「小夜先生……そうですね」
中に入った俺に声をかけたのは元担任だった。
小早川小夜、三年生の時の担任でまだ二十六歳だ。俺たちが初めての担任だとも言っていた。そしてこの人は……俺の大嫌いな人でもある。
「それで高校にも行かないで、こっちになんのようかな」
少しトゲがあるな、教師が言うような言葉ではない。私怨を持ち出すか、教師としての自覚が未だに無いようだ。
「唯と話がしたいだけです。親のことが絡むので、できれば二人がいいのですが」
見つめただけなのに、小夜先生は俯く。
そうか、恐怖を抱いているんだ。なんで気が付かなかったんだろうか。俺の今の体をよく考えてみれば武器どころの話ではないだろうに。
「……その血まみれの姿でそんなことが言えるんですか」
小夜先生はまだなんとかなるとばかりに、俺をじーっと見つめてくる。
めんどくさい、なんで殺人疑惑をかけられないといけないのだろうか。
「はぁ、外見ましたか? もしくはテレビとかを。なんか変な敵が出てるんですよ。そいつを殺して正当防衛を成功させただけ」
小夜先生はなにも言わない。
今更だがなんで礼儀を通さないといけないのだろうか。
小夜先生が、ではないが教師は俺を助けはしなかった。教師としての礼儀を通さない奴に、生徒として礼儀を通させてくるのは横暴だ。
「なにもないのなら唯のもとに行かせてもらいます」
職員室にいる教師が電話をかけていたような気がするが、どうでもいい。
殺そうとしてくるなら勝手にそうすればいいし、そうなった場合はとことんやってやろう。コイツらを爆発四散させるのは面白そうだな。小夜先生だけ生かして他は殺す。聞きたいことがある分だけこの人には生きていてもらわないといけないな。
まぁ、死んでも構わないが。
俺が近くにいないなら勝手に死んでも構わない。
何だかんだで生き抜きそうな人ではあるけども。
三の二、そこが妹である唯のクラスである。
近付くにつれ恐怖を覚える。
もしかしたら殺人をしなければいけないのだから。
グングニールを手に取りクラスの扉を開けた。
「お兄ちゃん?」
やはり一番に気付いたのは唯だった。
「唯、行くぞ。ここももう危ない」
唯の手を取る。それのせいか、大きなツインテールが揺れた。
従順、そんなものを求めやしないが、唯は俺を信じてくれるようだ。なにも言わずに立ち上がってくれた。
身長が百七十五の俺よりも二十センチほど小さい。本当に可愛い奴だ。
「……あいつらが来る前に」
そんな言葉を俺が漏らした時だった。
「なにやってるんですか!」
若い男の教師が俺の手ではなく、唯のもう片方の手をとった。
「……消えろ、殺すぞ」
最大限の威嚇だ。
それ以上にする気もない。やるとなれば殺してしまうのだから。
この教師を信用してはいないし、死ぬなら勝手に死ねばいいと思う。
つくづく私立校に来てしまったことを悔やんでしまう。
「なにがですか!」
「……ゲス野郎、証拠突きつけられて無職になりてえのか」
まあ、もう職業なんて関係がなくなってしまったのだが。
こいつは生徒に手を出している。それも複数人。
本音を言えば死ぬほど殺したい。痛めつけて苦しませて命を絶たせたい。コイツの悪趣味な名簿欄に唯の名前を書いて狙うなんて……殺しても殺し足りないくらいだ。でも、今はまだ無理だからな。ならば殺気を出して睨むだけ。
「ねっ、根も葉もないことを言」
それ以上の言葉を紡げはしなかった。
俺の目の前でゲス野郎の男性教師の首は飛んでしまったのだから。
一体の肉切り包丁を持つオークの手によって。
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以下作者からです。
次回から校内での戦いが始まります。新しいキャラも出てくるので、楽しめるかと思っております。
時間があれば明日あたりでも投稿したいと思います。
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