第4話:ミステリーさんは、ネタバレが好き

 ジャンルの家も、ごく普通のログハウスだった。

 誰が前に使っていたのかわからないが、きれいに掃除された家である。

 その家のドアノッカーが、軽快な音を朝日の中で響かせる。


「おはようございます。現ドラです」


 さらにもう1回、響くノック音。

 そしてやっとドアが開く。


「おはようございます」


 中から陽射しに照らされた美しい金髪の女性が顔をだす。


「おはようございます、ジャンルさん。よく眠れ……ていませんね?」


 ジャンルの美しい碧眼の下には、醜い隈ができていた。


「ええ、眠れませんでしたよ。怖いから泊めてくれって言っていたのに、なんで布団の中に入ったら怖い話をし始めるんですか、ホラーちゃんは!?」


「あの娘、信じないくせに自分で怖い話をして自分で怖くなる癖があるんですよね……」


「かわいいのに変な子過ぎます……」


「ご愁傷様です。では、ジャンルさんも怖くて眠れなかったんですね」


「違いますよ。私は怖い話とか全然平気なんです。幽霊も怖くありません」


「そうなんですか?」


「ええ。ただ、私が怖がらないせいで、ホラーちゃんが私を怖がらせようと必死になってずーっと話していて……」


「なるほど。でも、少しは仲良くなったみたいですね。まだ彼女は寝ているのですか?」


「そりゃあもう気持ちよさそうに寝ていますよ」


「では、彼女は放置して、今日も挨拶回りにいきませんか」


「……そうですね。一度、起きてしまいましたから、そうしましょうか」


 こうしてこの世界でのジャンルの2日目が始まったのである。




「――まずは、こちらのウチですね」


 ジャンルの家を出て5分ほど歩くと、その家はあった。

 家の形自体は、ジャンルの家と変わらなかった。

 しかし、屋根は白く、壁は黒い。

 かなり奇抜なカラーリングだった。


「ミステリーさん、いらっしゃいますか? 現ドラです」


 現ドラがドアの前でノックをしながら声をかけた。

 するとほどなくドアが開く。

 現れたのは、グラマラスな短い銀髪の美女だった。

 なぜか着ているのは、きわどい水色のサマードレス。

 四角い銀縁眼鏡をキラリと光る。


「やあやあ。謎は解けた。私の推理だと、君は現ドラくんだね?」


「こんにちは、ミステリーさん。相変わらず、謎なき謎を解くのが好きですね」


「もちろんさ! 謎なきミステリーは、スッキリわかりやすくて楽しいよね! ところで、そちらの金髪美女は……えーっと誰?」


 よくわからないノリに乗れないながらも、ジャンルは挨拶をする。


「初めまして。ジャンル・ダベルです」


「おやおや。私の誘導尋問に引っかかって名のってしまったね!」


「……すいません。誘導も尋問も見つけられませんでしたが、これからよろしくお願いします」


 ジャンルもすでに少しこの世界の住人に耐性ができていた。

 多少のことならスルーできる。


「うむうむ。高い適応力だ! ……よし。では親交を深めるために私がひとつ、ジャンルくんに推理問題を出してあげようではないか!」


「ありがとうございます。期待しないで聞かせていただきます!」


「よしよし。正直だ! 嫌いじゃないよ! ……では、問題。ある密室にAさんとBさんがいた。その状態でAさんが殺されてしまった! 犯人は誰だ!?」


「Bさん」


「て……」


「て?」


「て……天才か、君は!? 驚いたぞ!」


「驚いたのは、こちらですよ! 期待以上に期待外れでした!」


「ふむふむ。しかし、まだ油断してはいけないよ。この推理には穴がある」


「……穴?」


「そう。『実は部屋に開いていた穴からCさんが入ってきてAさんを殺した』というパターンを見過ごしていると言うことだ!」


「そういう穴!? 密室の意味がないじゃないですか! それは推理じゃなくてイカサマですよ! 誰でも入ってこられるなら、DさんでもEさんでもFさんでも、それにZさんでもいいじゃないですか!」


「よく気がついたね! そうさ、全員が犯人だったんだよ! エクセレント!」


「どんだけAさん、みんなに恨まれているんですか!」


「Aさんは全員の家族を殺した大量殺人鬼だったのだ」


「殺されて当然ですよね、それ! むしろAさんを逮捕しておきましょうよ!」


「なるほど、それは盲点」


「うそーん!?」


「あははは。よしよし。君はなかなか推理が得意なようだ。それならこの小説を貸してあげよう。楽しめるはずだ」


 ミステリーがどこからともなく、単行本を1冊とりだした。

 それには「連続カクヨム殺人事件」と書いてある。


「これはウェブ作家たちが次々と殺される謎多き殺人事件の話だ」


「へぇ~。面白そうで――」


「犯人は編集長だ」


「――って、いきなりネタバレ!?」


「いやいや。犯人がわからないとドキドキハラハラしてしまうだろう?」


「それを楽しみたいんですよ!」


「やれやれ。それならこの推理小説を貸してあげよう。タイトルは『犯人はヒロイン~動機は恋の逆恨み殺人事件』だ」


「――タイトルうぅぅぅ!!!」


「わかりやすいだろう?」


「わかりやすすぎます! 1ページも開かないで犯人も動機もわかる推理小説なんて初めてですよ!」


「作者は私」


「ミステリーさん、ミステリー向いてませんね!」



 ちなみに現ドラはずっと横に立っていたのだが、スッカリその存在を忘れられていたのだった。

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