第2話:エスエフさんは、虚構が好き
「広いですね……」
ジャンルは現ドラに案内されて、隣の家まで歩いていた。
前方は見渡す限りの草原とわずかな家屋。
見晴らしは文句なしであった。
「何もない、さびしいところでしょう?」
「い、いえ、そんな……」
「でも、なにもない方がいいんですよ」
「ああ。自然の中で――」
「描写が少なくて楽なので」
「だからブッ込みすぎないでください!」
「やれやれ」
「どうしてあなたが、上から目線であきれているんですか!?」
「はいはい。無駄話をしている間につきましたよ」
「無駄話……」
なにか言い返そうとしたが、それこそ無駄と悟りジャンルは目の前の家を見た。
目の前の家は、一言で言えば女の子のおもちゃ箱だった。
ピンクの壁に、カラフルな星やハートのマークが描かれている。
ドアには妖精のレリーフがあり、上の方はバラのアーチが作られている。
(さしずめ、メルヘンさんとか、ファンタジーさんとかかな?)
きっとかわいらしい女の子が出てきてくれるのだろう。
そうしたら、ぜひ友達になってもらおう。
ジャンルはそう期待しながら、ノックしている現ドラの後ろで待っていた。
「――は~い♥」
聞こえてきたのは、想像と少し……かなり違う声。
そして開いたドアから現れたのは、想像とかなり……超絶、異なる存在。
「あ~ら、現ドラちゃん♥ ……その子ね、神様の言っていた子」
「…………」
ジャンルは唖然としてしまう。
一言で言えば、筋肉だ。
身長は2メートルほどあるだろう。
胴回りは、かるくジャンルの3倍近くはあるのではないだろうか。
そんな筋肉隆々の男が、腰をクネッとまげて、愛らしいピンクの花柄エプロン姿で出てきたのである。
しかも、四角くいかつい顔には、紫のアイシャドウ、ピンクの頬紅、真っ赤な口紅が飾られている。
しかし、眉毛は異常に太いままだ。
(私の期待を……返して……)
ジャンルは現ドラに、そう碧い瞳で訴えかける。
すると何を思ったのか、現ドラは無表情に首をかしげた。
「……ほら。必ず漫画に1人はいるでしょ、こういうオカマキャラ。やはり、必要ですよね?」
「知りませんよ、そんなこと!」
そう怒鳴ってから、ジャンルは深呼吸する。
人を見た目で判断してはいけない。
目の前の現ドラよりも会話ができる人かもしれない。
「あ、あの……失礼しました」
そう言いながら、握手のために手を差しだす。
すると、ジャンルの手を片手で包み込めてしまいそうな手が相手から伸びてくる。
しかし、握手する手は思いのほか優しかった。
「改めて、初めまして。ジャンル・ダベルと申します。あ、えーっと……」
「アタシ? ……そうね、何に見えるかしら?」
つい見た目のまま「筋肉オカマ」と答えそうになるが、そんなカテゴリーはないのでジャンルは言葉を呑みこんでから考える。
「えーっと、やはりメルヘンさんとかでしょうか?」
「フフフ。あらやだ、そう見える? でも違うのよ」
「ならば、ファンタジーさんとか……あ、恋愛さんとか?」
「は・ず・れ♥ わからないの~?」
「す、すいません……」
「答えは……エ・ス・エ・フ……SFよ♥」
「――わかるかーい!!」
「あら。SFとは、Sex is Femaleの略よ。男性が女性を目指すカテゴリーね」
「大いに違います! Science Fictionですから!」
ツッコミまくるジャンルに、横から現ドラが「まあまあ」と言いながら入ってくる。
「こんな見た目ですが、エスエフさんはなかなかすごいんですよ」
「さらっと酷いこと言いますね、現ドラさん」
「見てください、無駄にすごい、この筋肉」
「無駄って……」
「この筋肉はエスエフさんらしく、科学の力で作っているんですよ」
「……え? 科学?」
「はい。毎日、プロテインを水素水で飲んでいるそうです」
「うわああぁぁ……」
ジャンルの口から、悲鳴に近い声が漏れる。
「さらにエスエフさんは、病気もしません」
「ウフフ。ホモオッパイシーを採用しているからよ♥」
「それを言うならホメオパシー! ってかそれもエセ……」
「そしてエスエフさんのきめ細かい肌は、マイナスイオン効果」
「
「それだけじゃないのよん♥」
エスエフが胸元から、宝石のつけられたペンダントを取りだす。
「最近は、パワーストーンの効果もあるわね」
「ああ……とうとう
「いやいや。エスエフさんはバカだけどバカにしたものではありませんよ」
「げ、現ドラさん?」
「そうよん♥ バカにしたもんじゃないわよ」
「エスエフさん、バカですか!? バカにされているんですよ!?」
やはりなにげにひどいジャンルのツッコミはスルーされて、現ドラはそのまま話し続ける。
「まずエスエフさんは、科学の力で生身で業火の中に入っても燃えません」
「……ち、ちなみに、どんな科学の力なんですか?」
聞くのが怖いながらもジャンルが尋ねると、エスエフが胸を張って答える。
「そうね。一言で言えば……気合ね♥」
「…………」
「さらに、裸で氷点下の中にいても生きていられます」
「秘密は、根性よ! 裸はちょっと恥ずかしいけど♥」
「もっと別のことを恥じてください!」
2人目にして、すでにこの世界が嫌になっているジャンルであった。
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