第192話 真相

数分間は気が動転していただろうか。ようやく落ち着いたオレは、神に書き記してみんなに見せた。


「レベルが可笑しな事になってるじゃない!」

「この+1000と59というのは何でしょう?」

「1000がアーク様の、59が私の加護による上乗せ分でしょうね。」

「カレンの加護が大した事ないように見えるわね・・・。」

「ナディア?喧嘩を売っているのですか?」


素直に思った事を口にしたナディアに対し、カレンが若干不機嫌になる。喧嘩になる前に話題を逸しておこう。


「カレンの加護って何パーセントなんだっけ?」

「普通の神は精々5パーセントです。」

「じゃあ、カレンのレベルは1180って事か・・・。」


1000オーバーでも充分凄い。だってオレの2倍だぞ?だが、たったの1パーセントがカレンと同等の最高神って・・・。


「1パーセントが1000という事は、ルークのお義父様はレベル10万となりますが・・・有り得るのですか?」

「アーク様のお年は誰も知りませんからね。数万年か数十万年、或いはそれ以上の時を生きていらっしゃるはず。1年に1上がっただけでも10万には余裕で届くでしょうから、恐らく真実かと・・・。」


1年に1上げるのも大変だと思うのだが。その理論でいくと、カレンのレベル=年齢となる。


「そろそろ自分の嫁の年齢くらいは知っておきたいんだが・・・カレンは一体何歳なんだ?」

「・・・こっそり調べられるよりはマシですね。確か1100歳位だったと思います。」

「「「「「1100歳!?」」」」」


予想通りだったのだが、それでも驚いたのは桁が違っていたからだろう。ぶっちぎりの最高齢である。


「私の場合、この数百年で強さに変化はありません。」

「それだけの相手がいなかったって事だろうな。まぁそれも、今後はオレと訓練すれば改善されるだろう。そんな事より、今は世界をどうするかって話だ。」

「そうですね。ルークが強くなった所で、出来る事は限られますから。」


スフィアの言う通り、オレが魔物を殲滅して回るのは現実的ではない。手加減せずに強力な一撃をお見舞いしたいが、それでは街や村ごと吹き飛ばしてしまう。


つまりレベルは上がったが、ゲームの様に都合良く魔法やスキルを得られた訳でもない。名案だと思っていたが、結局何の解決にも至っていないのだ。


「とりあえずどうしようか?」

「そうですね・・・まずは地下道の建設。これは絶対でしょうね。それから食材、農地の確保ですが・・・」

「あぁ、それなら何とかなりそうだな。各国の空いてる土地を大きく囲ってしまおう。今なら余裕で出来る気がする。・・・実はカレンも出来るんじゃないか?」


体内に感じる魔力量や神力量から推測するに、王都もまるっと囲える気がする。同等の強さであるカレンにも可能だと思ったのだが、そう単純ではないらしい。


「いいえ、私は戦闘以外能無しでして・・・明日はルークの補助に回ります。」

「そうなの?」

「はい。と言うか、ルークがかなり特殊なのです。いくら魔力や神気が豊富でも、そう簡単に囲えるものではありません。」


カレンの言葉に、魔法を使える面々が何度も頷く。何だかオレが異常みたいな雰囲気だったので、誤魔化す為に思考を巡らす。


「え〜と・・・そう言えば前に最高神が言ってたよな?この世界は2つの問題が同時に起こるって。」

「そう言えばそうでしたね。その後魔神の封印が解けるので、ルークに討伐して欲しいと・・・。」

「1つは今回の騒動だとして、もう1つは何だ?」

「アーク様の説明から察するに、こちらの世界に来たい女神の企みか・・・ルークのお義母様の事でしょうね。」


カレンさん、それだと3つ同時に起こりそうじゃないですか?いや、待てよ・・・。


「オレの母親の件は予定外だったんじゃないか?かなり慌ててたみたいだし。」

「私もそう思うわ。だから多分、その女神がもう1つなのよ。そして女神の狙いは魔神の封印にあると思う。」

「「「「「?」」」」」


ルビアの考えが理解出来ず、全員が首を傾げる。


「封印されてる魔神だけど、カレンの手に負えない相手じゃない?」

「そうですね。相手にもよりますが、格上も何名かもおりました。」

「そんなのが解き放たれたら、お義父様も今度は確実に神々を送り込むでしょ?その女神はそれに便乗するつもりなのよ。」

「「「「「あっ!!」」」」」


そうか!異世界転移が王族にしか出来ないんだから、その女神は最高神を利用するしかない。それには神々を送り込むような状況を作り出す必要がある。


「なるほど。出来る限り誰も送りたくない・・・いや、違うな。土壇場で送り込むよりも、今の内に最適な人材を送り込んでおいた方がいいはず。そうしないのは・・・まだそいつを特定出来ていないからだ。」

「つまり、時間稼ぎに来たのですね?」

「あぁ。オレ達だけでも対処出来るように仕向けておいて、その間に見つけようって魂胆だろう。散歩してたのだって、単に封印の様子を見に行っただけだと思うし。まぁ、今は先の事より目先の事だ。」



こうしてルーク達は朝まで作戦を考える事となった。寝不足は女性の敵であるが、そんな事を言っている余裕などない。誰1人不満を口にする事なく、真剣に案を考えるのだった。




一方、神域へと戻ったアークだが・・・。



「全く・・・アーク様の狙いなどバレバレではありませんか。」

「だが嘘を見抜く事は出来なかったらしい。」

「異世界転移は王族にしか出来ない、ですか・・・カレンが下級神で助かりましたね?」

「全くだ。オレが制限を掛けてるから普通は転移出来ないが、上級神は適用外だしな。」


アークは咄嗟に幾つもの嘘を吐いていた。異世界転移もその1つ。もしカレンが誰かに聞き及んでいたらとヒヤヒヤしていたのだが、どうやらカレンは誰からも聞いていなかったらしい。


「美の女神という事までは特定出来ていますが、その行方は依然として不明。ひょっとして、既にフォレスタニアに・・・。」

「そう思ってあちこち回ってみたが、あの世界にはいなかった。どうやってルークに近付くつもりなんだか・・・。」

「新神のカレンでは手も足も出ないでしょうね。しかも彼女は落ちこぼれ。唯一出来るのは戦う事だと言うのに、その実力はまだまだ。些か危険なのでは?」


1000歳を超えたカレンを新神、更には落ちこぼれと呼び険しい表情をする女神ヴァニラ。これにはアークも渋々同意する。


「お前の言う通りだよ。全く・・・お前の作戦通りに進んでるんだろ?不本意だがルークにはお前を付けるつもりだ。」

「おや?よろしいのですか?流石にそれは難しいと思っておりましたが。」

「あぁ、白々しい!他に適任がいないんだよ!!お前だってわかってるだろ!?」

「えぇ、それは痛い程に。何でも出来るせいで人望が無いというのも考えものですね?」

「クソっ!!」


苛立ちを隠す事なくアークが部屋の出口へと向かう。その後ろ姿を見つめながら、ヴァニラは思考に耽る。


(奥様が既にフォレスタニアに居る事にも気付かなかったようですし、大分焦っているようですね。美の女神と何があったのか・・・。女神カナン。ルーク様を狙うだけであれば良いのですが、他に何か企むようであれば私1人では厳しいですね。やはりシルフィ様と取引するしか・・・)



「そうだ、ヴァニラ?」

「はい、何です?」


何かを思い出した様子のアークが立ち止まり、振り向きながら問い掛ける。


「妹の行方は掴めたか?」

「いいえ。総力を挙げて捜索しておりますが、未だ発見には至っておりません。もっとも、そのせいで奥様と美の女神捜索に充てる人員が不足しているのですが・・・(嘘ですけど)。」

「アイツを放置するのはマズイぞ・・・」

「・・・私の考えを述べさせて頂いても宜しいでしょうか?」


突然姿勢を正したヴァニラに、怪訝な表情を向けるアーク。


「何で突然改まった?聞くのが恐ろしいんだが・・・言ってみろ。」

「ルーク様を同時に襲う厄災の2つの内、判明していないもう1つですが・・・シルフィ様が関わっているのではありませんか?」

「お前・・・考えないようにしてたんだぞ!」

「知りませんよ!大体、シルフィ様を怒らせたのだってアーク様じゃないですかっ!!」


突然訳のわからない理由で怒鳴られた事で、ヴァニラも我慢出来なくなった。


「仕方ないだろ!?アイツまでルークに会わせろって煩かったんだ!四六時中駄々をこねられるこっちの身にもなってみろ!!」

「会わせるくらいいいじゃありませんか!!」

「嫌だね!アイツはオレと同じ顔なんだぞ!!」

「は?」


アークが妹にルークを会わせなかった理由。それは、自分が可愛がられているようで嫌だったからに他ならない。まさかそのような理由だったとは思っていなかった為、ヴァニラは完全に呆けてしまう。


だがこれでハッキリした。最高神の妹は可愛い甥っ子に会いたい気持ちが限界に達し、ついには家を飛び出したのだ。しかもただ会いに行ったのではない。恐らく一緒に暮らすつもりだろう。何よりも我慢が嫌いなシルフィと呼ばれる女神。好きなモノは徹底的に愛でる事で知られている。男神達が恐れ戦く程に。


アークは単に、自分と同じ顔が妹に徹底的に愛でられている姿を目にしたくなかったのである。まぁ、息子の身を案じたとも言えるのだが。


「ともかくルークとシルフィを会わせる訳にはいかない!下手したらルークがダメになるだろ!?」

「それは・・・否定出来ませんね。」


何を思ったのか、 ヴァニラも納得の表情を浮かべる。


「ったく、我が息子ながら女性に苦労するヤツだよ。」

「それは仕方ないと思いますよ?タダでさえ最高物件なのに、極上スイーツを作り上げるのですから。」

「それが理由なのか!?」

「あ・・・えぇ。女とは甘いモノに弱いのです。」


勢い余って口を滑らせた風のヴァニラが白状し始める。当然これも彼女の作戦であった。


「腹減らないよな!?」

「甘いモノは別腹です!」


別腹も何も神域に住まう以上、本来ならば入る場所など無い。それでも食べたいと思う程、神域の女神達はルークの作るスイーツを欲していた。やっと得心のいったアークがハッした表情を浮かべる。


「なら、妊娠が発覚した際にアイツの魂を自分の子供の体に入れさせたのは・・・。待て待て、今回の件もそうか?何百年も待っていられなかったから、さっさと王族の力を手に入れさせて地球の食材や調味料を・・・」

「あぁ、それは違います。」

「どれだ!?」


何処かで見たようなやり取りをし始める2人。やはり血は争えないという事だろうか。


「ルーク様の魂を選んだのは奥様です。待ち切れなくて無理矢理転生させるように促したのですから、その件に関してはお伝えしても構わないと言われております。」

「・・・それで?」

「今回の件に関しては全くの無関係です。シルフィ様が予見した後、便乗しようと言い出しただけの事。」

「ならヴィクトリアとシルフィは・・・」

「フォレスタニアにおられますよ?」


ニッコリと微笑んでヴァニラが告げる。これには最高神も、盛大に頭を抱えるしかない。


「マジかよ!まんまとしてやられた!!すぐに戻るぞ!!!」

「残念ですが、それは不可能です。」

「何?」


悪い笑みを浮かべながらヴァニラが告げる。これには最高神も動きを止めた。


「邪魔するぞ?」

「魔神王のジジイ!何で!?」


突然の来客に最高神が慌てる。しかも1番会いたくない魔神王が相手だ。何故、というアークの気持ちを察したヴァニラが簡潔に説明する。


「ヴィクトリア様がお呼びしました。ではではアーク様?しっかりじっくりたっぷりと!奥様との馴れ初めからこれまでを説明して下さいませ!!じゃっ!!」

「あっ!こら、何処へ行「さて、お主の相手はこの儂じゃ。」ちょ、ジジイ!放せ!!・・・ちくしょ〜!!」



最も最高神を熟知する2人がタッグを組んだ事により、完璧な足止めが成功する。父親の助けが得られない事など知らないルークがこの後、恐ろしい程の心労に見舞われるのは言うまでもない。

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