第191話 生存への道4

嫁さん達が揃って首を傾げているので、まずは吸血鬼について説明しておいた。生き血を啜るという説明に、全員顔を青くしていたのが印象的だった。


「実際には簡単に増える種族でもなくてな・・・徐々に数を減らしているらしい。それでも特殊な能力を持ってる連中には変わりない。今は関わらない事をオススメする。」

「けどこの大陸の人々が・・・」

「いや、そもそも吸血鬼が住む土地は貧しい。年中氷に閉ざされてるって話だ。食料なんか見付からないし、満足に育つかも怪しい。それどころか、逆に食料にされちまうぞ?」


そういう事は先に言って欲しい。糠喜びしちまったじゃねぇか。


「結局は打つ手無しって事か。」

「いえ、アーク様でしたら・・・」

「オレは干渉しない。」

「救えるのに救わないのかよ?」


現在、実の父の評価は急降下中である。


「別に何を言われても構わないが、一応言っておく。お前は神を何だと思っている?」

「人を見守る存在だろ?」

「それは世界に降り立った神の話だ。神域に住まうオレ達には当てはまらん。大体・・・いや、言い方を変えよう。全員に聞くが、そもそも人は何故働く?」


突然全員に対して質問するアーク。これには誰もが黙り込む。そして初めに口を開いたのはスフィアだった。


「生きる糧を得る為です。」

「なら食料に困らない、もしくは食う必要が無ければ?食料だけじゃない、望む物が欲しいだけ手に入るとしても働くか?」

「それは・・・」


現に、働かずとも食って行ける者は存在している。将来どうなるのかは知らないし、今の論点とは異なるので割愛するが。


「神域とはそういう場所だ。働くのは権利であって義務ではない。」

「ですが税を治めるのは義務です!その義務を果たす為には、労働による報酬を得なければならないではありませんか!!」

「そんなのは人間達が勝手に作り出したルールだ。生活の質を向上させようという、勝手な欲望に過ぎない。」

「くっ!」


これは全くの正論だった。スフィアも反論出来ず、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


言われてみれば地球だろうとフォレスタニアだろうと、ただ生きる為ならば仕事をする必要は無い。働いているのは人間だけなのだ。狩りは仕事ではない。単に食料を確保する為の行為なのだ。対価を得た時点で仕事となるのだろうが・・・。


税金も国に治めるのであって、神に治める訳ではない。神税なんて聞いた事も無いし、そんなのは大抵の人間が拒否するだろう。


「そもそも神々が世界を管理するってのも義務じゃない。神域にいれば食事も不要なんだからな。ただ、する事が無いと暇を持て余すだろ?だから言い方は悪いが、暇潰しみたいなもんなんだよ。大体、世界が無くなろうと神々は生きていられるんだからな。」

「「「「「・・・・・。」」」」」


アークの発言に、何処か納得のいかない嫁達が不満を顕にする。しかしそれを声に出す者はいなかった。


「だったら神が・・・オレがこの世界に存在する理由は何だ?」

「さっきも言った通り、お前を守る為だ。」

「だったら・・・」

「悪いが何を言っても無駄だ。魔物が溢れた程度でお前や嫁達は死なないし、食うに困る訳でもない。」

「くそっ!!」


困っている息子を助けるだろうと思っていたが、考え方が根本的に違う。さらには、オレが困っているのはこの世界の住人の命や生活に関してであって、オレや嫁さん達の事ではない。神頼みも通用しないとなると、自力でどうにかするしかないだろう。


「勘違いするなよ?直接手は出さないが、息子を見捨てるとは言ってないんだ。」

「アーク様・・・」

「カレン。話した通り、いずれ女神の誰かがちょっかいを出して来るだろう。早めに対策を考えておけ。」

「わかりました!」


いや、オレを助けるって言っておきながら、話が明後日の方向に飛んだんですけど・・・。



「おっと、話を戻すか。この世界についてだが・・・具体的にどうするっていうのは考えてない。だからお前達が幾つか考えてみろ。その中から、問題無さそうな願いを叶えてやる。」

「今すぐ、でしょうか?」

「スフィア、だったか?そうだな・・・1時間で決められるか?」

「わかりました。では1時間後にお伝えします。」


あまりのんびりもしていられないし、明日は世界政府の緊急会合がある。朝まで考えても効率が悪いし、夜までとなると時間が無いかもしれない。そういった意味では良かったのだろう。


「じゃあ1時間後にまた来る。」

「アーク様?何処かへ行かれるのですか?」

「ちょっと散歩にな。」

「え?あ、ちょっと!」


カレンの制止も聞かず、最高神は何処かへ転移してしまった。そんなアークに対して不満があったらしく、カレンが膨れっ面をしている。


「さてと、とにかく打開策を考えないとな。カレンも膨れてないで一緒に考えてくれ。」

「・・・わかりました。」

「え〜と、じゃあ適当に思い付いた事を言っていこうか。それが叶えて貰えそうかどうか、カレンが判断してくれ。」

「わかりました。」


本来であればスフィアに進行を任せるのだが、今回ばかりは率先して動くべき状況だろう。


「ならみんな、遠慮せずに言ってくれないか?一応オレも思った事を言わせて貰う。」

「人々を安全な場所に避難させるか、魔物を何処かに移動して貰えば?」

「ナディアの考えは難しいでしょう。人々に対する説明が難しいですし、何より直接的過ぎます。」


確かに直接手は出さないと言っているのだから、そういうのは無理だろうな。間接的で決定的な効果を上げられるって、実はかなり難しくないか?


「最高神様に加護を頂くというのはどうでしょう?」

「ティナ、そんな事になれば魔物ではなく神々が攻めて来ます。アーク様の加護とはそれ程のものなのです。」

「なら武器を貰うとか?」


今度はルビアが提案したのだが、これにはエレナが異を唱えた。


「それは私達が納得出来ないわね。誰にでも使えるような神器なんて、争いの種にしかならないわ。」

「確かに母さんの言う通りか。将来的に今回の二の舞いとなるだろうな。」

「条件が難し過ぎるわね・・・。」


フィーナも気付いたようだ。ハッキリ言って無理難題である。直接がダメなら、もう何か貰うしかない。でも武器は母さん達が嫌がる。


「武器以外となると、何かの力か・・・。でも世界中の人々に加護みたいなのを与えるのはダメ。う〜ん・・・」




その後も様々な意見が飛び交うが、どれもオレやカレンが首を横に振るものだった。約束の時間まであと数分。全員意見を出し尽くしたのか、静寂がこの場を支配する。そしてある者が長い沈黙を破った。


「あの・・・ルークが頂く、というのはどうでしょうか?」


滅多に発言する事のない人物の意見に、全員が勢い良く顔を向ける。


「リノアさん!今何とおっしゃいましたか!?」

「え?ですから、不特定多数がダメなら息子であるルークに加護を・・・」

「「「「「それよ!!」」」」」

「はぁ!?」


全員が名案だとばかりに声を揃える。当然予想外だったオレは素っ頓狂な声を出してしまった。


「リノアなんかに負けるなんて・・・」

「明日何事も無ければ良いのですが・・・」

「フィーナさん、スフィアさん!酷いです!!」


フィーナとスフィアの冗談というのはリノアも理解しているのだろう。そこまで本気で怒ってはいない。それよりも今はリノアの発言内容だ。


「ちょっと待て!何故オレだけが加護を貰うなんて話になる!!」

「不特定多数が無理でしたら、特定の人物に与えて頂くのは当然です。」

「だったら別にオレじゃなくてもいいだろ?」

「あら、私は嫌よ?もう竜王達から貰ってるもの。」


オレの意見に真っ向から異を唱えたのはナディア。確かにお腹いっぱいなのだろう。


「ならカレンに・・・」

「私はルークだけを感じていたいのです。ですから如何にアーク様と言えど、他の神々の力などお断りです。」

「私も!」

「私だって!!」

「ぐぬぬ・・・」


カレンに同意するように、次々と他の嫁達が声を挙げる。1人唸っているのはナディアだ。自分だけ浮気者みたいな気分に陥っているのだろう。別に誰も気にしてないのだが。


「決まったようだな?」

「「「「「っ!?」」」」」


突然聞こえて来た声に、カレンまでもが息を飲む。全員が声のした方に視線を向けると、そこには片肘を付いて横になる最高神の姿があった。ある意味神っぽい姿ではあるが、偉そうでムカつくのはオレだけだろうか?


「ソイツに加護を与えるのは問題無い。元々与えるつもりだったからな。だが嫁達は拒むか・・・本当に面白いな。ならサービスだ。ソイツとの繋がりを強くしてやろう。」


ニヤリと笑みを浮かべながら告げる最高神。これがアークの嫌がらせだったと気付くのは少し後の話。


「まずは加護だな?」

「なっ!?」


ゆったりと起き上がったと思った瞬間、オレは頭を鷲掴みにされていた。アイアンクローでも極められるのかと声を上げてしまったが、どうやら何かを探っているだけだったようだ。


「お前・・・そうか。まだ王族の力を解放出来てないんだな。」

「「王族の力?」」


これにはカレンまでもが疑問の声を上げる。


「まぁ、覚醒して間もないしな。そっちも特別に解放してやろう。」

「嫌な予感しかしないんだが?」

「そうだな。オレが逃げ・・・不在の時、代わりに連れて行かれるかもな?」

「今、逃げるって言いかけただろ!?」


コイツ、仕事をオレに押し付けるつもりだ!


「まぁ、それなりに良い事もある。例えば、この世界に存在していない食材も手に入れられるぞ?」

「食材?」

「あぁ。調味料なんかも全部は揃ってないだろ?それは存在していないからだ。」

「そういう事だったのか・・・予想はしてたけど。」


頑張って探しているのだが、まだまだ見つかっていない食材は多い。微妙に味が違う事を考え、地球とは違う世界なのだから無いのかもしれないとは思っていた。それがハッキリしたのだから、オレのショックは大きい。


「あとはコメだったか?あれもこの世界には無いな。」

「コ、コメが無いだと!?」


日本人にとって絶望的とも言える一言。オレが受けた衝撃は計り知れない。そしていい加減、頭から手を放して欲しい。掴んだままでするような内容じゃないよね?


「安心しろ。王族ならばそれも手に入れられる。」

「万物創造ってヤツか?」

「それは最高神にしか不可能だな。」

「ならどうやって?」

「王族のみが使える力の中に、異世界転移という物がある。」

「「「「「異世界転移!?」」」」」


みんなは驚いているようだが、今オレの瞳はキラッキラに輝いている。キラッキラに。大事な事なので2度言いました。


「他の世界に転移出来るんだが、あまり気軽に行かれても困る。他の世界を管理する神々の手前、勝手な行動は迷惑になるかもしれないからな。」

「他人の畑にお邪魔するようなものか・・・」

「王族の力の解放はその時にするとして、まずは加護だ。あんま強過ぎるのもなぁ・・・1パーセントにしておくか。」


ブツブツと呟きながら、オレの頭を掴む手に力が込められたのを感じる。ライオンの檻にでも閉じ込められたかのような威圧感だ。


「こんなもんか。あとは嫁達との繋がりの強化だな。ほいっ!」


ーー パチン!


嫁達の方を向き、空いてる左手で指を鳴らした。


「時を重ねる事で少しずつ強くなる。いきなり全開じゃ躊躇うだろうからな。良し!これでオレの要件は済んだ。じゃあ、またな!!」

「「「「「はい!」」」」」


何ともあっさりした別れの挨拶に、嫁達が元気良く返事をする。だが最後にオレを見て、ニヤリと笑っていたのを見逃してはいない。


嫌な予感がして、まずは自分自身の身に起きた変化を確認しようとする。


「さて、まずは自分に何が起きたのかを・・・」

「あ!その前に、私からも加護を授けます。」

「え?でもそれは危険って・・・」

「アーク様から加護を頂いたのです。1パーセントも。ですから私が加護を与えた所で、何の問題にもなりません。」


聞き間違いだろうか?1パーセント『も』って言ったよね?嫌な予感しかしないが、先延ばしにしても解決しない。まずは鑑定魔法で確認してしまおう。




◆ルーク=フォレスタニア=エストレア

種族:神

年齢:15

レベル:578+1000+59

称号:シリウス学園1年生?、フォレスタニア帝国皇帝、許可を得し者、神皇子、魔王子、最高神の加護を受けし者、戦女神の加護を受けし者




「ブハッ!!」

「「「「「ルーク!?」」」」」



盛大に吹き出したオレに嫁達が駆け寄る。ツッコミ所が満載で、どうしたらいいのかわかりません!!

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