第139話 閑話 セラとシェリーの嫁探し2

セラとシェリーの前には、腕を組んで首を傾げるドラゴニアの国王。そして、難しい表情で黙り込んだ王妃の姿があった。このまま任せきりにする訳にもいかず、2人は小声で対策を練る事にした。


「だんちょー、どうしますか?」

「えぇ。流石に我々だけで行動する訳にもいきません。歩くしかないでしょうね。」

「ですよねぇ。でも、私達で良かったですよ。もしスフィア様がいたら・・・」

「・・・王都から離れられなかったでしょうね。」

「あの人、運動は全然ですもんね。1キロ歩いたら、私か団長がおぶって歩く羽目になってましたよ。ルーク様の料理のお陰で、最近あの人少し太っ「こらっ!」痛っ!」


ーーポカリ


シェリーの頭にセラの拳骨が落ちる。


「何するんですかぁ!!」

「スフィア様を悪く言うものではありません!!」


涙目で頭をさすりながら、シェリーが抗議の声を上げた。しかしそれも、セラに一喝されてしまう。本来であれば、シェリーが陰で何を言おうとも特に問題とならない。しかし対等な立場となってはいるのだが、長年染み付いた上下関係は簡単に抜けるものではないのであった。


幾ら小声とは言っても、目の前でこのようなやり取りが行われているのだ。当然国王と王妃も気付く。微笑ましい光景に目を細めながら、国王が口を開く。


「どうかしたのかな?」

「え!?あ、す、すみません!!」

「いやいや、構わないよ。それで?何か揉めていたようだが・・・」

「揉めていたと言いますか・・・徒歩で構わないという結論になったのですが、少々馬鹿な事を言うものですから。」


そう言いながら、セラがシェリーに冷たい視線を向ける。しかしシェリーは、セラと視線を合わせないようにそっぽを向く。セラがプルプルと震えながら拳に力を込めると、静観していた王妃が口を開いた。


「お2人を危険な目に遭わせる訳にも参りませんし、せめて王都の民だけでも何処かに集めてしまいましょうか。」

「おぉ!それは名案だ!!希望者を募る形にすれば、ある程度の人数に絞る事も出来るだろう。」


ドラゴニア国王と王妃が言うのは、言わば集団面接のようなものである。セラとシェリーは立場上、そのような事には慣れていた。近衛騎士団への入団試験には当然面接もある。団長と副団長という役職だったのだから、何度も経験していたのだ。


女性ばかりの騎士団にへの入団希望者など、毎年多くても100人程度。過去の経験から軽く考えてしまった。今回も似たようなものだろう、と。この場にスフィアかルビアでも居れば止めただろう提案に、2人は乗ってしまう。


「名案じゃないですか、だんちょー?」

「そうですね・・・我々が国中を隈なく見て回るのも現実的ではありませんし、お言葉に甘えさせて頂くとしましょうか。」


シェリーが瞳を輝かせてセラに尋ねると、しばし考えて同意する。2人を見守っていた国王と王妃であったが、了承して貰えた事で満足気に話を進める。


「希望者はどれ位になるだろうか?」

「ざっと見積もって2000、いえ・・・3000人程でしょうか。」

「「え!?」」


国王の問い掛けに、王妃が丼勘定を行う。口にした数字に、セラとシェリーは耳を疑った。しかし、聞き返す暇を与えず国王と王妃は話を進めてしまう。


「今日中に通達して明日、ともいかないだろうな。明後日から先着順に500人ずつでどうだ?」

「別々に行って頂けば、1日1000人はイケますね。」

「「は?」」


セラとシェリーはまたしても耳を疑う。しかし今度は脳内で計算を開始する。地球と同じく1時間は60分。そして1日は24時間である。しかし文明のレベル差もあってか、フォレスタニアという世界の者達は暗くなると眠りにつく。夜を謳歌する者達もいるが、それはある程度の収入を持つ者達に限られていた。


つまり、面接に訪れる国民の多くが明るい内に活動するのである。午前6時前には明るくなり、8時にはお役所仕事が始まる。そして、暗くなる少し前には業務が終了するのだ。つまり、8時から17時頃までとなる。休憩を挟む事を考えても、1日8時間労働。つまりは480分。


少し残業しても500分程度。即ち、1人当たり1分。正確には、入退室を考慮して30〜45秒だろうか。その時間で、一体相手の何を知る事が出来ると言うのか。


しかしこれは、国王と王妃の作戦であった。面接の時間が短ければ短い程、セラとシェリーの判断は正確性を失う。2人のお眼鏡にかなう者の数が減るリスクはある。しかし、最終的に1人に絞るという事は出来なくなるだろう。


複数人の国民を送り込む事が出来れば、その分ドラゴニアという国を蔑ろには出来ない。ましてや既に、実の娘である王女を送り込んでいるのだ。今回選ばれる者が出なければ、第7王女のカグラの重要度は増すはずである。


今回選ばれれば良し、選ばれなければ尚良しの2段構えであった。半ば脳筋とでも言うべきセラとシェリーにとって、勝敗は始まる前から決していたのだ。当然2人は気付かない。そんな余裕など無いのである。短い時間でどうやって判断するべきなのか、必死に思考を巡らせていたのだから。





「つ、疲れました〜。」

「わ、私もです。」


初日の面接を終え、王城内の一室でベッドに倒れ込みながらセラとシェリーが声を上げる。疲れるのも当然だろう。何度か休憩を挟んだとは言え、基本的には同じ姿勢のまま座り続けていたのだ。その上で訪れた女性達の相手をしなければならない。


肉体的にも精神的にも、その疲労具合は窺い知れるものである。しかし此処は他国の王城。そう簡単には休ませて貰えない。ルークであれば甘やかす所であるが、そのルークもいないのだ。


ーーコンコン


「失礼します。お食事のご用意が整いました。国王陛下と王妃様がお待ちです。」

「わ、わかりました〜。」

「すぐに参ります!」


部屋でダラダラする事も出来ず、メイドに連れられて夕食の席へと向かうセラとシェリー。足取りの重い2人は、全く同じ事を考えていた。


((あと2日の我慢!))


与えられたノルマを達成し、淡い希望を胸に抱きながらも用意された席に着く。ルークの料理程ではないにしろ、流石は王宮料理であろうか。次々と運ばれて来る料理に舌鼓を打っていると、国王が思い出したように口を開いた。


「食事中にすまないが、時間も限られているのでな。ここでお2人に伝えなければならない事がある。」

「「?」」


何の前触れも無く発せられた言葉に、2人は料理を口に含みながら国王へと視線を移す。間違いなく発言しなければならないであろうと判断した2人は、慌てて水で口の中に広がった料理を流し込もうとした。しかし国王はニヤリと笑い、タイミングを見計らって続きを口にする。


「最終的な面談希望者だが、2万人となった。」

「「ぶーーーーっ!!」」


セラとシェリーの口から、盛大に水が噴射される。美しい虹を描きながら、向かう先は対面に座った2人の女性。第3王女と第4王女である。


「ちょっとー!」

「きゃあ!!」


降り注ぐ水を躱しながら、第3王女と第4王女が文句を言う。しかしシェリーは水が気管に入ったのか、咳き込んでしまって言葉にならない。比較的無事だったセラが、シェリーの分まで頭を下げる。


「ごほっごほっ!」

「も、申し訳ありません!!」


非常に失礼な事をしてしまった2人だが、王妃からの助け舟によって事なきを得る。


「アナタ?お客様に悪戯をするのは関心出来ませんよ?」

「むぅ・・・スマン。隙だらけの者を見るのは久しぶりだったのでな。セラ王妃、シェリー王妃・・・すまなかった!!カルディアとイルティナも悪かったな。」

「全く・・・。」

「お父様にも困ったものですわ。」


メイド達によって料理が取り替えられるが、事態を飲み込めないセラとシェリーが呆然としていると、第3王女カルディア、第4王女イルティナによって説明を受ける。


「お父様はとにかく悪戯が好きなのよ。みんな慣れちゃったから引っかからなくなってね。」

「事情を知らない他国の方が標的となるんですの。ですから、お気になさる必要はありませんわ。」

「は、はぁ・・・」


何だか納得のいかないシェリーが声を上げるのだが、セラは国王の発言に意識が向いていた。


「それよりも先程の人数ですが・・・」

「ん?あぁ、2万人となった理由か。それは簡単な事だ。ほぼ全ての未婚女性が手を挙げただけの話。」

「陛下は最終的にとおっしゃいましたが、実はこれも正確ではありません。正しくは最終的な『王都の希望者』は2万人です。」

「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」


王妃の説明に、国王以外の全員が呆気にとられた。王女達や、執事にメイド全員である。つまり、王都だけで2万人。ドラゴニアという国全体の希望者となると、最早正確な数を捉える事は困難なのである。


「流石に国中の希望者を集めるのは不可能だしな。王都以外については、面談が終わるまでに考えるとしよう。」

「最短でも20日。ならば休みを挟んで1ヶ月、という事で如何かしら?」


休み無しで20日連続は無理だと思ったセラとシェリーは、悩む事無く何度も首を縦に振る。こうして問題を先延ばしにし、重苦しい雰囲気で食事を終えた2人は、寝室のベッドで愚痴を零す事となった。



「だんちょー、もう無理ですよぉ。」

「弱音を吐いてはいけません!」

「こうなったら、カレン様に助けて貰いましょうよ〜。」

「ふむ・・・シェリーの言う事は最もですね。」


シェリーの提案に乗る形で、セラは魔道具に魔力を込める。暇を持て余していたのか、すぐにカレンの反応があった。


「セラですか?一体どうしました?」

「じつは・・・」


時間を掛けて詳細な説明を行うと、カレンからは予想外の返答があった。


「それは・・・私にはどうする事も出来ませんね。頑張って下さい!」

「あ、ちょっと!カレン様!!」

「・・・切れた。」

「・・・切れましたね。」

「「・・・・・。」」



敢えて言おう。セラとシェリーは、相談する相手を間違ったのである。幾らカレンが頼りになると言っても、所詮は戦女神。多少は頭もキレるのだが、戦う事以外ならば、スフィアやルビアの方が数倍頼りになるのだ。


「ちょっと、だんちょー!どうするんですかぁ!!」

「う、うるさい!私だって予想外なんです!!」


カレンに逃げられた事で、動揺したシェリーがセラの両肩を激しく揺さぶる。動揺を隠せないセラは、されるがままに上半身を前後に揺らすだけであった。



脳筋の集まりなど、所詮こんなものである・・・。

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